88話:“極限《ウルトラ》:拳骨《げんこつ》パンチ”!!

 ステージからの脱出を目指し。

 湖を越える「橋」を渡り始めたところまでは良かったものの。

 その橋を激走する鉱石ゴーレム族の大男:ロンズが、「走っても向こう岸に辿り着かない」と叫ぶ。


「辿り着かないって、そんな馬鹿な」


 ロンズの背中から黒ヘビを放し、今度は自分の脚で走る――が、彼の言う通り、走っているのに向こう岸との距離が縮まらない。

 それは途中参加の海鱗シーガ族:リョーガも同じで、滑る様に走っていた彼が、スキーで止まる様にクイッと方向転換して急ブレーキ。

 警戒の目でジロリと周囲を見渡す。


「誰かの“魂乃炎アトリビュート”だな。所持者が近くにいる筈だ」


「だね」


 同意の返事を返すと、「何ッ、そうなのか!?」とロンズが叫ぶも、一旦無視。

 前に進む代わりに今度は後ろへ戻ると、背後にいた筈のリョーガとロンズが目の前に現れた。


「何だッ、黒ヘビが消えたぞ!?」


「後ろだよ」


「ぬっ!? いつの間に後ろへ移動した!? 俺の目でも追えなかったぞ!!」


「だろうね。ボクも二人の後ろに移動したつもりはなかったから。――つまり、結論から言うと、“この空間はループしてる”。そうでしょ?」


「だな」と今度はリョーガが同意。

 そのまま彼は、こちら目掛けて腕を振るう。


「“美麗鰭ブレイブ”」


 振るわれた腕、そのヒレから斬撃が生まれ、ボクのすぐ真横を通過。

 直後、斬撃が消えたかと思えば――


 激突ガンッ!!


 リョーガの背後にいた筈の、ロンズの背中に当たった。


「ぬっ!? 今度は斬撃が俺の後ろから出てきたぞ!? どういうことだ!?」


「チッ、“美麗鰭ブレイブ”の速さでも抜け出せないか。こりゃあ人間の速さじゃどうにもらなねぇな。おい黒ヘビ、お前ならどうする?」


 ロンズに当たったことを気にしないリョーガと、そもそも斬撃をものともしないロンズ。

 どちらも難ありな性格に思えるけれど、この場においては知性で優る方と話を進めるべきだろう。


「そうだね……まぁ時間があるならゆっくり調べたいところだけど、今そんな暇は無いし」

 と言う訳で。

「ロンズ、ちょっとこの橋を壊して」


「何ッ!? 壊すのか!? つまり、壊せばいいんだな!?」


「うん。世界最強の漢を証明する為に、今すぐ壊して」


「お安い御用だッ――“拳骨げんこつパンチ”!!」


 衝撃ドゴンッ!!


 彼の拳一発で、足元から橋が崩壊。

 支えを失くした足場が崩れるも、それが水没する前に、次々と足場(瓦礫)を渡って向こう岸を目指す。


 そして無事、ボク等3人が対岸の観客席に辿り着くと、ロンズが「うぉぉおお~~!!」と両拳を掲げた。


「本当に行けたぞ!! 黒ヘビッ、これはどういうことだ!?」


「ん~、まぁ普通に考えて、あぁいう系統の“魂乃炎アトリビュート”は大体エリア指定が必要だから、ループしていた橋を壊せば行けるかなって」


「なるほどッ、頭良いな!!」と喜ぶロンズの横で。


 海鱗シーガ族のリョーガはジロリと、ある一点を見据える。


「……おい黒ヘビ」


「うん、恐らく“あの子”だろうね」


 リョーガの言いたいことは口にせずともわかる。

 ボク等が降り立った観客席の近くに、小さくしゃがんでこちらの様子を伺っている少女の姿が――その胸に“魂乃炎アトリビュート”を灯す少女の姿があった。


 パッと見た感じは獣人族の少女:テテフと同じくらいの年齢で、明らかにこの場には似つかわしくない。

 モノクロの制服を着ているので管理者なのは間違いないだろうが、“背中に生えた小さな翼”はどういう訳だろうか?


(“天使族”……どうして『天国』の管理者が『Ocean World (海洋世界)』に?)


