51話:屋敷での密会とドラノアの懸賞金
*まえがき
今話は領主:ピエトロ視点での話です。
――――――――――――――――
~ ドラノアがコソコソと動いていたその頃 ~
『ハッピータウン』の領主:ピエトロは、屋敷の書斎でソファーに座っていた。
ローテーブルの上には乱雑に置かれた3枚の「手配書」。
彼の視線がその手配書から壁際の古時計に向けられたところで、「コンッ、コンッ」と扉をノックする音が響く。
午後1時。
ガチャリと扉を開けたのは、シックな制服に身を包む目深に帽子を被った一人の男性で、ピエトロは視線を戻して口を開く。
「“ディグリード”、相変わらず時間通りだな」
「当然です。列車の到着は早過ぎても遅過ぎてもいけませんからね。それは人も同じですよ」
部屋に入り、至って真面目な顔つきで答えたのは『列車の車掌:ディグリード』。
2カ月前、テテフの父:トマス(前:領主)が殺された際にも列車に乗っていた人物――つまりはピエトロの仲間だ。
彼はローテーブルを挟んでピエトロとは反対側のソファーに座り、「それで」と口を開く。
「私を呼び出した理由は何ですか? “彼等”なら、事前の指示通り間もなくゴミ山に到着する予定ですが」
「いいや、その話じゃねぇ」
「では、
「警備兵が死体に? 初耳だな……殺したのは誰だ」
「さぁ? 私はここへ来る前に報告を受けただけですからね。犯人まではわかりません」
「そうか――だとすれば、犯人は“この中の誰か”かもな」
クイッと、顎でローテーブルの上を示すピエトロ。
そこに置かれた手配書には、顔写真と共に次の文言が記されていた。
================
■血の詐欺商人『ナンバール・A・アキネード』/懸賞金:1250万G。
■妖怪剣士『キョウラク・J・キスイ』/懸賞金:1700万G。
■一本槍海賊団『スイック・O・ダルメスカイ』/懸賞金:2250万G。
================
一癖も二癖もありそうな3人の手配書写真を前に、車掌:ディグリードは改めてピエトロに視線を移す。
対するピエトロは膝を組み替え、つまらなそうに「ふんッ」と鼻息を鳴らした。
「こいつ等は賞金首に“見せかけた”『世界管理局』の管理者だ。闇に生き、闇で仕入れた情報を『世界管理局』に送ってやがる小賢しいネズミ共さ。ここ最近、近くの街で俺のことをコソコソと嗅ぎまわっていたらしい」
「この中の誰かが、警備兵を殺した犯人だと?」
「断言は出来ないが、俺の情報を引き出す為に警備兵を拷問した可能性は考えられる。まぁ何も知らない警備兵から漏れる情報は無いが、万が一にも邪魔されたくない。今日か明日の朝、もしこいつらが列車に乗って来たら……わかってるな?」
「なるほど、そういう話であればご安心下さい。実はここへ来る前に、こいつ等を全員始末しておきました。何の臭いを嗅ぎつけたのか、午前の便に3人揃って列車に乗って来たのでね」
「……仕事が早いな」
「いえいえ、私の中では丁度いいくらいですよ。早くも遅くもありません」
ピエトロの頼みも事前に対応済み。
これで話は終わったとばかりに、車掌:ディグリードはソファーを立って踵を返す――が、それをピエトロが止める。
「まぁ待て。追加でもう一人、始末して欲しい輩がいる」
「ほう、それは
質問の答えに、ピエトロは懐から取り出した1枚の手配書を差し出す。
その手配書には“小柄な少年”が写っており、ディグリードが目を通す間に彼が言葉を
「今日出たばかりの手配書だ。何処かで見た顔だなと思っていたんだが、思い出せばなんてことはない。つい先日、この街へ来たチビガキだ。どうやら『脱獄者』らしい」
「脱獄者? こんな子供が地獄から逃げ出せるとは思えませんが……しかしそう言えば、先日地獄で問題が起きたって噂を耳にしましたね。そのどさくさに紛れて運よく脱獄した可能性はあります」
