【4章:『血婚祭典《ブラッディフェスタ》』編 (全25話)】

68話:迎え入れ

*まえがき

 この【4章】は「91話」を描く為にあります。

 少々先は長いですが、お時間ある時に読んで頂ければ幸いです。


 以下、本編です。

 ―――――――――


 ~ 領主:ピエトロとの激戦から7日後 ~


 爆発・炎上により焼け野原と化したゴミ山も、未来永劫燃え続ける訳ではない。

 未だに燃え広がり続けてはいるものの、既に燃え尽きた部分は爆音も聞こえず、最低限の安全は保障されたと判断。

 組織の医者:クオリア(女郎蜘蛛の姿)と、“魂乃炎アトリビュート”で空を飛ぶ獣人族の少女:テテフと共に、ボクはようやくゴミ山から脱出。


 そこから線路沿いに町を目指し、更に鉄道へ乗り換え。

 結果的に3日を掛けて、管理者の目が届かない『世界扉ポータル』を所持する『セーフティネット』へと辿り着いた。


「渡航費用は私が出すが、あくまで肩代わりするだけだからな? 狐っ娘の分はドラ坊の借金ってことにしておく」


 血も涙もないクオリアの台詞。

 今になって帰りの渡航費用も工面しておくべきだったと反省するも、こればっかりはしょうがない。


 かくして渡航費用「150万G」の借金(何故かクオリアの分までボクの負担となった)を背負いつつ、『Trash World (ゴミ世界)』から『Darkness World (暗黒世界)』へ渡航。

 出発地点となった『暗黒街:ロンダリング』へ無事に帰還し、そこから1キロ離れた位置に待機していた隠れ家アジト:『蜘蛛の家スパイダーズハウス』へ戻って来た次第となる。



 ■



「お帰りなさいませ御主人様マスター。それにクオリアさんと……こちらの可愛らしいお客様は?」


 『蜘蛛の家スパイダーズハウス』の扉を開けると、ダークエルフのメイド長:ロロがお出迎え。

 直後に、ボクの背後にいた獣人族の少女を見てキョトンと首を傾げたが、同じタイミングでボクも「ん?」と首を傾げる。


 ロロの背後に大きな水溜まりがあるかと思ったら、その水溜まりが「ぐにょぐにょ」と動いたのだ。

 更に、水溜まりの中心が大きく膨らみ、最終的には“人間の上半身っぽい代物”が出来上がる。

 そして――


「ドラノア君、おかえり~。久しぶりだね」


「………………(あぁ、パルフェか)」


 一体何事かと思ったが、思い出せば何てことはない。

 少し前に“魂乃炎アトリビュート”で蜂蜜化し、元に戻る方法を探していた天使族の家出少女だ。

 いつの間にか少しだけ人間っぽい姿になれる様になったみたいだけど、これに驚いたのはボクの背後に居た獣人族の少女。


「おい、何だアレ。泥人形が動いてるぞ?」


「泥人形じゃなくて蜂蜜だよ!!」とパルフェが叫び。


「何でもいいからさっさと中に入れ。私はシャワーを浴びたいんだ」


 クオリアがボクの背中を蹴り(到底医者とは思えない)、前に倒れかけたボクをロロが受け止める。


御主人様マスターもお風呂入ります? 私がお背中流しましょうか?」


(……騒がしいな)


 女三人寄ればかしましいなんて言葉もあるが、四人も集まればそれ以上。

 この騒ぎを収める為、そして任務の報告を行う為にも説明が必要だろう。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 場所はほんの少しだけ移動して、ロビーのソファにて。

 先の女性陣四人に加え、自称:先輩のイヴァンと『秘密結社:朝霧あさぎり』の長:グラハム(魂の姿)を交えて、ボクは任務の報告を行った。


 二席のソファの片側にボクとテテフが座り、反対側には脚を組んだ偉そうなイヴァンと、人の姿に戻ったクオリア。

 真ん中のローテーブルにはグラハムと、泥人形ならぬ蜂蜜人形(?)のパルフェが居て、ボクの背後にはロロが静かに立っている。


「――という訳で、何とかピエトロを倒して複製ページを手に入れたよ。今はクオリアに預けてる」


「あぁ、後で本物かどうか成分鑑定するが、まぁ見た感じは恐らく本物だろう。問題は文章の中身だが、『マゼラン日誌』の複製ページは少し特殊でな、全部揃わないと解読は不可能だと言われてる」


 クオリアがヒラヒラと見せる1枚の紙――複製ページ。

 そこに書かれた文字単体は問題無く読めるものの、並びが全くの意味不明。

 彼女曰く。


「全てのページを集めると、文字の並びが変わって『Z World (終焉世界)』への行き方が判明するんだ。いわゆるアナグラムってやつだな」


「ん~、複製ページを1枚手に入れたからって、すぐにどうこうなる訳でもないんだね。ちなみにページは全部で何枚あるの?」


「13枚、つまりは26ページ分だが、コレはあくまでもオリジナルの『マゼラン日誌』の話だ。複製ページはそれを数セット分作ったらしいから、流通してるページ数はもっと数が多くなる。既にその半数以上は『五芒星ビッグファイブ』が手に入れているみたいだが、まだ誰も『Z World (終焉世界)』には到達出来ていない」


