44話:『ハッピータウン』と火口湖
ガタガタ揺れる屋根の上で「文明の利器」のありがたみを感じつつ、山頂に到着する少し手前で、ボクは列車の屋根から飛び降りた。
黒ヘビをクッションにバウンドして着地。
先を行く列車を見送ってから「ふぅ~」と一息。
(予定外だったけど、列車が復旧してくれたおかげで楽が出来たね。……ま、理想を言えば駅に到着するまで乗っていたかったけど)
実際にそうしなかったのは、街の警備体制が不明な為だ。
大事を取って街の一歩手前で列車を降りはしたが、とは言え目的地:『ハッピータウン』は目と鼻の先。
線路を逸れ、黒ヘビで崖を掴んで登ること数分。
崖を登り切った先に、3000メートル峰の山頂とは思えない「街並み」が見えて来た。
「アレが『ハッピータウン』……思っていたよりも大きな」
場所が場所だけに、せいぜい数百人規模だろうと思っていたのは先程までの話。
ここから見える「街の横幅」と、並び立つ「建物の密度」から、恐らくは1万人規模の街だろう。
周囲を背の高い頑丈そうなフェンスでグルリと囲んでいる為、人の出入りが出来る場所は「門」がある場所に限られていると見ていい。
その門の1つに、ボクが無賃乗車した列車が速度を落として入ってゆく。
そしてすぐさま「門番」の手により、限られた出入り口である「門」が二人がかりで閉められた。
(
それから岩陰に隠れつつ街の周囲を回り、人気の無い路地を発見。
侵入を拒む背の高い頑丈そうなフェンスも、黒ヘビの前には無力。
フェンスの上部に噛み付き、ワイヤーを巻き取るつもりで黒ヘビを縮める。
それと同時にボクが跳べば、あっという間に高いフェンスを乗り越えて『ハッピータウン』への侵入に成功だ。
「さてと、まずは拠点の確保かな」
黒ヘビを隠し、人の往来もそこそこあるメインの通りに出る。
宿屋を探そうと歩き始めてすぐ、ボクは「街の中心」がぽっかり空いていることに――“建物が一切存在しない”ことに気付くが、それもその筈。
メインの通りから路地を抜けて街の中心へ向かうと、視界が一気に開けた。
「……湖? こんな山の
いわゆる「火口湖」。
直径400メートル程の火口に、水が溜まって「湖」となった場所だ。
先日訪れた『
あの街は湖の中にある孤島だったけど、ここ『ハッピータウン』は湖の周りに街が栄えていた。
(まぁ水がなければ生きていけないし、湖が無ければこの街も存在してないだろうけどね)
火山活動はとっくに終わっているのか、湖から硫黄の匂いは一切しない。
コレを生活用水として使用出来る為、こんな山頂にも街が栄えたのだろう。
それから街のメイン通りに戻り、湖を半周近く歩いたところで宿屋を見つけた。
幸いにもいくつか空室があったので、受付で一番安い一泊8000Gの部屋を確保。
素泊まりで食事は付いていないが、部屋にシャワーが付いているのはありがたい。
ここに来るまでの汗を流し、それから受付に戻って主人に尋ねる。
「ねぇおじさん、この“街の領主”って何処に居るの?」
「領主様? あの方なら駅の近くにある“屋敷”に居ると思うが、何か用事でもあるのか?」
「いや、用事って程でもないけど……教えてくれてありがと」
「おい待て、アポ無しじゃ会ってくれねーと思うぞ。俺が取り次いでやろうか?」
「大丈夫、大丈夫。そんな大したことじゃないから」
随分と親切な主人だけど、むしろ事前連絡なんてされたらマズい。
何故ならその領主こそ、ボクがこの街に来た理由――『マゼラン日誌の複製ページ』を所有している人物だからだ。
■
目的の屋敷はほぼ湖の反対側で、「駅の近く」という話。
せっかくなら街を一周してみようと、来た方向とは逆に進むこと10分。
予想より大きな街とは言っても、実際に歩いてみればその距離はたかが知れており、呆気なく「駅前広場」まで辿り着いた。
比較的こじんまりとした駅舎のホームには、ボクが無賃乗車した列車が止まっている。
出来れば、「帰り」はあの列車に乗って
まだ目的を成していないのに帰りの心配をしても仕方がない。
「宿屋主人の話だと、この駅の近くに屋敷があるって話だけど……あぁ、アレか」
駅前広場から通じる路地の奥、少しだけ高台となっている場所に一際大きな建物が立っている。
アレが領主の屋敷に間違いなく、あの屋敷の何処かに『マゼラン日誌の複製ページ』がある筈だ。
(場所がわかってれば強引に行ってもいいんだけど、複製ページの在り処がわからない以上は慎重に行かないと……さて、何処から忍び込もうか。そもそもボクが忍び込めるような屋敷なのか?)
街そのものに続いて屋敷もフェンスで囲われており、正面にはこれまた門番の姿も見える。
彼等を倒すのは簡単だけど、
屋敷の間取りもわからない以上、まずは情報を集めないと話にならないだろう。
「はぁ~、面倒くさい。力づくで解決出来れば一番簡単なんだけどなぁ」と、ため息を吐いた直後。
ぐぅ~。
このタイミングで腹が鳴り、ボクは軽率な思考をブルブルと振り払う。
「とりあえず、何か食べながら今後の動きを考えるか」
持参した携帯食料は既に尽き、昨日から何も食べていない。
駅前ということで飲食店には困らず、ボクは近く店で腹ごなしすることにした――が。
ガシャンッ!!
入ろうとしていたその店の壁に、“空を飛んで来た警備服姿の男”が激突。
そのまま壁を突き抜け、「キャーッ!?」と悲鳴が響く店内を転がる。
一体何事かとその男に注視すると、彼は痛々し気な姿で上半身を起こし、叫ぶ。
「皆逃げろッ、
「「「ッ!?」」」
店内の人も、そして警備兵の叫びが聞こえた駅前広場の人達にも、一瞬にして緊張が走る。
そしてすぐさま逃げ始める人々の行動にデジャヴを覚えたのは、昨日ボクがゴミ山で見た光景と大差が無かった為だ。
振り向くと、頑丈そうなフェンスをなぎ倒し、駅前広場に入ろうとする“瓦礫で構成された化け物”の姿があった。
(
警備兵の男性を投げ飛ばした犯人はアイツだろう。
昨日、ボクが倒した個体とは身体を構成する瓦礫が違うものの、同一個体ではないという証拠は何処にも無い。
(どっちにしろ、ここで暴れられると面倒だ。色々と仕事がやり辛くなる……いや、むしろ騒ぎに紛れて屋敷に忍び込むのもアリか?)
その場合、街に更なる被害が出るのは避けようもないが、ボクにこの街を守る義務は無い。
街の被害など知ったことではないが……とは言え、か。
(ここが悪の巣窟ならともかく、普通に暮らしてるだけの人だっているんだ。“理不尽な暴力”から見捨てる訳にはいかない)
なるべくなら「黒ヘビ」は隠したかったけど、そうも言っていられない状況。
覚悟を決め、右肩から黒ヘビを出そうとした――その時。
ボクの横を「スーツ姿の男性」が駆け抜け、右腕で
途端、“
「ッ!?」
ボクが驚愕に目を見開く中。
無骨な身体がガラガラと崩れ、街を襲った脅威は数秒で瓦礫の山となった。
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