「あぁ。どのみち事の真相はわからねぇが、この街に居る以上はガキと言えども無視出来ない。懸賞金も『1億G』だ」
「1億……確かに無視出来る数字ではないですね。この子の実力というより、脱獄行為に対する金額だとは思いますが――」
ガタッ。
不意に、小さな音が部屋に響く。
すぐさま「ん?」と眉を潜めたのは車掌:ディグリード。
「今、何か音がしませんでした?」
「音? いや、特には……何処から聞こえた?」
ピエトロは気づかなかったが、車掌:ディグリードの耳は確かに捉えていたらしい。
彼はグルリと部屋を見渡し、とある一点に視点を定める。
「あの壁の方ですね。本棚の辺りです」
「………………。……あの本棚なら、多分ネズミだろう。最近たまに見かける。この建物も見た目の割に古いからな」
「えぇ~、ネズミですか? 私嫌いなんですよねぇ。小さくて汚くてウロチョロしてて……改修工事でもしたらどうです? もしかしたら、どれだけ探しても見つからなかった“複製ページ”が見つかるかも知れませんよ?」
「馬鹿を言うな、どうせ明日には用済みになる建物だぞ。そもそも本当にこの屋敷に複製ページが隠されていたら、“こいつ”が何かしらの反応を示した筈だ。俺達はガセネタを掴まされたんだよ」
ポケットから透明なケースに入った“紙の切れ端”を取り出し、ピエトロは「ふんッ」と鼻を鳴らす。
「最初からコレを手に入れていれば、無駄な時間を費やす必要も無かった。全く、無駄な手間を掛けさせやがって」
「まぁまぁ、別に構わないじゃないですか。“複製ページ”が手に入らなくても、2ヶ月の領主ごっこでそこそこ大金が手に入った訳ですし。明日には更なる大金が手に入る予定ですからね」
「ふんッ、雑魚共が失敗しなければな。それより問題はそのガキだ。万に一つの可能性でも排除しておきたい」
紙の切れ端をポケットに戻し、ピエトロは車掌:ディグリードの持つ手配書を顎で指す。
車掌:ディグリードもすぐに視線を戻し、手配書の紙を自分のポケットにしまった。
「状況は把握しました。見つけ次第、この子は私が殺しておきましょう。――あぁ、そう言えば“トマスの娘”を街中で見かけた、という話が出回っていましたよ。名前は確か……」
「テテフか? あの糞ガキ、くたばっていなかったのか。いくら獣人族でも、
「もし目障りでしたら、少年のついでに殺しておきましょうか?」
至極当然とばかりに提案するディグリード。
ただ、ピエトロの返事は「イエス」でも「ノー」でもない。
「好きにしろ。今更あのガキが騒いだところで、耳を傾ける者などこの街には居ない。どうせ明日には全て終わる」
「確かに、それもそうですね。他に要件は?」
「無い。あとは事前に指示した通りだ」
「わかりました。早速“彼等”にも作戦決行の指示を出しておきます。――では、私はこれで」
「あぁ、明日も時間通りに頼む」
ピエトロの言葉に一礼を残し、車掌:ディグリードは早々に部屋を去った。
それからしばらく。
ディグリードが屋敷を出て行く光景を、書斎の窓から静かに見届けた後。
ピエトロは壁に掛けられていた絵画を外し、そこに隠されていたレバーを引く。
すると、先程「物音がした」と指摘された部屋の本棚がスライドし、背後に隠されていた“地下へと続く通路”が顕わとなる。
その通路の入り口に立ち、ピエトロは「むっ」と眉根を寄せた。
床に積もった埃の中にある“真新しい小さな足跡”を睨みつけながら。
――――――――――――――――
*あとがき
次話、ドラノア視点に戻ります。
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