89話:大穴の攻防

 正に「圧巻」の一言。

 鉱石ゴーレム族の大男:ロンズの放った拳で、観客席に大穴が開いた。


 大穴の奥には『Ocean World (海洋世界)』特有の「空のドーム」が見える = 完全に外まで貫通したのだ。

 コレには驚きを通り越して、海鱗シーガ族のリョーガも呆れるレベルに至っている。


「おいおいマジかよ、人間に生み出せる破壊力じゃねーだろ」


「それはボクも完全に同意。でも、コレで逃げ道が出来た。ナイスだよロンズ――って、どうしたの!?」


 褒めたのも束の間、大穴の前でロンズが倒れている。

 攻撃を受けていた様には見えなかったが……とにかく何事かと声を掛けると、背中を地に付け、天を仰いだまま彼は叫んだ。


「極限まで全力を出したッ、俺はもう動けんッ!! そういう訳で運んでくれ!!」


「えぇッ!?」「何ィッ!?」


 リョーガと共に驚き、一瞬迷う。


(逃げ道は既に出来たんだ。動けないロンズは足手纏いでしかない、けれど……)


 ただ、その功労者を置いて行くのは流石に仁義に欠けるだろう。

 ここまで彼を騙してきた後ろめたさもあり、愚直なロンズを捨て置く判断は出来なかった。


「おいおい黒ヘビ、そのデカブツを運ぶつもりか?」


「うん。まだ役に立つかも知れないでしょ?」


「ったく、戦場での優しさは身を滅ぼすぞ?」


「その薄情さが身を滅ぼすこともあるかもね」


 岩の様な脚に黒ヘビを巻きつけると、リョーガが苦い顔を向けて来る。

 彼はあっさりロンズを見捨てるつもりだったらしいが、この判断が功を奏するかどうかは、未来を迎えないことにはわからない。


「ロンズ、乱暴に運ぶからアチコチぶつけると思うけど我慢してね」


「構わん!! 逆にぶつかった相手を痛がらせてやるさ!! 世界最強の漢を目指す世界最強の俺は、動かなくても世界最強だ!!」


「はいはい、それだけ叫べるなら大丈夫そうだね」


 これ以上の心配は無意味。

 先ほど無力化した管理者達が態勢を立て直す前に、さっさと大穴を通って逃げるが勝ちだ。


「おいッ、黒ヘビ達が逃げるぞ!!」

「誰か追える奴は居ないのか!? 逃がしちまうぞ!!」

「無茶言うなよッ、追いついたところで相手は億越え3人だぞ!?」


 先の破壊を見て心が折れたか。

 無事だった管理者達が騒ぎ立てるも、実際に追って来る者の姿は見えない。


 このタイミングを逃す手はなく、滑る様に移動するリョーガを先頭に。

 ロンズを乱暴に引き摺りつつ、出口を目指して大穴を駆ける!!


 距離にすれば40メートルも無い直線。

 あっという間に出口へ辿り着く――筈だったのに。


「ぐッ!?」


 先頭を走っていた(滑っていた)リョーガが、突如として吹き飛ばされた。

 押し返される形でボクの方に飛んできて、受け身を取って着地した彼が顔を上げた先、大穴の中間地点に“真っ黒い影人間”が見える。


「アレはバンズバースか!? イヴァンはどうしたんだ……?」


 いや、考えている暇は無い。

 相手が誰であろうと、大穴の通行を邪魔するのなら排除する以外の手は無い。


「ロンズ、“使わせて”貰うよ」


「ん? おう、よくわからんが使ってくれ!!」


 承諾は得た。

 ここまで引きずって来たロンズを、黒ヘビの力で前方に送り出す。

 一気に、一瞬で、出来る限りの速度を出して。



 “黒蛇クロノ巨漢鉱石族ロンズホウ



 人間大砲ビュンッ!!

 頑丈なロンズを砲弾として撃ち出すものの、影人間はすぐさま形を変えて「巨大な鉄槌」となる。


「ッ!?(アレはマズいッ、ロンズの腹筋を砕いた攻撃だ……!!)」



 “爆炎地獄ばくえんじごく



 ドンッ!!


