52話:天からの贈り物

*まえがき

【3章】の挿絵を新しく追加しています。

本作の「あらすじ」にもリンク先を記載していますが、しばらくはこちらにもリンク先を載せておきますので、よろしければご覧下さい(メイド服姿のロロと、「49話」のテテフを描いてます)。

https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330664858402340

――――――――――――――――


~ ドラノア視点/ピエトロが“真新しい小さな足跡”を見つけてから数分後 ~


 ところどころにある採光穴から漏れる、微かな光だけが頼りの長い螺旋階段。

 そこを駆け下り・飛び降りて、ボク等は螺旋山らせんやまの中腹にある『秘密の道』の扉まで戻って来た。

 獣人族の少女:テテフを抱えたまま飛び降りる勢いで駆け下りて来たので、流石のボクでも心臓が悲鳴を上げている。


「はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり、“さっきの音”で、盗み聞きしてたのバレちゃったかな?」


「お前が悪い。本棚にぶつかるからだぞ」


「いや、だって、盗み聞きしてたら急にテテフが顔を舐めるんだもん。そりゃあ驚くでしょ」


「アタシなりの感謝の印だ。ありがたく思え」


 腰に両手を添え「エッヘン」と胸を張るテテフ。

 彼女的には「感謝の印」みたいなことらしいけれど、頬がぬめっとするのはちょっと勘弁して欲しい。


「気持ちは嬉しいけど、今後は顔を舐めるの禁止ね」


「何だお前、照れ屋さんか?」


「いや、本当に遠慮してるんだけど……」


「遠慮するな、“1億の照れ屋さん”め」


「………………」


 相手が子供だからか、もしくは種族による価値観の違いか、それともテテフだからか。

 ボクの気持ちはうまく伝わっていないらしいが、そこに悩んでいる時間は無い。


(結局、ピエトロの実力はわからなかった。……でも、やっぱりテテフの話は本当だった。奴が何か企んでることもわかったし、しかもそれは領主の屋敷が用済みとなる程の出来事だ)


 とは言え、彼等が直接取り壊す訳では無さそうだし、こうなってくるとピエトロが街を出てゆく可能性は高い。

 テテフの両親を亡き者にしてまで手に入れようとした“複製ページ”は見つけられなかったみたいだし、諦めて別の場所へ向かう――のか?


 ついでに言えば。

 先程テテフが揶揄からかった通り、ボクが『1億G』の賞金首になっていることが判明したけれど、これはある意味「既定路線」で驚くには値しない。

 ボクが脱獄者である以上、賞金首になるのは時間の問題だったし、「脱獄」は大罪なので億越えの金額も仕方ない。


 それよりも重要なのは、やはり“ピエトロの企み”。


「明日、ピエトロが何か起こすみたいだね。静かに街を出て行くって感じでもないし、多分かなりの大事を起こすつもりだよ」


「何がどうなるんだ?」


「そこまでは流石にわからないけど……」


「それじゃあ“アレ”に訊くか?」


 言って、テテフが上空を指差す。

 釣られてボクも見上げると、陽の光を背に受けた“小さな黒い陰”が街から飛び出したところだった。


「アレは……鳥? まさかテテフ、鳥と話せるの?」


「馬鹿かお前、いくらアタシが獣人族でも話せるわけない。鴉手紙カラスレターだ」


鴉手紙カラスレター? ――あぁ、さっき車掌が“指示を出す”って言ってたやつか。下のゴミ山に待機してる“誰か”宛だね」


 コクリ。テテフが小さく頷く。


「街は高いところにあるから、普通の鳥はほとんどいない。高い場所も平気な鳥か、金持ちがペット用に買った珍しい鳥か、他にいるとしたら鴉手紙カラスレターカラスだ。アレを捕まえれば何かわかるかもしれない」


「確かに、タイミング的にも車掌が出した鴉手紙カラスレターの可能性は高いね。でも、流石にアレを捕まえるのは厳しいよ」


「お前でも無理か?」


「黒ヘビで届く距離じゃないし、斬撃を飛ばしても当たらないかな。仮に当たったとしても、墜とせる程の威力は無くなってると思う。ここは素直にカラスを追いかけて、ゴミ山に待機してる“誰か”を特定する方が――ん?」


 チカッと、上空で何かが光った。

 それはチカチカと時折光を放ちながら落ちてきて、やがてストンッとボクの左手に収まる。


つつ……?」


 予期せぬ天からの贈り物。

 それが何処から落ちてきたのかは、今更問うまでも無い。


 筒に続いて、上空から急降下して来たカラス

 小さなシルクハットを被ったそのカラスが、ボクの前で「カァー!! カァー!!」と慌てた様子で鳴いている。

 間違いなく鴉手紙カラスレターカラスで、恐らくは「筒を返せ」と叫んでいるのだろう。


(このタイミングで手紙の筒を落とした? そんな事ある?)


 偶然にしては出来過ぎている気がする。

 もしかして、ボク等の存在に気付いたピエトロが“偽の情報”を渡してきた……というのは考え過ぎだろうか?


 こんな真似をするくらいなら、素直に殺しに来た方が余程手っ取り早い。

 相手はこっちの実力を舐めている訳だし、このカラスの慌てっぷりも演技には思えない。


(……まぁいいや、起きた現実を疑ってもしょうがない)


 ここはカラスの望み通り、ボクが手にした手紙の筒を、カラスの細い脚に括り付けてあげる――ことはせず。

 ボタンを押して筒の中から紙を取り出す。


 途端、「何してるんだ!!」とばかりに一層激しく鳴き叫ぶカラス

 それを無視し、手紙の内容を確認して――戦慄。


「これは……ッ」


「おいどうした? 何て書かれてたんだ? アタシにも見せろ」


 つま先立ちで強引に手紙を覗き込んで来るテテフ。

 そんな彼女もまた、書かれていた内容を見て表情を強張らせる。

 手紙の内容は以下の通りだ。


『決行は明日。夜明けの便で到着次第、“街を蹂躙せよ”』

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