84話:『不動煉獄隊』

*まえがき

 前半は蜂蜜少女:パルフェ視点での話。

 後半でドラノア視点に戻ります。

 ――――――――


 ~ パルフェ視点 ~


 ドラノアが『血婚祭典ブラッディフェスタ』におもむき、予選の『鬼ごっこ』に参加していたその頃。

 観光客で賑わうビーチエリアの「人口ビーチ」の一画。

 その砂浜で小さなリュックを背負い、砂遊びをしていたパルフェ(5~6歳の姿)が空のドームをふと見上げる。


(ドラノア君、今頃『血婚祭典ブラッディフェスタ』に参加してるんだよね……。何か戦うっぽい感じの話してたけど、大丈夫かなぁ)


「パルフェさん? 浮かない顔ですがどうされましたか」


 隣から声を掛けて来たのは、大きなパラソルの下でビーチチェアーに座っていた褐色の肌を持つ背の高い女性。

 ダークエルフ族の給仕係:ロロで、彼女の問いにパルフェは曇った顔を返す。


「ん~、ちょっとドラノア君が心配で……大丈夫かなって」


御主人様マスターなら心配要りませんよ。私達の応援も必要無いと仰っていましたので――と言い切りたいところですが、実は私も心配です」


 パルフェに続いてロロも顔を曇らせ、「はぁ~」と深い溜息をつく。


「今回の『血婚祭典ブラッディフェスタ』には、複数の有力者が出ると聞いています。御主人様マスターにはイヴァンさんが付いているとは言え、何が起こるか正直不安です」


「だよねぇ。私達に来なくていいって言ったのも、何かあった時に足手纏いになると思っての事だろうし。無事に帰って来てくれればいいけど……」


 今度は「はぁ~」とパルフェが溜息を吐き、そして見下ろした視線の先。

 先ほど完成した「砂のお城」ならぬ「砂の隠れ家アジト:『蜘蛛の家スパイダーズハウス』(出来はいまいち)」の更に奥。

 そこには波打ち際で遊ぶ「獣人族の少女:テテフ」と、『闇砂漠商会』に所属する「鬼族の少女:鬼姫」の姿があった。

 楽しげな顔で「ワーワー、キャーキャー」言いながら走り回っている二人からは、まるでドラノアを心配する気持ちは見受けられない。


 そんな二人の楽し気な姿を見て、パルフェが幼い姿に似つかわしくない表情を浮かべる。


「あの二人は呑気だねぇ。ドラノア君を信頼してるのか、それとも全く気にしてないのか……。まぁ鬼姫ちゃんは別の組織だし、テテフちゃんはまだ子供だから仕方ないのかもだけど」


「見た目だけなら、テテフさんよりもパルフェさんの方が年下ですけどね。それにパルフェさんだって、昨日までは随分とはしゃいでいたじゃないですか。今日になってから急にテンションが落ちましたね」


「ん~、まぁ今日は流石にね。ドラノア君が強いのは知ってるけど、今この間にも戦ってるかもって思ったら……ねぇ?」


「……ですね」

 頷き、それからロロが問う。

「ところで、パルフェさんは随分と御主人様マスターの心配をなされるのですね」


「え、そうかな?」


「はい。『血婚祭典ブラッディフェスタ』にはイヴァンさんも同行されているのに、あまり心配されている感じがしないので」


「そ、そんなことはないけど……でもほら、戦うのはドラノア君だけみたいな話してたし。イヴァンはイヴァンで相当強いみたいだから大丈夫かなって」


「……それだけですか?」


「え?」


「本当にそれだけですか?」


 何を考えているのか、ロロの眼差しはやけに真剣。

 嘘を吐いている訳でもないのに、パルフェは何だか責められている様な気がして、それで彼女は胸の内を吐露する。


「なんて言うかさ……ドラノア君はね、ちょっと特別なの。好きとか嫌いとかじゃなくて、それを越えて特別なんだ。多分、ロロちゃんと一緒」


「私と同じ?」


「うん。私『Darkness World (暗黒世界)』で人攫いに遭ってさ、そこをドラノア君に助けて貰ったの。彼が居なかったら、私は奴隷オークションで売り飛ばされて、きっと想像もしたくない状況に陥ってた。そこから救ってくれたんだからさ、そりゃあ特別にも――ッ!?」


 パルフェの目が見開かれる。

 それからすぐに、彼女は“蜂蜜となって背中のリュックに隠れた”。


 結果としてボトッと砂浜に落ちたリュックをしゃがんで拾い、ロロが戸惑いの声をあげる。


「パルフェさん、急にどうされたのですか?」


「あっちあっち。あっちに“天使族の管理者”が居たの」


 リュックから触手の様に蜂蜜を出し、クイッと一点を示すパルフェ(蜂蜜)。

 その方向にロロが目を向けると、背中に白い翼を生やしたモノクロの制服を着た人物――天使族の管理者の姿があった。


「なるほど、確かに天使族の管理者ですね。本来なら『Heaven/Hell World (天国/地獄世界)』が管轄の筈ですが、どうしてこの『Ocean World (海洋世界)』に居るのでしょう?」


「もしかしたらだけど、私を探しに来たのかも」


「パルフェさんを? ――あぁ、そう言えば本来は天使族で、しかも今は家出中というお話でしたね。見つけたら報酬も貰えるとか」

 なるほどと一人頷くロロだったが、しかし彼女の中には新たな「?」が浮かぶ。

「今のこの姿はともかく、先程の“人型”の時も背中に翼は見当たらなかった様ですが……本来の姿に戻らないと駄目なのでしょうか?」


「あ~、多分それはあんまり関係無いというか。私の翼は幼い頃に成長が止まったみたいで、服で隠せちゃうくらいの大きさなの」



「そうなのか、ドンマイ!!」



「「わ!?」」


 驚いた二人の真横に、獣人族の少女:テテフが居た。

 大きくてフサフサな長い耳をピンと立て、モフモフな尻尾を左右に振っている。


「テテフさん、いつの間に……」


「アタシ抜きでコソコソ話してるから、コッソリ聞き耳を立てに来た。でも面白くないから戻る!!」


 二人の真面目な会話よりもビーチで遊ぶ方に天秤が傾いたらしい。

 言うや否や、鬼姫の待つビーチへ元気一杯に駆けてゆくテテフが放った、先の「ドンマイ」がパルフェを元気付ける言葉として正しいのかどうかはさて置き。


 その遠ざかる小さな背中を見送った後。

 ロロは天使族の管理者から見えない位置に、パルフェの入ったリュックをそっと置き直した。



 ■



 ~ ドラノア視点 ~


 パルフェ達が天使族の管理者を警戒していたその頃。


 花嫁と青鬼のコンビが去り。

 ボクの前に残ったのは、ゴツゴツな筋肉の肩をグルグルと回している鉱石ゴーレム族の大男:ロンズだけ。

 また彼と戦わなきゃならいのか、面倒くさいなぁ……と辟易していたら――事態が動いた。



『全員、その場を動くなッ!!』



 突如として響いたのは、スピーカー越しの野太い声。

 一体何事かと周囲を見回すその間に、観客の半分以上が、ステージ目掛けて“一斉に銃を構えた”。


 ―――――――――

*あとがき

血婚祭典ブラッディフェスタ』はここから本番となります。

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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