90話:格が違う

(くそッ、マズいマズいマズいッ、普通にマズい!!)


 管理者:バンズバースの放つ斬撃が、ボクとリョーガのわき腹を抉った。

 致命傷の一撃ではなかったものの、苦痛で顔が歪むのは避けられない。


「チッ、厄介なおっさんだな。おい黒ヘビ、どうするよ?」


 リョーガもお手上げなのだろう。

 堪らずこちらに尋ねてくるも、正直な話、ボク等の勝機は暗闇で目隠しされたレベルで見えてこない。

 ここは戦闘離脱が最善手だろうが、バンズバースを倒さない限り前に進めないし、かと言って後ろに逃げても振出しに戻るだけ。


 歯を食いしばるギリリ……


 これは痛みか、それとも悔しさによるものか。

 ボクの表情をどう読み取ったか、バンズバースが今一度“魂乃炎アトリビュート”を胸に灯す。


「そろそろ理解出来たか? ガキがどれだけイキったところで本当の強者には敵わねぇんだよ。“魂乃炎アトリビュート”の相性すらも凌駕するのが――」



「後輩ッ、光だ!!」



「ッ――(この声は……!?))


 確認している暇は無い。

 言われるがまま、大穴を照らす為に“爆炎地獄”を放った――直後。



「“弾幕磨球スフィアーズ”」



 無数の細かい弾丸ガガガガガッ!!

 ボク等の背後から放たれた弾丸が、バンズバースを狙い撃つ!!


「ぐッ!?」


 爆炎の光で影になり損ねたか、弾丸を喰らった彼が苦痛に顔を歪める。

 と言っても、掠めた弾丸が幾つかの“擦り傷”を生み出しただけで、ほとんどは“躱した”――もしくは“その身体で受け止めた”形となる。


「おいおい嘘だろ? 鉱石ゴーレム族でもあるまいし、どれだけ頑丈なんだよ?」


 馬鹿げたタフさにリョーガも驚くが、プラスマイナスで言えばこちらのプラスか。

 チラリと振り返った先には、見慣れた先輩(自称)の姿がある。


「イヴァン、まだ生きてたんだね。おかげで墓石を買わずに済んだよ」


「馬鹿野郎、勝手に俺を殺すんじゃねーよ。奴が逃げてお前等を追っただけだ」


 そう強がる彼の額には、真っ赤な血がこびり付いている。


(イヴァンでも苦戦する相手……本当に逃げ切れるのか?)


 という不安が表情に出たのだろう。

 ボクの視線に気付き、こちらが聞く前にイヴァンは答えた。


「なに、ちょいと掠っただけで見た目ほどの深手じゃねーよ。――だが、流した血に相応しいお礼くらいはしておかねぇとな」


 後半はボクではなく、バンズバースに向けたモノ。

 対するバンズバースもまた、ギロリッとイヴァンを睨み返す。


「まだ俺の邪魔をするか。やはり、貴様を殺さないことには終わらないようだな」


「へへっ、だったら永遠に終わらね-なぁ。俺を殺す? 叶わない夢を見ても儚いだけだぜ」


「儚い夢を見ているのは一体どちらだ? 現実が見えないガキは、そろそろお寝んねの時間だろうが」


「お~、そうかい。だったらお前の為に子守唄でも歌ってやらないとな」


 売り言葉に買い言葉。

 二人共に相手を挑発するのが好きらしく、バチバチッと交錯する視線の火花が見えそうな程だ。


「全く、挑発合戦とか二人とも子供だね」


黒ヘビおまえに言われたら終わりだな」


 隣で「やれやれ」とリョーガが呆れる――その仕草がゴング代わりか。



 衝突ガキンッ!!



 互いに同じタイミングで仕掛けた。

 イヴァンとバンズバースの戦闘が始まるも、ボクに出来るのはせいぜい二人の動きを追うことだけ。

 下手に近付けば巻き込まれるし、足手纏いにしかならないだろう。


(動きの次元が違う。コレが二人の本気……ッ)


 “魂乃炎アトリビュート磨球スフィア”を使い、壁や地面を球体に変えて、それを攻撃にも防御にも使うのがイヴァンの基本的な戦闘スタイル。

 大穴の中だからか多少なりとも窮屈そうな動きではあるが、逆に言えば全方位に「使える素材」があるとも取れる。

 