 そんな疑問を抱いたところで。

 こちらの様子を伺っていた彼女が“膝を着いて頭を下げる”。


「ご、ごめんなさいごめんなさい!! 沢山走らせちゃって申し訳ないです!! 私はやりたくなかったんですけど、命令でどうしてもやれって言われて……だ、だから殺さないで!!」


「………………」


 随分と面皮つらのかわが厚いお願いだ。

 人を貶めようとしたくせに、いざ自分が危なくなったら命乞い。

 コレが普通の無法集団アウトライブだったら遠慮なく斬っていたところだけど、相手が子供では切っ先も鈍る。


(まぁいい。疑問はあるけど、こんなところで時間を掛けても仕方がない)


 今回は見逃すけど、あくまでも今回だけだ。

 彼女が二度と「こんな舐めた真似」をしないように。

 その眼前に黒ヘビを伸ばし、彼女を丸呑み出来る程に大口を開ける。


「え? いやッ、やめて!! 本当にごめんなさ――」



 バクンッ!!



 ――彼女の頭を黒ヘビで“咥え”、噛むことはせずに告げる。


「何の覚悟も無いなら、二度とボクの邪魔しないで。わかった?」


 顔の見えないの頷きコクコクコクッ

 頭を咥えられたまま、彼女は懸命に首を振る。


 それでようやく黒ヘビの口を開き、彼女の頭を解放すると……失禁。

 彼女の足元がじわ~っと濡れて、天使族の少女は大声で泣き出したのだった。



 ■



「お前、見た目の割に容赦ないな~。あの子、命令されただけって言ってたのに」


 脱出のゴールは観客席ではない。

 最上階から外に出ようと上を目指して走り出すと、早速リョーガが先程の件を弄って来た――が、それに被せてロンズが大声を張る。


「おい黒ヘビ!! 既に橋を渡り切ったぞ!! ここからが脱出勝負ってことでいいんだよな!?」


「え? 何言ってるのロンズ、この空島『移動型闘技場:セイレーン』を出てからが勝負でしょ? それまでは協力するっていう約束だったよ。漢と漢の約束をもう忘れたの?」


「むッ、そうだったか!? そう言われたらそんな約束だった気がしなくもないな!! それじゃあ黒ヘビッ、引き続き協力して脱出するぞ!!」


「うん、よろしく頼むよ(って、嘘で誤魔化すのは流石にちょっと心が痛むね……)」


 騙される方が悪い、なんて言葉もこの世の中にはあるけれど。

 普通に考えて「騙す方が悪い」に決まっている訳で、ここまで純粋な馬鹿を相手にすると、否が応でも罪悪感を覚えてしまう。


(ここから無事に脱出出来たら、その時こそは本気で相手してみよう)


 10億越えの男に、ボクの力が何処まで通用するのか。

 ボクの本気がどのくらいのレベルにあるのか、その試金石とする相手に相応しいが、まぁそんな「未来の話」は今を乗り越えた先で考えればいい。

 何はともあれ、フェーズ1:ステージからの脱出は完了となるも、まだまだ先は長い。


「そこまでだ悪党共ッ、これ以上先に進めると思うな!!」


 観客席に辿り着いたら、当然ながら『不動煉獄隊ふどうれんごくたい』に扮していた管理者達がわらわらと集まって来た。

 並の相手なら軽く“いなして”終わりだけれど、殲滅に来た彼等とまともにやり合っていたらこちらの体力が持たない。


「ロンズ、一気に片付けるよ」


「おうよッ、雑魚共は黒ヘビに任せた!! 俺は“外までの道”を作ってやる!!」


「え……どういうこと?」


「いいから任せろ!!」


「わ、わかったよ」と戸惑いながらも。


「“爆炎地獄ばくえんじごく”!!」


「「「ぎゃぁぁぁぁああああッ!?」」」


 爆炎が野太い悲鳴を生み出し、立ち塞がった管理者達が一斉に吹き飛んで。

 そこに生まれた無人の空間に、ロンズが渾身の右拳を振るう。



「“極限ウルトラ拳骨げんこつパンチ”!!」



 圧・倒・的・破・壊!!!!



 隕石が落ちて来たかと錯覚してしまう程の衝突が走り、“観客席に大穴が開いた”。


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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