「なるほど。先は長そうだけど、逆転のチャンスはありそうだね。――ちなみにイヴァンの方はどうだったの? 『Robot World (機械世界)』に行ってたよね?」


 ここで、ボクの前で偉そうに座っていたイヴァンに話を振ると、彼はつまらなそうに肩を竦めた。


「残念だが、俺の方は情報がガセだった。おかげで無駄に億越えの賞金首3人と戦う羽目になったぜ」


「え、億越えを3人も……? 勝ったの?」


「負けたように見えるか?」


 長い脚を組み替え、さも当然と胸を張るイヴァン。

 負けていたらここには居ないだろうし、ボクの愚問と言えば愚問なのだけど、ボクがムカつくよりも彼の方が思うところあったらしい。


「しかし後輩よぉ、流石にガキを連れて来るのはどうなんだ? ウチは孤児院じゃねーんだぞ」


「知ってるよ、秘密結社でしょ? 逆に知らないとでも思った?」


「馬鹿野郎、知った上で連れて来るからたちが悪いって言ってんだよ。そこの蜂蜜娘は金を持ってたし、メイド長は家事が出来るからまだいいが、こんな年端も行かないガキに一体何が出来るって――」



「ぐすっ……」



「ちょっとイヴァンさん、女の子を泣かせるのは如何なものかと」


 ボクの後ろで大人しく話を聞いていたメイド長:ロロが、珍しくイヴァンを言及。

 鼻を啜ったテテフを後ろから持ち上げ・まるで我が子の様に優しく抱きしめて頭を撫でる。

 更には――


「あ~、女の子泣かせた~。イヴァンって悪い人だったんだ~」


 ローテーブルの蜂蜜少女:パルフェが援護射撃。

 これにはイヴァンも「ぐッ……」を言葉を飲み込む他ないが、その流れをロロの胸の中から見ていたテテフの目に、涙は1つも浮かんでいない。

 何ならイヴァンから見えない角度で「ニヤリ」としてやったりの表情だ。


(テテフ、意外と打算的だな……)


 子供なのに――いや、子供だからか。

 大人の顔色を窺うのは案外自然と出来るもので、これは一周回って逆にイヴァンが可哀想な程。

 助けるわけじゃないけど、仕方なしに「まぁまぁ」とボクが割って入る。


「確かにテテフはこの中じゃ一番年下だけど、“魂乃炎アトリビュート”所持者だし何かしら役に立つと思うよ」


「あ? “魂乃炎アトリビュート”持ってんのかよ。それを先に言え。――おいチビッ子、見せてみろ」


「やだ。お前の言うことはききたくない」


「ぐッ、このガキ……ッ!!」



「テテフさん。貴女の今後の為にも、ここは“魂乃炎アトリビュート”を披露しておくべきですよ」



「そうか、わかった」


 鶴の一声ならぬ「ロロの一声」。

 自分の時とは余りにも違う対応に、イヴァンが再び「このガキ……ッ」と眉間にしわを寄せるが、それも数秒。

 テテフが胸に炎を、“魂乃炎アトリビュート”を発動させて2メートルほど「浮遊」すると、イヴァンの顔つきが変わえう。


「ほう、浮遊系の“魂乃炎アトリビュートか。まぁ悪くないな」


「何だお前、偉そうに」


「テメェの方がよっぽど偉そうだろうが、この糞ガキ」


 テテフの売り言葉を買ったイヴァンだが、年甲斐もないと思ったのだろう。

 その後はポリポリと頭をかき、「はぁ~」とあからさまな溜息を吐く。


「まぁいいさ。どのみち最終的に決めるのは俺じゃないからな。――おいジジイ、結局このガキを引き受けるのか?」


 ここまで沈黙を保っていた組織の長:グラハム。

 誰が何を言おうと決定権は彼にある訳だが、既にここまで進んだ話をひっくり返す気はないらしい。


「『Trash World (ゴミ世界)』へ置き去りにするならともかく、隠れ家アジトまで連れて来たなら追い返す訳にもいかんじゃろう」


「それでいいのかよ? 『秘密結社:朝霧あさぎり』は無駄に人数を増やさない方針だっただろ」


「ならば、無駄な人員ではなかったと、そう思う日が来ることを願う他あるまい。それにこの子の“魂乃炎アトリビュート”は……いや、それより二人共ご苦労。それから早速じゃが、お主等の今後の動きを話す」


(ん?)


 グラハムが言葉を飲み込んだ。

 その意味を問う前に、彼は組織の長として命を下す。


「イヴァンとドラノアには、10日後に“嫁取り”をして貰う」


「「……は?」」


「行き先は“大陸の無い海の世界”――『Ocean World (海洋世界)』じゃ」

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