69話:女の子は景品じゃない

 ~ 隠れ家アジトへの帰還から1週間後 ~


 相も変わらず『Darkness World (暗黒世界)』にある隠れ家アジトの診察室にて。

 部屋の主である医者:クオリアが、ボクのお腹を見て呆れ気味に口を開く。


「ふむ……腹に空いた穴が17日で完治か。明らかに異常な回復力だな。これもバグの力なのか?」


「かもね。まぁ何にせよ治らないよりはマシでしょ」


「おいおい、軽く考え過ぎだ。意味不明な力で治るのも後が怖いぞ? 塞がった部分の肌は褐色に変わってるし、後々どうなるかわかったもんじゃない」


「だとしても、とりあえず動ければそれでいいよ。『五芒星ビッグファイブ』:暴食のグラトニーに勝つまで、そこまで身体が持てばその後はどうなってもいいから」


 そんなボクの決心に、彼女は1ミリも興味が無いらしい。

 アレコレ強弱を付けてお腹を触り、おもむろにカメラを取り出してお腹の写真を撮り、更には爪で削って褐色の肌の表面を削り、それを試験管に入れて保存。

 そこまでやったらボクへの興味は薄れたらしく、続けて隣に待機していた“少女”に医者:クオリアの視線が向けられる。


「――さて、こっちはこっちで面白そうなことになってるな」


「何も面白くないよ!! せっかく人間に戻れたのに、何でこんなに小っちゃいの!?」


 涙目で訴える隣の少女は他でもない、家出少女にして蜂蜜となったパルフェだ。

 1週間前、久々に見た彼女の姿は「半分蜂蜜/半分人間」みたいな姿で、このまま元の姿に戻れるのかと思いきや……今、ボクの横に居る彼女は「5~6歳」くらいの女の子。

 元々は「15歳」だという話なので、何故か10歳ほど若返った(?)姿になっており、これには医者:クオリアも苦笑いを隠せない。


「お前さぁ、若いきつねが入って来たからって、更に幼い姿になってどうするつもりだ? 更に下を行こうとするんじゃねーよ。若さを武器にするにも限度ってもんがあるだろ」


「べ、別に対抗してこうなってる訳じゃないし……何とかしてよ~」


「医者にも出来ることと出来ないことがあんだよ。テメェの実力不足はテメェで何とかするしかない」


 実力不足?


「クオリア、それってどういうこと?」


 この質問に、彼女はパルフェの足元を指さす。


「そいつの足元に、変身から取り残された蜂蜜があるだろ? それを全て変身に使えたら、恐らくは元の姿に戻れる筈だ」


「つまりは変身に使った蜂蜜の量で、パルフェの外見が変わるってこと?」


「あぁ。聞いた話をまとめると、男に銃で撃たれそうになった時に変身したんだろ? つまりは死の瀬戸際で、無意識の内に実力以上の変身をしてしまったんだ。ここから元に戻る為には、その変身を行えるだけの実力を身に着けるしかない」


「う~ん、なるほどねぇ」


 正直言って、何となくの予想は付いていたし、そんなに吃驚する話でもない。

 だからまぁ「頑張ってね」くらいの気持ちでパルフェを見守っていたけれど、話を聞いていた彼女はわなわなと震えるばかり。


「そんな……実力不足って、何をどう頑張ればいいの? そもそも“魂乃炎アトリビュート”って鍛えられるモノなの?」


「ん~、どうなんだろう? ボクは“魂乃炎アトリビュート”所持者じゃないからわからないけど……クオリアはどう思う?」


 “魂乃炎アトリビュート蜘蛛の巣アラクネ”。

 女郎蜘蛛に変身出来る彼女であれば、パルフェの質問にも答えられるだろうと期待したものの、彼女はヒョイと肩を竦める。


「さぁ? 私はどこぞの凡人と違って、最初から全部思い通りに出来たからな。特訓とか鍛えるとか、そういうのはよくわからん。人生において努力というモノをしたことが無い」


