79話:純白の花嫁
*まえがき
しばらくは更新頻度が控えめになりますが、何卒お願い致します。
以下、本編。
――――――――――――――――
『移動型闘技場:セイレーン』
先程まで「海」に浮かんでいたこの島が、「空」に向かって浮上を始めたのは他でもない。
「――そう言えば、元々この世界の島って『Fantasy World (幻想世界)』の空に浮かんでたんだっけ?」
「あぁ、『Fantasy World (幻想世界)』では“空島”と呼ばれていた代物だ。それを輸入して海に浮かべていたが、特定の物質で“浮遊石”を制御すれば当然ながら空にも浮かぶ」
「へぇ~、凄いね」
事のカラクリがわかってしまえば、驚きはするも吃驚仰天とまではいかない。
ただ、自分が立つ大地が浮き上がるのは何とも不思議な感覚だ。
「……結構浮上するね。これじゃあ他のエリアからでも見えるし、もっとひっそり開催した方が良いと思うんだけど」
「ハッ、これだけの人間を集めてひっそりもクソも無いだろ。大々的にやる代わりに、町からの視線は完全シャットアウトって訳さ。まぁ管理者の目を気にせず戦えるのは悪くない」
「かもね。戦うのはイヴァンじゃなくてボクだけど」
チラリと視線を横に移すも、彼はヒョイと肩を竦めるのみ。
結局、先輩(自称):イヴァンは今回の出場を見送った。
『
それから50メートルほど浮き上がったところで、島の浮上は終了。
中央の巨大な建物に入り、他の連中に続いてしばらく廊下を歩くと、やがて“開放的な光景”がボク等を出迎えた。
「なるほど、闘技場って名前が付く訳だ」
廊下の先で開けた視界。
目の前に広がるのは、自然が生み出した「すり鉢状の地形」。
中央に直径100メートル程の巨大な湖(海?)があり、更にその中心には2つの橋で繋がる直径70メートル程の小島が見える。
それらを見下ろす様に段々の崖が周囲を囲い、半分は自然の岩場そのままに、もう半分は整備された客席が設置されていた。
半分天然・半分人口のスタジアム。
地形を有効利用(?)している為、建設費は結構安く抑えられているだろう――などと考えている場合ではない。
(あれ? 結構客席が埋まってる。まさかこんなに人が集まるとは……)
目算で2000人近く居るか。
具体的な人数を想定していた訳ではないけれど、予想の数倍は集まっている。
しかもその半分以上は、マント(?)が腰までしか無い変わったデザインの服を着用ていた。
「何あの服? 『Ocean World (海洋世界)』で流行ってるの?」
「馬鹿言え、アレは『
「『不動煉獄隊』……『
「あぁ、規律が厳しいことで有名な組織だ。まさか『
「大人数で応援しても、戦う人の実力が変わる訳じゃないのにね」
「それだけ本気で取りに来てるってアピールだろ。『
「ふ~ん?」
だとしても、ボクがやるべきことは変わらない。
立ち塞がる敵は全て排除し、マゼラン日誌の複製ページを手に入れる。
そのくらいの事が出来ないようでは、暴食のグラトニーへ復讐するのは夢のまた夢なのだから。
■
~ 『移動型闘技場:セイレーン』の客席にて ~
ざわざわざわ……。
客席に座ってまだ5分も経たない内に、自然と周囲がざわつき始める。
彼等の視線が注がれるのは、下の湖に掛けられた「橋」を渡る小太りな男性。
ボクから見て左手の橋をゆっくりとした足取りで進み、中央の小島に上陸した後、彼はハンドマイクを手にした。
『本日はお集まり頂きありがとうございます。『
コレが今日一番の盛り上がり、とはならない。
客席の反応は冷ややかなものだが、ここで盛り上がるとは頭取も思っていないのだろう。
焦ることなく、彼は懐から一枚の封筒を取り出す。
『約束通り、『
“暗転”。
頭取が声高らかに叫ぶや否や、一瞬にして暗闇が周囲を包み込む。
空のドームは変わらず海の淡い光を放っているのに、何故かスタジアムの内部だけが夜の如き光景に様変わり。
そして、その暗闇を打ち消す様に――“点灯”。
複数のスポットライトが右手側の「橋」を照らし、そこに居た“純白のドレスを身に纏う女性”を照らし出す。
ざわざわざわ……。
本日2度目のざわめきは、彼女のドレスが生んだざわめきに他ならない。
観客の目の色が変わり、隣の先輩(自称)は「ヒュ~」と安っぽい口笛を吹く。
「何だありゃ? “へそ出しのウェディングドレス”とは、これまた随分と思い切ったな。もうほとんど水着じゃねーか」
「……だね」
上は胸を隠しているだけ。
下の長いスカートも、前半分が大きく開いているデザインだ。
単にそういう服装が好みなのか、それとも花嫁としての「商品価値」を高める為の策略か。
どちらにしても、客席の男達が色めき立つのはある種当然の流れ。
「うひょ~、これまた色っペぇ姉ちゃんじゃねーか!!」
「複製ページは要らねぇから、あの女を嫁にくれねーかなぁ」
「あぁ、次世代ルーキー共には勿体ない女だぜ。今からでも参加するか?」
「ロンズやリョーガに勝てるならそれもアリだな」
本気なのか自虐なのか、彼等が下品な笑いを浮かべると――再びのスポットライト点灯。
直後、すぐさま観衆達が「異変」に気付く。
新たなスポットライトが照らしたのは、花嫁の橋とは反対側。
先程まで小太りの男が――『
ざわざわざわ……。
本日3度目のざわめきは、これまた当然ながら牛刀の男に向けられたもの。
両腕に鎖付きの枷を嵌めているが、その鎖は“断ち切られており”、彼の自由を奪っている様には見えない。
「おい、何だアイツは?」
「あの顔、何処かで見た気がするが……」
「もしかして、
ざわつく観客の疑問に答える様に、花嫁がスッとハンドマイクを手にする。
『この者は、出張先で私を拉致して身代金を要求しようとした愚か者です。
その1億の首:ホッグが、牛刀を手にしたまま叫ぶ。
「おい女ッ、俺をどうするつもりだ!? まさか『
『いいえ。彼方には本番前の“前哨戦”として、これから私と殺し合いをして貰います』
「……は?」
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