54話:VS『女頭目:ブブンカ』

 ゴミ町にやって来た無法集団アウトライブ

 奴等を斬るため脚を踏み出したところで、「馬鹿な真似は止しなさい」とおじさんが引き留めた。


「あの女頭目は“賞金首”だよ。子供が叶う相手じゃない」


 ボクの肩を掴むおじさんの顔は真剣そのもの。

 本気で心配してくれているのが伝わってくるけれど……。


「大丈夫だよ。心配してくれるのは嬉しいけど、あんなチンピラには負けないから」


「馬鹿を言っちゃいけない。奴は『雄食おすぐい:ブブンカ』――3000万Gの賞金首だ。襲撃した街で手当たり次第に男を漁り、気に言った奴を手駒として従えるヤバい女だ。逆らったら命は無い」


「ふ~ん? チンピラにしては高額だね」


 ただし、ボクは懸賞金「1億」だし、『闇の遊園地ベックスハイランド』で倒した“金持ち殺し:サンディゴ”の懸賞金は「1億3000万」だった。

 金額が必ずしも本人の実力を反映するとは限らないけれど、それでもボクが負ける相手ではない。

 これはおごりではなく、単なる事実として言っているまでのこと。


「まぁ見てて。すぐに終わらせるから」


「おい正気か? 何処か頭でも打ったのか?」


「あッ、ちょっと」


 ボクの身体を引き寄せ、怪我が無いかとアチコチからおじさんが頭を見る。

 心配性で良い人なのはわかるけど、その心配で時間を浪費している間に“事態が動いた”。



「ったく、ここのゴミ共は言葉も喋れねぇのか!? 酒を持って来いっつってんだろ!!」



「ひぃッ!?」


 無法集団アウトライブの女頭目:ブブンカ。

 その前にいた男性が足蹴にされるも、彼は身を丸めたまま縮まるだけ。

 他の者も下を向いて震えるばかりで、会話にならない物言わぬゴミ町の住人を前に、親玉は「チッ」と大きな舌打ちをする。


「駄目だねこいつ等は、肝までゴミになってやがる。もういい、男は全員“服を脱ぎな”」


「「「……え?」」」


 予想外の言葉に、ゴミ山の住人が呆気に取られた顔を返す。

 それが気に食わなかったのか、女頭目:ブブンカは近くで縮こまっていた女性を片手で掴み上げた。


「聞こえなかったかい? 男は全員服を脱ぎな。従わなきゃあ、この女を握り潰すよ」


「いやぁああ~~ッ!!」


 恐怖に震える女性の悲鳴。

 途端、先ほど足蹴にされた男性が女頭目:ブブンカの脚に縋りつく。


「辞めてくれッ、彼女は私の妻なんだ!!」


「ほ~う、そうなのかい? けど残念だったねぇ。だったら握り潰すのは辞めて――今からこの女は、“手下共の女”だ」


 大木の様に太い腕で、女頭目:ブブンカが掴んだ女性を放り投げる。

 女性は角度の低い放物線を描き、すぐ近くで待機していた男達の前に転がった。


「おっ、結構イイ女だ」

「肉付きはいまいちだが、顔は悪くないな」

女頭目かあちゃん、本当に貰っていいのか?」


「たまにはアンタ等にも褒美もあげないとね。私もこれから雄共を漁るし、明日の朝まで好きにしな」


「「「うおぉぉおお~~ッ!!」」」



(……駄目だなこいつ等、生きてる価値が無い)



 死ぬ程無駄な時間を過ごした。

 ボクを引き留めようとするおじさんを振り解き、すぐさま左手にナイフを構える。


「キミ、辞め――」


「“鎌鼬かまいたち”」


 宣戦布告をする道理も無い。

 おじさんの静止を振り切り、ひっそりと生まれた風の刃が――



 斬ッ!!



 ――女頭目:ブブンカの身体を斬り刻む!!