 一方のバンズバースは、ボクの“爆炎地獄”を――そこから生み出される「光」を警戒しているのか、“魂乃炎アトリビュート影法師ザ・シルエット”は今のところ鳴りを潜めている。

 イヴァンの球体攻撃に肉弾戦で応じているが、“魂乃炎アトリビュート”も無しにイヴァンと渡り合っていること自体が異様か。


 ――認めよう。

 元より認めていたけれど、やはりこの2人は格が違う。


(ボクが足手纏いになる戦いとか、『Ocean World (海洋世界)』に来た時は想像もしていなかった……)と、感傷に浸っている場合ではない。


「何してるッ、さっさと逃げろドラノア!! それとホスト野郎ッ、これは『闇砂漠商会』への“貸し”だからな!!」


 格の違いに“あてられた”か、流石にボーっとし過ぎたらしい。

 イヴァンの怒鳴りを受け、慌てて走り出したボクに少し遅れて。

 何とかバンズバースの横を通り抜けようと、海鱗シーガ族のリョーガも走り(滑り)出すが、タダで見逃す相手ではない。


「逃がすかガキ共!!」


 蹴りの斬撃!!

 それを阻む“壁の球体”!!

 堪らずバンズバースが舌打ちする。


「邪魔するなイヴァン!!」


「はい、そうですかと言うとでも?」

 疲れを隠せぬ顔で、それでもニヒルに笑い。

「全力で走れ!! 時間稼ぎはせいぜい数秒だ!!」


 ボク等に指示出し後、再びの激しい戦闘。

 イヴァンを以てしても余裕の無い状況だが、その数秒のフォローで十分。

 バンズバースを抜き去って彼に背を向けることになるが、背中を預かるイヴァンが居れば問題無い。


 後はこのまま大穴の出口へ向かうだけだが、横を滑るリョーガは悔しそうに唇を歪める。


「ここが水場なら俺の独壇場だったのによぉ……大した見せ場も無く退場とか、マジで最悪だぜ」


「リョーガ、落ち込んでる暇は無いよ。大穴を抜けて終わりじゃないからね」


「ふんッ、テメェに言われるまでもねぇ。問題はこの先だって言いたいんだろ?」


 改めて整理するが、今回の脱出劇は3つのフェーズに分れている。


 フェーズ1:ステージからの脱出は既に完了。

 今はフェーズ2:空島『移動型闘技場:セイレーン』からの脱出途中。

 大穴の外は“空島の僅かな外周部”があるのみで、この空島『移動型闘技場:セイレーン』からの脱出は、そのまま遥か下の海へ墜落することを意味している。


 ボクの記憶が正しければ、『血婚祭典ブラッディフェスタ』が始まる前に海面から50メートルほど浮き上がっていた筈。

 つまり、大穴を抜けたボク等の行き着く先は――


「下は“海”だぞ黒ヘビ、テメェ泳げるのか?」


「犬かきだったら自信あるよ。あっでも、今はこの右腕だから、半分は“ヘビかき”になるのかな?」


「知らねぇよ!! 結局泳げるのか、泳げないのかどっちなんだ?」


「それで言うと、泳がないで済む様に“飛ぶ”んだよ。リョーガ、出口で大きくジャンプして」


「はぁ!? 何言ってんだテメェッ、正気か!? 鳥にでもなったつもりかよ!?」


「いいから、とにかく出来るだけ高く跳んで。ホストなんでしょ?」


「跳ぶのにホスト関係ねーだろ!!」

 叫び、リョーガはガシガシと頭を掻く。

「あぁもうッ、海で溺れ死んでも知らねーからな!!」


 いや、大丈夫だ。

 このまま海に落ちて溺れる展開にはならない。


(イヴァンの時間稼ぎはせいぜい数秒……それはつまり、数秒後にはイヴァンも“逃走”に切り替えるってことだ)


 それを信じて、大穴の出口で跳躍。

 早くも懐かしく感じる光を浴びたボクとリョーガが、空中に放物線を描きかけた――直後。



 轟音!!



 大砲が撃ち出されたような音が響き、背後から“大穴サイズの大岩”が飛んで来た!!

 高く飛んだボク等の放物線と丁度ぶつかる位置で、コレがボク等を狙った「攻撃」であれば命取りだが、大岩の上に自称先輩の姿が見えれば話は別。


「死にたくなきゃ乗れッ、料金は後払いにしといてやる!!」


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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