 咄嗟に爆炎を放ち、一瞬の光で影が消滅 = 巨大な鉄槌も消滅。

 形を変えることが出来なくなったのかバンズバースが姿を現すも、ヒョイと大砲(ロンズ)を避けて直撃とはならない。


 結果、ぶつかる相手が居なくなったロンズは、大穴を通過してそのまま外に飛び出し、それを尻目にバンズバースはこちらを睨む。


「……地味に厄介だな。普通に地獄の熱を使いこなしてやがる。地獄の鬼族でもあるめぇし、一体どういう了見だ?」


「さぁね、それは企業秘密かな」


 というより、どういう了見かはボクも知りたいくらいだ。

 今のところ、よくわからないまま地獄の熱を扱ってるけど……まぁそれは今考えることではない。


「アンタの“魂乃炎アトリビュート”、『影法師ザ・シルエット』だっけ? それとは相性が良さそうだし、このまま諦めてボク等を逃がしてくれない?」


「断る。この俺が“魂乃炎アトリビュート”に頼り切った雑魚共と同じに見えるなら、まずはその腐った目をどうにかしろ。何なら、腕の良い医者を紹介してやろうか?」


「ハッ、大した自信だな」とは海鱗シーガ族:リョーガの言葉。

 先ほど飛ばされた彼もすぐさま態勢を立て直し、ボクと並んでバンズバースと対峙する。

「こっちは2人でアンタは1人。億越えの賞金首2人を同時に相手出来るのか?」


「おいおい、躾がなっちゃいねぇな。質問への返事は――『はい』か『イエス』だろうが!!」


 バンズバースが駆ける!!

 “魂乃炎アトリビュート”は使わず、己が身一つで突っ込んでくるが、2対1なら対処は容易、とはならない。


「“人間包丁にんげんぼうちょう独楽こま”」


 バンズバースの回し蹴り。

 そこから放たれる全方位の斬撃!!


(速いし、重いッ。花嫁の斬撃よりも断然強い!!)


 ナイフで受けるも、せいぜい弾くのが精一杯。

 まともに斬撃で撃ち合いしても、ボクに軍配が上がる未来は見えない。


「“人間包丁にんげんぼうちょう斜め十字ななめじゅうじ”」


「“美麗鰭ブレイブ”」


 交差クロスさせた手刀、そこから放たれる2連の斬撃。

 対するリョーガはヒレから放つ斬撃を返すが――斬ッ!!


「ッ!?」


 リョーガの斬撃は真っ二つに斬られ、慌てたリョーガは転がる様にバンズバースの2連撃を回避。

 堪らずキレ気味で大声を上げる。


「おいッ、何だこのおっさん!? 動きのキレがヤバすぎるだろ!!」


「そりゃまぁ、イヴァンが“相手するな”って言ってた相手だしね。今日ここに来た管理者の親玉だよ」


「マジかよ。こんな化け物が居るなんて聞いてねぇぞ」


 『血婚祭典ブラッディフェスタ』の途中まで水中に隠れていたリョーガ。

 彼のヤバさに今頃気付いたらしいが、とは言えボクも人のことは言えない。


(“魂乃炎アトリビュート”は使ってないし、2対1の状況なのに圧倒されてる……マズいね)


 避けようも無い大穴での攻防。

 接触するだけで深手を負いそうな肉弾戦。


 何とか致命傷を与えようとリョーガと共にバンズバースへ挑むも、残念ながら結果は芳しくない。

 敵も手を抜く理由はなく、隙あらば『影法師ザ・シルエット』も狙ってくる為、とにかく一瞬も気が抜けない。


(ロンズが居たら、3対1で戦えたのに……ッ)


 悔やんでも仕方ないが、10億の男を失ったのはデカい。

 まぁどのみち彼は動けなかったし、ボクとリョーガの2人で何とかする他ないけれど、とは言え決定打に欠けるまま、いつまでも捌き切れる相手ではなかった。


「うおらッ!!」


 力任せのゴリ押し!!

 バンズバースの足蹴りを2人でガードするも、そのガードを押しのけて彼が蹴りを決める。


「ぐッ!?」「がッ!?」


 蹴りに遅れて発生した斬撃が、ボクとリョーガの身体に命中。

 避けきることは敵わず、ボク等二人のわき腹を抉った……ッ!!


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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