57話:炎

 ~ 山頂の町:『ハッピータウン』にて ~


 無法集団アウトライブによる襲撃は、明日の朝でなく“今夜”。


 それに気づいて下のゴミ町から山頂まで戻って来たけれど、結果的には「遅かった」と言う他ない。

 パッと見ただけでも、無法集団アウトライブの数はゴミ町で始末した連中の倍以上。

 それら連中がアチコチで暴れまわり、手当たり次第に襲撃した家々から金品を強奪していた。


「奪え奪えー!! この街はもう俺達のモノだ!!」


「辞めてくれッ、せっかく商売が軌道に乗って来たところで――」


「うるせぇ!! もうテメェのモノじゃねぇんだよ!!」


「ぎゃあッ!?」


 無法集団アウトライブの足にすがり付いた男性が斬られ、それを見た者達が益々混乱する。

 街の警備兵もいるにはいるが、この数が相手では多勢に無勢か。


 ただただ悲鳴を上げる者。

 抵抗して返り討ちにあう者。

 信じられないと呆然とする者。


 無法集団アウトライブの襲撃に人々は動揺し、成す術無く奪われている。

 太陽が隠れた夜の街で、建物の灯りや街灯は、次々と「炎」に――「火災」へと変わっていた。


「お前等、こんな事してタダで済むと思うなよ!? この街にはピエトロさんがいるんだからな!!」

「そうだッ、お前等なんかピエトロさんがぶっ飛ばしてくれるはずだ!!」

「ピエトロさん助けてくれぇぇええーー!!」


 この街に残された唯一の希望を、人々は絶望の中で叫ぶ。

 希望である彼こそが、この絶望の元凶であることも知らずに。


「ギャハハハッ、来るといいな。そのピエトロさんって奴がよぉ!!」


 無法集団アウトライブは嘲笑う。

 全てを知っているからこそ、その男がここに現れないことを知っている。


 そんな余裕の表情を浮かべる連中の態度に、街の住民達は益々声を張り上げた。


「あの人は何処だ!? 早くアイツらをやっつけてくれ!!」

「ピエトロさんを見た奴は居ないか!? まだ屋敷で寝てるのか!?」

「俺が呼んでくる!! このままじゃあ街が全滅だ!!」


 住民の一人がピエトロのいる屋敷へと走り出す。

 傍目には勇敢にも見えるその行為だけれど、しかしボクは黒ヘビの右腕を伸ばし、彼の腕を引いて止めた。


「無駄だよ。この無法集団アウトライブはピエトロが招いた人達だから」


「はぁ!? そんな訳ないだろ!! ピエトロさんはこの街を守る英雄だぞ!!」


「そういう風に皆に信じ込ませていただけだよ。アイツは町の英雄を演じてた道化師に過ぎない」


「うるさいッ、いいから離せ!! 俺はこれからピエトロさんを呼びに――お前ッ、その右腕は何だ!?」


 今更ながらボクの右腕に気付いた男性。

 ただ、それを説明する義理も時間も無いし、そもそもボクが話したピエトロのことも、証拠が無くては彼も信じてくれないだろう。


 だから説得は諦める。

 代わりに、左手のナイフを構え、連続で振るう!!



「“鎌鼬かまいたち”:群れ」



「「「ぎゃぁぁああッ!?」」」


 連続で生まれた風の刃に、無法集団アウトライブの連中が斬り刻まれた。

 次々と倒れゆく無法集団アウトライブだけれど、流石に数が多いし距離もあるので一度では倒しきれない。


 ならば何度でもと、再びナイフを振るったところで――



「“脱線車輪ラインアウト”」



「ッ!?」


 斬撃:鎌鼬かまいたちが弾かれた!!

