71話:黒い影とオールバックの大男
ボクが目を見開いたのは他でもない。
普通の人間と
二人共苦しそうに藻掻いているが、黒い影の強さが尋常ではないのか振り解くことが出来ない。
(何だアレ? バグ、じゃなさそうだけど……)
ザワザワと、流石に周囲もざわついている。
女性陣3人も何事かと不安げに見守り、先輩(自称)のイヴァンはキョロキョロと周囲を警戒。
その間に、二人の首を絞める黒い影は人の腕の形となり、それが徐々に繋がって最終的には大柄な人の形となった。
そして、黒い影が吸い込まれる様に消え――現れたのは、胸に“
身長は3メートル程とイヴァンよりも高く、尚且つ横幅もかなり広い。
酔いも醒めただろう酔っ払いの2人をそれぞれ片手で持ち上げたまま、男はギロリッと2人を睨む。
「今、この島は『
「「ん~~……!!」」
「……返事は?」
「「ん~~……!!」」
「返事は――『はい』か『イエス』だろうが!!」
勢い良く地面に叩き付けられた二人が、そのまま白目を向いて気絶。
首を絞められたままではまともな返事も出来ないだろうに……と、喧嘩した酔っ払い二人を可哀想に思う時間は無駄。
(この人、言ってることは無茶苦茶だけど相当強い。名のある賞金首か?)
今回の『
改めて大男への警戒度を上げたところで、彼はゆっくりと振り向き、その視線をボク等へ、特に先輩(自称)へと向ける。
「おぉ、誰かと思えばイヴァンじゃないか。まだ生きていたのか」
「それはこっちの台詞だな。“バンズバース”――何故お前がここに居る。『
珍しくイヴァンが睨む。
本気の目で、バンズバースと呼んだ大男を。
かつて二人の間に何かあった事は想像に難くないものの、その中身までを当てることは不可能。
ならばイヴァンに訊ねればいいと、そういう話でもない。
イヴァンが胸に“
当然、相手も警戒せざるを得ないかと思ったら、彼の胸から“
「辞めておけ、お前と戦うつもりはない。それにさっきも言ったが、今の期間は闘技場以外でのいざこざは禁止だ。『
「フンッ、随分と上から目線だな。管理者にでもなったつもりか?」
「管理者ではないが似たようなものだ。俺は今、『
「お前が町の治安維持? 何の冗談だ」
イヴァンが鼻で笑うも、笑われた大男:バンズバースは涼しい顔。
「そんな冗談を言えるくらい、『
「……『
「さぁな、その判断はお前に任せる。ただ、『
威嚇か、それとも懇願か。
先の言葉と共にイヴァンの瞳を真っ直ぐに見つめ、その後に大男:バンズバースは踵を返してこの場を去った。
――――――――
――――
――
―
「え、元々は仲間だったの?」
バンズバースが去った後、イヴァンが教えてくれた話にボクが目を丸くする。
が、彼は嫌そうな表情ですぐに訂正。
「仲間じゃねーよ、あんな奴。一時期、手と組んで賞金稼ぎをしてただけだ。最後は奴の裏切りで死にかけたけどな」
「ふ~ん? それって『
「まぁそんなとこだ。それより俺達は――」
「おい、それよりも肉だ。アタシに肉を食わせろ」
獣人族の少女:テテフによる唐突な主張。
ただ、イヴァンはそんなの知った話ではないという顔だ。
「腹が減ったならお前等で勝手に食えよ。俺達は『
「う~ん、まぁ仕事で来てるからねぇ」
だからゴメン。
と女性陣に左手で謝ると、すかさずロロが一言。
「
「あ、じゃあボクも食べようかな」
「……おい」
歩き出したイヴァンがボクを睨むも、睨まれたところで口の中は甘くならない。
大会のエントリーは明日まで大丈夫みたいだし、そう急ぐ必要も無いだろう。
という訳で。
女性陣3人とは早々に別れる予定だったが、別行動に移るのは早めの昼食の後と決め、ボク等は近くにあったレストランに足を踏み入れた。
■
~ レストラン:ゴリベージ ~
間接照明をふんだんに取り入れた少し薄暗い店内は、色取り取りのシンジケータ(計器類)が壁に設置されていた。
所々に用途不明のコントロールパネルも確認出来、コレだけ見ればどこぞの秘密結社かと思わなくもないが、実際は「潜水艇」をモチーフにしているだけ。
観光地だということもあり、店内は家族連れやカップル等でそこそこの賑わいを見せている。
「見て見て、窓に魚が泳いでるよ。水槽になってるみたい」パルフェが目を輝かせ。
「本当ですね。照明もあって凄く綺麗で、カップルが多いのも頷けます」ロロは珍しそうに店内を観察。
「窓の魚、あんまり美味しくなさそうだ。それよりこの店、肉はあるのか?」テテフは変わらず肉の心配。
ワイワイとはしゃぐ女性陣3人が窓際のテーブルに並んで着席。
ボクとイヴァン(辟易した顔)も同じテーブルに座ると、
「いらっしゃいませー。当店のご利用は初めてですか? お勧めは“深海パエリア”で、新鮮な深海魚を使った贅沢な一品をお手頃価格でご提供していますよ」
「おい、それに肉は入ってるのか?」とテテフが言及。
「え? あ、いえ。基本的には海鮮のモノしか入ってないですね」
「じゃあそれを肉に変えてくれ。美味い肉で頼む」
「えっと、それはちょっと出来かねますが……」
あまりの無茶ぶりに
ロロが「店員さんを困らせては駄目ですよ」とテテフを嗜め、メニュー表から肉料理のページを見つけることで場を収めた。
その後はテテフが無茶を言うことも無く、各々が好きな料理を注文(何だかんだでイヴァンもジンジャーエールを注文してた)。
しばらくするとテーブルの上が賑やかとなり、料理が来た順に食事を開始。
骨付き肉を頬張るテテフの幸せそうな顔を眺めていると、ボクが頼んだケーキ3種盛りセット(ドリンクはココア)も運ばれてきた。
そして、いざ食べようとフォークを左手に持ったところで。
ボクのケーキが横から“手掴み”で取られ、取った人の口にパクりと入る。
「あっ」とボクが声を上げたのは他でもない。
「やぁドラノア君、こんなところで逢うとは奇遇だね」
「……
ケーキを奪ったのは、額の左右に角が生えた見覚えのある“鬼族の少女”だった。
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