「くっ、天才はコレだから……!!」


 褒めてるのか貶しているのか。

 パルフェが悔しそうに睨むモノの、それで事態が好転する訳もなかった。



 ■



 ~ 翌日 ~


 組織の長:グラハム(魂の姿)により、久々に「全員招集」が掛けられた。

 毎度お馴染みとなった1階ロビーのソファ周りに集まると、グラハムが早速と口を開く。


「さて、日程も近づいて来たことじゃし、先日前もって話した“『Ocean World (海洋世界)』での嫁取り”について詳しく――」


「一つ、よろしいですか?」

 喋り出して早々、ボクの背後に立つメイド長:ロロがグラハムの言葉を遮る。

「お言葉ですが組織長、イヴァンさんはともかくとして、御主人様マスターにお嫁さんなど必要ありません。御主人様マスターの身の回りは私が全て行いますので、今回の任務はイヴァンさん一人に任せるべきです。それでももし、どうしてもと言うのであれば、不肖この私が――」


「これこれ、早とちりするでない。何も本気で嫁をめとれと、そう言っておる訳ではないのだ」


「ほう、では一体どういうことでしょう? 事と場合によっては、組織長に対して反旗を翻すことになりますが」


「そんなモノを翻すな。そして箒を構えるな。コレはあくまでも任務の一環じゃ」


「任務の一環? 是非詳しく聞きたいですね」


「だからそれを、今から話そうとしておったと言うのに……まぁよい」


 深い溜息を吐き、グラハムはまずこの言葉を口にした。



 『しかばね銀行バンク』と。



 グラハム曰く。

 明後日、闇社会の金融機関:『しかばね銀行バンク』が主催する祭りが行われるらしい。

 その名も――



「「「『血婚祭典ブラッディフェスタ』?」」」



「あぁ。闇社会の交流会はたまにあるが、『しかばね銀行バンク』か主催する今回の『血婚祭典ブラッディフェスタ』は訳が違う。名のある『闇の組織』が一堂に会する大会が執り行われ、優勝者には『しかばね銀行バンク』頭取の“愛娘”と、『マゼラン日誌』の“複製ページ”が与えられる」


「何それ、最低~。女の子は景品じゃないんだよ」


 怒ったのはローテーブル上のパルフェ(幼い姿)。

 親の意向で強制的に結婚させられそうになった彼女だからが、他の人よりも人一倍怒っているけれど、同じくローテーブル上のグラハムは涼しい顔。


「そんな正論がまかり通る世界なら誰も苦労はせん。使えるモノは使ってのし上がるのがこの世界じゃ」


「やな世界~」とブーイングするパルフェはさて置き。


「でもさ、わざわざ優勝者に娘をあげるってのが意味わからないんだけど。景品は複製ページだけでも良くない?」


「いや、むしろ逆じゃ。『しかばね銀行バンク』としては娘を嫁に出す方に意味がある。大会で優勝する程の強い組織と血縁関係を結ぶことで、組織力をより強固にするのが奴等の狙い。複製ページはその為の餌でしかない」


「ふ~ん? 複製ページの価値も人それぞれって訳か」


「『Z World (終焉世界)』を狙ってない連中からすれば、複製ページを持ち続けるのはリスクが高いからな」

 イヴァンが脚を組み替え、偉そうにローテーブルに乗せた。

「しかしジジイ、ページはともかく嫁を貰うってのはどうなんだ? 血縁関係を結ぶってことは、それは『しかばね銀行バンク』の傘下、もしくは同盟関係を結ぶってことだろ? 『秘密結社』が他組織とつるんでいいのかよ」


「なに、名目上の関係なら問題あるまい。裏切りたい時にいつでも裏切れる」


「……悪いジジイだな」とは獣人族の少女:テテフの呟き。


「それは誉め言葉として受け取っておく。それよりも、今回の任務に参加する面子についてじゃが――」


 ゴクリと、唾を飲み込む必要もない。

 『血婚祭典ブラッディフェスタ』に参加するのはボクとイヴァンの2人。

 他の面子を連れて行っても仕方がない、と思っていたら。


「イヴァンとドラノアは確定。他の者の参加は――“任意”じゃ」

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