49話:お前、ピエトロに勝てるか?
~ 宿屋の一室にて ~
沈痛な面持ちでテテフは語った。
僅か2カ月前の出来事を。
父親を殺され、その後に殺された母親と共に、
「気づいたら、アタシはゴミ山の上で眠ってた。すぐ近くには、パパとママも“居た”けど、でも……もう……」
ベッドの上でギュッと唇を結ぶに彼女に、ボクが出来ることは何も無い。
せいぜい自分の無力さを誤魔化す為、苦し紛れの言葉を発したくらいなもの。
「その状況でよく生きてたね。命があっただけでも奇跡だけど、どうやって助かったかは覚えてないの?」
「うん。何も覚えてない……けど、きっとパパとママがアタシを生かしてくれたんだ。いつかアイツに復讐する為に……その為に、その為だけに、アタシは一人で生きて来た」
「一人で……ゴミ山の人には頼らなかったの?」
「最初は頼ろうとした。でも、パパとママの悪口がゴミ山に広がってて、誰もアタシを助けてくれなかった。アイツのせいで、アタシはずっと一人だった……」
ツーっと、彼女の頬を静かに流れた涙の意味を疑う気にはなれない。
街に現れた
そしてこの話は、“ここに至るまでの流れ”にも繋がる。
「だからテテフは武器を欲しがっていたんだね。ピエトロを殺す為に」
「そうだ。アタシが必ずこの手で殺す。それがアタシの夢だ」
「………………」
“復讐なんて止めよう”。
“悲しみの連鎖は何処かで止めなくちゃ駄目だ”。
“人を殺すことが「夢」だなんて、悲しいことを言わないで”。
そんな薄っぺらい言葉を掛ける気にはなれなかったし、かける資格もボクには無い。
ボク自身、復讐に生きて来た人間だ。
復讐に失敗して一度は命を落とし、それでも地獄を抜け出してまで復讐を果たした人間だ。
そんな奴が何を言ったところで、彼女の想いを止めることは出来ない。
むしろ止めてはいけないのだと、心のどこかでそう思っている自分がいる程で――
「お前、ピエトロに勝てるか?」
――唐突に問われた問い。
けど、彼女の中では唐突でもなかったのだろう。
テテフがゴクリと唾を飲み込み、それから真っ直ぐにボクを見つめる。
「アタシは、パパとママを殺したあの男を殺したい。本気だ。あの日からずっと、それだけを願って生きて来た。その為に武器を盗もうともしたけど……でも、本当はわかってる。多分、アタシにアイツは殺せない。アイツは大人で、“
そんな言葉を紡ぎ、彼女は笑う。
悲し気に、子供には似つかわしくない皮肉的な笑みで。
「でも、お前は違う。チビだけど強い。だからアタシの代わりに、“お前がピエトロを殺せ”」
(う~ん、まさか命令系で言われるとは……)
先に「ピエトロに勝てるか?」と聞かれた時点で予想はしていた。
命令されたのはともかくとして、予想出来ていたからこそボクは彼女に問い返す。
「一応聞くけど、ボクがそこまでしなきゃいけない理由は? 確かにキミの境遇には同情もするし、悪い奴を殺すことに今更
「無理だ。お前にページは盗めない」
「どうしてそう言い切れるの?」
「だってアイツ、“そもそもページを持ってない”」
「………………」
コレはハッタリか?
「2ヶ月も屋敷を探せば、流石に見つかると思うんだけど」
「無理だ。いくら屋敷を探しても見つからない。“ページはアタシが持ってる”」
「ッ!?」
コレは完全に予想外。
年下の少女に一本取られる形となった。
「街から逃げる時に、ママから貰った。悪い奴には絶対に渡しちゃいけないモノで、アタシが一番警戒されないからって。だから“この鞄”に入れて、ずっとアタシが持ち歩いてた」
――鞄。
確かにテテフは出逢った時からボロボロの鞄を
今も寝起きだというのに鞄を持っているし、彼女が鞄から手を離したのは“浴室で洗った”時くらいなもので――
「ん? その鞄……昨日一緒に洗っちゃったけど……」
「心配するな。ページは水くらいじゃビクともしない。だからこのページが欲しいなら、お前はピエトロを殺せ」
「なるほど、そういう『交換条件』ね」
これまた実に簡単な話だ。
簡単な話だけど、ちょっと不用心が過ぎて心配になる。
「ボクがその鞄を奪って、ここから逃げる“悪い奴”だっていう可能性は考えなかったの? キミから鞄を奪うなんて簡単なコトなのに」
「でも、お前はそんなことしない。チビだけど“良い奴”だからな」
「………………」
完全に余計な一言も入っていたけど、それでも彼女からの信頼は単純に嬉しい。
その信頼を「裏切りたくない」と思う程度には、既に彼女への「情」も湧いている。
(やっぱり、あまり長い時間一緒に居るモノじゃないな……)
事情を知ってしまった今、テテフを放っておけと言われても逆に気になって仕方がない。
多分、“彼女がまだ幼い”というのもあるのだろう。
まるで昔の自分を見ている様な……とはちょっと違うけど、それに近い感覚のせいで、彼女を無視した自分優先の行動が
だからこそ、ボクの答えは「頷き」しかない。
「――わかった。複製ページの為にもテテフに協力するよ。だけど、出来れば少しピエトロの情報が欲しいかな。聞いてる限りは相当強いみたいだし」
「何だお前、ピエトロに勝てないのか?」
「違うよ。十中八九はボクが勝つけど、万が一に備えて出来ることをしておきたいだけ」
「ふんッ、桃はいいよーだな」
「それは……多分、“物は言いよう”かな?」
「最近の
「最近の
「………………。ウガーッ!!」
「あいたッ!?」
急に頭を噛まれた。
子供(特に獣人族)を
――――――――――――――――
*あとがき
そんなこんなで【3章】のラスボス戦(対ピエトロ)に向けて動き出します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます