50話:『秘密の道』の出入り口
ピエトロを殺す――朝っぱらから物騒な約束をしたボクは、一旦テテフを宿に置いて“外出”。
昨日、彼女の服を買った店で「フード付きのコート」を購入し、一直線で宿屋まで戻って来た。
それから「はい」とテテフに服を渡すと、ポカンとした顔を向けてくる。
「こんな暑苦しいのを着るのか? 別に寒くないぞ」
「でも、耳と尻尾は隠さないと目立つでしょ? ピエトロにテテフの存在がバレたら……っていうか、既に昨日の一件が耳に届いてるかもだけど」
「むっ、そう言えばそうだった。アタシが生きてるって知ったら、アイツが殺しに来るかも知れない。でもそしたら、お前がピエトロを殺せばいい」
「随分と簡単に言ってくれるね。まぁその通りではあるんだけど……」
とは言え、だ。
ピエトロは“強力な
テテフの前では強気の発言をしていたけれど、相手の実力――その上限がわからぬ以上、油断は禁物。
(自惚れたら駄目だ。ボクが最強だったのは、地獄の
4000年の地獄ですら、現実と比べたら「ぬるま湯」だった。
過去の湯加減で物事を計っていては、いつか“また”絶対に大火傷をする。
身を以てそれを経験している以上、殺しに行くなら万全を期すべきで、その為には少しでもピエトロの情報が欲しい。
「――それじゃあテテフ、出かけようか」
「おうッ、ピエトロをぶっ殺しに行くぞ!!」
「違うよ。まずは情報収集でしょ?」
「う、そうだった……。で、何処に行くんだ? 肉屋か? 肉屋なのか?」
「残念だけど肉屋は予定に無いよ。まずは敵に懐へ忍び込む為に、“街を出よう”と思う」
「……へ?」
■
~ 出来る人には出来る『ハッピータウン』の脱出方法(二人編) ~
手順①:
なるべく人通りの少ない路地を選び、街を囲む頑丈なフェンス前まで移動。
手順②:
近くに「通行人」及び「見回りの警備兵」がいないことを確認後、テテフを背負って“黒ヘビの右腕”を伸ばす。
手順③:
伸ばした黒ヘビでフェンスの上部を掴み、ジャンプと共に黒ヘビを引っ込めれば――身体がフワッと浮き上がり、フェンスを軽々と乗り越えて「脱出完了」。
背負っていたテテフを地面に降ろすと、瞳を輝かせて黒ヘビをツンツンと突く。
「お前の黒ヘビ、よく見るとカッコいいな。いい目をしてる」
「そう? だいたいは気持ち悪がられるか、怖がられるんだけど……」
「そいつ等はきっとセンスが無いだ。こんなに黒くて目が赤いんだから、カッコイイに決まってるだろ。……お前だけズルいな、アタシにも黒ヘビをくれ」
「生身の右腕を失ってもいいなら、いい
「うっ……痛いのはヤダ」
「じゃあ辞めておこうか(どのみち紹介も出来ないし)」
地獄の大穴で出逢った巨大な黒蛇:ヨルムンガンド。
初めて姿を見たあの日、「契約」と称して右腕を喰われて以降、ヨルムンガンドとは一度も逢えていない。
あの黒蛇が何を考えているか知る由も無いけれど、まぁ今はテテフの復讐 = 両親の敵討ちに集中しよう。
(まぁ、集中したくてもテテフが何かと突っかかって来るんだけど……)
まるで年の離れた妹が出来たみたいで――面倒臭い。
孤児院にもテテフくらいの年齢の子供は居たけど、ここまでボクに絡んでくる子供は居なかった。
慣れない子守りで辟易しているのが正直なところだけど……でも、そこまで悪い気もしないのは黒ヘビを褒められたからだろうか?
ともあれ。
難なく街の外に出たボク等は“目的地”を目指し、
――――――――
――――
――
―
~ 2時間後 ~
「……着いたぞ、ここだ」
流石は身体能力に秀でた「獣人族」と言ったところか。
幼いながらもテテフは途中でへばることなく、無事にボクが頼んだ目的地へと案内してくれた。
そして彼女が指を差した「扉」――
「ここだったんだね。2カ月前、テテフとお母さんが逃げる時に使った『秘密の道』って」
「何だお前、知ってたのか?」
「知ってたと言うか、
不可解だった扉の謎がようやく解け(まぁ今まで忘れていたけれど)、少しばかり晴れた気持ちで扉に手をかける。
ここから領主の屋敷へ忍び込めば、何からしらピエトロに関する情報が手に入るだろうという算段だ、特に鍵は掛かっておらず、古びたドアノブはガチャリと回った。
「開けるよ?」
「………………」
「ちょっとテテフ、聞いてるの?」
「………………」
「テテフ、大丈夫? 随分と顔色が悪いみたいだけど……」
「――ん、大丈夫だ。問題無い」
言って、彼女は小声で繰り返す。
「大丈夫、大丈夫だ……アタシは大丈夫だ」と。
(う~ん、どう見ても大丈夫じゃないね……)
つい先程まで普通に見えていたが、いつの間にか顔から血の気が引いている。
表情も見たこと無い程に強張っているけれど、それも致し方ない。
ここは彼女にとって“トラウマの場所”なのだ。
屋敷から逃げて来て、そしてピエトロに遭遇し、目の前で母親を殺された忌まわしい場所。
今回の様な目的が無ければ、例えアクセスが良好だったとしても好んで訪れたい場所ではないだろう。
しかも彼女はまだ幼く、ほんの2カ月前の出来事となれば尚更のこと。
ただ、それも承知の上で。
それでも必要だから彼女に案内させた訳だけど……はてさて、コレは続けるべきなのか?
「どうする? やっぱり引き返すか? ここまで来ればボク一人でも問題無いし、テテフはしばらく休憩してからでも――」
「駄目だ、アタシも行く。コレはアタシの復讐なんだ……ッ」
力強い言葉を、弱弱しい声で。
それでも黙らず答えた勇気に、ボクは彼女の手をギュッと握る。
「なら、一緒に行こうか。全部終わったら、美味しいお肉でも食べに行こう」
「……うん」
ボクの手が握り返される、ことはない。
だけど、振り解かれることもなかった。
今はそれだけで十分。
ボクは彼女の手を握ったまま、黒ヘビの右腕で「扉」を開けた。
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