92話:『五芒星《ビッグファイブ》』:強欲のグリード

 管理者:バンズバースは言った。

 先輩(自称):イヴァンを掴んだ「紫色の巨大な手」が、『五芒星ビッグファイブ』:強欲のグリードだと。

 それを聞いて驚いた表情のボクを見て、バンズバースは「チッ」と舌打ち。


「その様子だと、貴様等が仕組んだ事でもないらしいな」


「当たり前でしょ。強欲のグリードなんか初めて見たし……っていうか、イヴァンは無事なの!?」


「さぁな。それを知りたきゃ奴に聞きな、ッと!!」


 巨大な手がバンズバース目掛けて直進。

 指を開いて掴もうとするも、対するバンズバースは“影の斧”に変身。

 カウンターで真っ二つに切断しようと試みるが――



 バンッ!!



 バンズバースの影を、巨大な掌が問答無用で押し潰す!!


「ぐッ!?」


 短い悲鳴を上げ、影から元の姿に戻ったバンズバース。

 掌から逃げようと必死に藻掻くも――ガシッ。

 先のイヴァンと同様、今度は完全に掴まれた形となる。


 彼の“魂乃炎アトリビュート”:『影法師ザ・シルエット』であれば、影となって脱出出来そうなものだが……既に意識を失ったのかバンズバースはぐったりしたまま動かない。


(嘘ッ、イヴァンに続いてバンズバースまで!?)


 つい先程まで、この戦場での最大戦力だった二人が呆気なく無力化。

 このままではイヴァンの生死を危ぶむどころか自分の生死が危うい。


「何だ何だ!? 何事だ!?」と、動けぬロンズは騒ぐだけ。


 ボク以外で唯一自由に動ける海鱗シーガ族のリョーガは――


「ざけんなッ、『五芒星ビッグファイブ』なんか相手出来るかよ!! 店に来たって入店お断りだぜ!!」


 スケートの様に地面を滑って呆気なく逃亡。

 そのまま建物の陰に消え去ろうとしたが……。


「ぶっ!?」


 何かにぶつかって転倒。

 ボクの位置からは建物に隠れて見えないが、どうやら相手は人間だったらしい。


「おいコラッ、何処見てんだテメェッ――って、う、うわぁぁあああああ!?」


 啖呵を切ったリョーガが何故か驚愕。

 慌ててこちらに方に引き返してくるも、その背後に現れた人物を見てボクの背筋がゾッと凍る。


(あ、駄目だあの人は……生き物としての次元が違う)


 初見でわかった。

 “彼”を見たのは初めてだけど。

 それでも、彼がイヴァンやバンズバースを戦闘不能に追い込んだ人物だと――紫色の巨大な手の持ち主だと一瞬で悟った。


 全身に黒い包帯を巻いた男で、身長は3メートル程。

 確かに大きいけれど、4メートル級のロンズよりは小さい。

 これまで倒してきた敵の中にもこのくらいのサイズは居たし、新世界『AtoA』においては特筆すべき大きさではない。


 加えて、とにかく「細い」という印象に尽きる。

 脂肪や筋肉がほとんど無いのか、「黒く塗った骸骨」と見間違えてもおかしくない程に細い身体だ。

 武器の1つも見当たらないし、普通なら恐れる方がどうかしている相手に見えるが……。


「おいッ、逃げろ黒ヘビ!! 奴はマズいッ」


「うん、マズい相手だってのはわかるよ。でも……(多分逃げても無駄だと思う)」


 ボクは既に諦めた。

 それ程までに次元が違う。

 格上とかいうレベルを軽く超えているのだ。


 その感覚は恐らくリョーガも持っていた筈だが、それでも彼は「逃走」を選び――



 貫通ドスッ



 ――背中から「拳」で貫かれた。


「……え?」


 恐らく、リョーガは何が起きたのか理解出来なかっただろう。

 遅れて理解したボクの視界に映るのは、先程までボクの前に居た「黒い包帯男」が、いつの間にかボクの後ろに居たこと。

 そして、逃走を図ったリョーガの身体を、背後から拳で貫いたことだけ。


「リョーガ!!(アレは、もう助からない……ッ)」


 ほぼ即死に近い。

 突如現れた理不尽な「死」を前に、彼の最期の言葉は、理解の及ばぬ疑問符付きの一文字だけ。

 余りにも呆気ない人生の終わりだが、それを悲しむ時間も、リョーガの死を悼む時間もボクに許されていない。


 抜きズボッ

 リョーガの身体から腕を引き抜く「黒い包帯男」。

 その血にまみれた細い手には、これまた血まみれの「心臓」が握られていた。



「コイツは“普通の心臓”か……なら、お前はどうだ?」



「ッ~~!!」


 開口一番の台詞としては、今まで出会った中ではコイツが一番狂っている。

 酷く枯れた低音の声は聞き取り辛く、出来ればボクの聞き間違いであることを願いたいけれど、そんな願いが叶う人生であれば、ボクの人生はこうなっていない。


(やらなきゃ、やられる)


 四の五の言ってられる状況ではない。

 あわよくば見逃してくれるのではないかという、そんな淡い希望はリョーガの死で否定された。


 ボクの本能が――生存本能が告げている。

 最大級の警報と共に、例えこの後に動けなくっても、ここは“奥の手”を使わざるを得ないと。


(動けなくなるリスクなんて、こいつの前では意味を成さない。出し惜しみしたら殺されるだけだ……ッ)


 格上を越えた次元の違う相手でも、何もしなければ無様に死ぬだけ。

 そんな事は許されない、絶対に。

 そんな事の為に脱獄した訳ではない。


 既に成し遂げた『ジャック・A・バルバトス』への復讐――アレはまだ始まりでしかないのだ。

 不幸なボクの人生を生み出したのは、『五芒星ビッグファイブ』:暴食のグラトニー。

 故郷の皆を、おじいちゃんを殺した奴の首を喰い千切るまで、ボクに死ぬ事は許されない。


 例え、それを許してくれる相手でなくとも。

 ここで動かなければ後悔しか残らない。


(全力を出すッ、ボクの……力の限り全て!!)


 出し惜しみは愚の骨頂。

 あらん限りの力を振り絞り、「地獄の熱」を黒ヘビに込める。


 すると黒ヘビが“マグマの様に輝き”、何倍にも膨らんだ「地獄の大蛇」に変貌。

 触れるだけで溶かして燃やす、マグマの身体を持った黒ヘビを、振るう!!



「“地獄黒大蛇ヘルクロス”――」





 手合わせパンッ!!





「がッ!?」


 完全に意識の外側だった。

 急に現れた「紫色の巨大な手」に“左右から押し潰され”、呆気なく思考停止。

 黒ヘビを振るうことなく地面に突っ伏したボクは、暗闇の中に落ち行く思考を最後まで止めることが出来なかった。



 【4章】(完)

 ――――――――――――――――

*あとがき

 これにて【4章】は完結となります。

 ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。


 続けて【5章】が始まる予定ですので、「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

 お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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