「ぐぁぁああッ!?」


 血飛沫と野太い悲鳴が同時に上がった。 

 まさかの事態に無法集団アウトライブの男達が一斉に慌てだす。


「敵襲か!?」

「何処からだ!?」

「アイツだ!! あのチビだ!!」

「あんなチビに出来る芸当じゃねぇぞ!?」


(失礼な)


 だけど、油断してくれるなら手っ取り早い。



「“鎌鼬かまいたち”:群れ」



「「「ぎゃぁぁああッ!?」」」



 皆の注目を受けたまま。

 連続でナイフを振るい、連続で生まれた風の刃に手下達が踊り狂う。

 数十名いた無法集団アウトライブの輩が全身血塗れで倒れるまでに、それほど多くの時間を必要とはしなかった。

 

 が、それでも一人だけ例外が居た。


「このチビがッ、調子に乗ってんじゃないよ!!」


 ガチャリと、血塗れの女頭目:ブブンカがボクに銃口を向ける。

 3000万の賞金首は伊達ではないらしく、“鎌鼬かまいたち”を喰らっても尚立ち上がるらしい。


(結構タフだね)


 でも、それだけだ。


「死ねぇぇええ!!」


 怒声と共に、銃声が鳴り響く。

 その弾丸がボクの脳天を貫く前に、彼女の懐に潜り込み、地獄の熱をナイフに込め――腹に突き刺す。



「“火葬地獄かそうじごく残火ざんか”」



「ぎゃぁぁぁぁああああああああッ!!!!」



 女頭目:ブブンカが炎に包まれ、先程よりも盛大な悲鳴を上げた。

 手に持った銃を呆気なく手放し、腹を抑えながら、男顔負けの体躯を焦がす地獄の炎に苦しみつつ、地面をゴロゴロとのたうち回る。

 弱めた火加減のせいで下手に意識がある分「より地獄」かもしれないけれど、まぁ相手が相手なので気にしなくてもいいだろう。


 その後、追加の一振りで彼女の身体は斬り刻まれ、その身体を包む炎は静かにゆっくりと消え去った。



 ■



「お前、やっぱり強いな。チビなのに」


 無法集団アウトライブを一掃した後、テテフが再度ボクのことを評価してくれた。

 明らかに余計な一言が入っていたけれど、それは聞かなかったことにしておこう。


 それよりも今は、女頭目:ブブンカだ。

 まだ命があった彼女は(殺さない程度に燃やしたから当然だけど)、ロープでグルグル巻きにされた状態でボクの前に転がっている。


 ――立場は完全に逆転していた。

 無法集団アウトライブの手下共は1/3がボクの斬撃で命を落とし、何とか生き残った2/3も、つい先ほど“ゴミ町の住人によって殺された”ばかり。


『こんな糞みたいな連中を、生かしておく道理は無い……ッ!!』


 妻を辱められる寸前だった男性が、目を充血させながら提案したこの言葉。

 ゴミ町の中に、この提案を否定する者は誰一人として居なかった。

 そして、瀕死の手下共から取り上げた刃物や銃器で、手下共の命は呆気なく散った次第となる。


「なぁキミ、ブブンカも殺していいだろう?」


 無法集団アウトライブを一掃したボクに、先の男性が訊ねて来る。

 ただ、その目は完全に“答えを決めている”目で、ボクが何を言ったところで決定が変わるとも思えない。


 それに――。


「殺した方が世の中の為だし、ボクも一票入れておくよ。だけど、その前に少しだけ話をさせて」


 銃を持った男性にそう伝えると「まぁ、それくらいなら……」と渋々ながらも了承してくれた。

 今すぐにでも殺したい気持ちがプンプンと伝わってくるけれど、彼の目的とボクの目的が違うのだからしょうがない。


「テメェ……調子に乗んなよ糞ガキが」


 全身火傷の状態で捕まった女頭目:ブブンカ。

 髪の毛も失って丸坊主となった彼女の前に立つと、鬼の様な形相でギロリとボクを睨んで来る。


 流石は数十人の荒くれ者をまとめていた親玉。

 瀕死の身体でも口調にはドスが効いていて迫力が凄いけれど、生憎とこの状況で怯む程ボクも弱いつもりはない。


 スッと、彼女の喉元にナイフを添える。

 それから、周囲には聞こえない小声で口を開く。


「素直に答えてくれたら、アンタをここから逃がしてあげてもいいよ」


「ッ!?」

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