 そんな芸当をこなしたのは、その手に「列車の車輪」を持つ“制服姿の男性”。


「助かったぜディグリード!!」

「やるじゃねーか!!」

「車掌ッ、そのままチビガキを頼む!!」


 その男の登場に、無法集団アウトライブの連中は歓声を上げる。

 逆に、町の住民達は動揺を隠せない。


「ディグリードさんッ、コレはどういうつもりだ!?」

「何故そいつ等を助けた!?」

「それにアンタ、その車輪は一体……?」


 制服姿の男こと、列車の車掌:ディグリード。

 200~300キロはありそうな「列車の車輪」に腕を通し、風切り音を発しながら車輪を高速回転させている。

 常人には到底不可能な所業であり、その胸に燃えている“魂乃炎アトリビュート”による賜物なのは言うまでもない。


「ふぅ~」と息を吐き、ボクはその男を見据える。

「初めまして車掌さん。あーでも、会話は一度してるから初めましてって言うのも変な話か」


「『ドラノア・A・メリーフィールド』……写真の通り生意気そうな子供ですね」


「それほどでもないよ。ちなみに降参するなら今の内だけど、どうする?」


 ボクの提案に車掌はムッと眉根を寄せ、振り返る。

 そしてジロリと背後を一瞥し、脚を止めていた無法集団アウトライブに向けて口を開いた。


「何をボーっとしているんですか。モタモタしていると全員殺しますよ?」


「「「ひぃッ!?」」」


 おののいた無法集団アウトライブの連中が、我先にと手近な建物へ飛び込んでゆく。

 アレがただの飛び込み営業なら放っておくところだけど、目的が「略奪」だとわかっているならそういう訳にもいかない。


 車掌の背後にいる無法集団アウトライブを目掛け、斬撃:“鎌鼬かまいたち”を放つも――



「“脱線車輪ラインアウト”」



 また“弾かれた”!!

 彼の腕で高速回転する車輪により、ボクが生み出す風の刃が全て弾かれてしまう。

 何をするにも、まずはこの車掌をどうにかしなければならない。


(参ったね、思ってたより強いかも……)


 車掌:ディグリードの強さは、無法集団アウトライブの連中とは明らかに一線を画している。

 ピエトロ以外は有象無象の集団だろうと、そう考えていたボクとしては想定外の事態……とも言えない。


 よくよく思い返すと。

 そもそも彼は闇の世界に紛れた管理者3人を始末していた実力者で、1億の賞金首であるボクを殺そうとしている人物だ。

 それ相応の力を持っていて然るべきであり、甘く見ていたボクの認識が足りなかっただけだろう。

 

 尚、本当の意味で車掌の存在が想定外だったのは、むしろ街の人々か。


「おい車掌さんッ、何で無法集団アウトライブを守ってるんだ!?」

「それにさっき、そいつ等に指示を出していなかったか!?」

「一体どういうつもりだ!? アンタもグルなのか!?」


 次々と出て来る住民達の声に、車掌は「ふぅ~」とため息を吐く。

 そして。



「“轍車輪レーリング”」



 問答無用で、“街の人々に向け”車輪を放った!!


「「「うわぁぁ!?」」」


 高速回転する車輪が石畳を削り、新たなわだちを遺しながら悲鳴を上げる人々に飛び込む――寸前。

 クロの右腕で車輪を弾く!!


(重い……ッ!!)


 コースを逸れた車輪はなおも止まらず、轟音と共に建物に激突。

 軽く跳ねながら壁と柱をいくつも壊し、それでようやく回転が止まった。


 と、そう思ったのも束の間。

 車掌の手を完全に離れた車輪が「ギュルルルッ」と回転を取り戻し、Uターンする様に彼の腕へと戻る。


「に、逃げろォォオオ~~!!」

「ヤバいぞッ、車掌もグルだったんだ!!」


 奇怪な車輪の軌道を目の当たりにして、ようやく事態を理解したらしい。

 ゾッと青ざめた町の人達が一目散に逃げ出した。


 ――――――――

*あとがき

 次話、車掌:ディグリード戦の決着 & ピエトロも登場となります。

 随分と長くなった【3章】ですが、ようやくクライマックスです。

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