42話:獣人族の少女:テテフ
*まえがき
前回の最後に出て来た、獣人族の少女(名前は「テテフ」)のデザイン画を追加しています。見なくても問題ありませんが、よろしければ是非ご覧下さい。
⇒ https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330658724335319
――――――――――――――――
“獣人族”。
『B』の世界:『Beast World (猛獣世界)』の住人。
普通の人には無い「獣の耳」と「尻尾」を有しており、聴力や脚力などの身体能力に秀でた種族だ。
ボクが捕まえた「小さな窃盗犯」も、そんな獣人族の一人だった。
■
「――なるほど、名前は『テテフ』ね」
「そうだ。名前を教えてやったんだから、早くこの黒ヘビを解け」
ゴミ山で捕まえた獣人族の少女:テテフ。
黒ヘビで拘束したまま質問を始めたら、その最初の質問で非常に偉そうな態度を取って来た。
年齢的にはまだ10歳にも満たないだろうに、小さな身体の割には随分と気が大きいらしい。
ただ、着ている服もボロボロなら、肩から下げている鞄もボロボロで、腰まで届く長い髪や尻尾も艶が無いボサボサな状態。
とてもじゃないけど威圧感は皆無で、その状態で強がられても怖くないのが正直な印象か。
「まぁ何を盗られた訳でもないし、見逃してあげてもいいんだけどね。一応聞くけど、テテフは何を盗もうとしたの?」
「ふんッ、何も盗もうとしてないし。お前が勝手にアタシを捕まえただけだし。だからさっさとこの“
「いや、コレは“
説明が面倒なので、そういうことにしておこう。
それからボクが「シュルルル」と黒ヘビの拘束を解くと、獣人族の少女:テテフはポカンとした顔を返す。
「お前、何でアタシを解放した?」
「何でって、解放しろって言ったのはそっちでしょ」
「それはそうだけど……何かの罠か?」
「違うよ。ずっと拘束してる訳にもいかないし、どうこうしようってつもりも無いから解放しただけ。悪いけど、食料なら持ってないからね。もう行っていいよ」
「じゃあ金は!? 食べ物より金くれ!!」
グイッと、テテフが急激に距離を詰めてくる。
ボサボサな髪の隙間から
何やら随分と切羽詰まった様子だけど、どうしてそんなにお金が欲しいのだろうか?
……いやまぁ、お金なら誰だって欲しいに決まっているか。
「言っておくけど、ボクは慈善事業でここに来た訳じゃないんだけどね。まぁ1000Gくらいならあげるよ」
「1000Gじゃ足りない!! もっとくれ!!」
「いやいや、流石に
「違う、“武器”だ」
「へ?」
「武器を買う為に金が必要だ。だから金くれ」
「………………」
正直、想定外の答えだったのは否めない。
あまりの我儘っぷりに呆れもするけれど、それ以上に彼女への興味が勝った。
「何で武器が欲しいの? 自衛の為?」
「違う、“殺したい奴”がいる。そいつを殺す為に武器が欲しい」
「それは……つまりは復讐の為?」
「そうだ。だからお前、金くれ」
「………………」
考える、までもないか。
「悪いけど、武器を買える程のお金は流石にあげられない。事情を話してくれれば、多少は力になってあげられるかもだけど」
「………………」
考えて、テテフはフルフルと首を横に振る。
「駄目だ、信用出来る奴にしか話さない。お前は寝たふりでアタシを騙した。信用出来ない」
「そっか、じゃあ交渉決裂だね」
1000Gをテテフの手に握らせ、ボクは踵を返す。
先ほど横になっていた場所まで戻りつつ「別れの挨拶」を告げる。
「ボクはボクでやることがあるから、あまりキミの遊びに付き合ってる暇は無いんだ。お金を盗もうとした事には目を瞑るから、今後ボクの邪魔はしないでね」
「………………」
1000Gを握りしめ、無言のままボクを睨むテテフの、そのお腹が「ギュルルル」と鳴る。
それを恥ずかしがることも無いが、これ以上この場に居てもボクから得るモノは無いと悟ったのだろう。
跳ねる様な軽快な動きで、彼女はあっという間にゴミ山の向こうへと消えていった。
――――――――
――――
――
―
~ 翌朝 ~
ゴミ山越しに見える空の下側が、徐々に明るくなってきた時間帯。
ゴミに埋もれて目を覚ましたボクは、「う~ん」と背伸びをしつつ周囲を確認する。
(……流石に戻って来なかったな。まぁおかげでぐっすり寝れたからいいけど)
昨夜、一時拘束した獣人族の少女:テテフ。
彼女が再度ボクのお金を狙って、夜中に襲って来る可能性も考慮していたモノの、結果としては杞憂に終わった。
あんな幼い子供の願いを
「よし、さっさと
気持ちを新たに、目指すは山頂の街『ハッピータウン』。
鉄道のレールはゴミ山を抜けて、
問題は、その
「おい貴様、ここで何をしている?」
登山口に近づくと、早速警備兵が声を掛けて来た。
無視する訳にもいかず、ボクはキョトンとした顔を返す。
「何って、ここから街まで登ろうかなって」
「馬鹿か、駄目に決まっているだろう。この
「徒歩で登っちゃ駄目なの?」
「当たり前だ。ここ
「なるほど」
納得の理由。
納得の理由だけど、それで終わらせたら話が進まない。
いつ復旧するかわからない列車を、いつまでも待ち続けるのは御免だ。
(強行突破は……通信機で『ハッピータウン』に連絡される可能性があるね)
警備兵の腰には“無線機”が確認出来る。
一人二人斬り捨てたところで、その間に他の警備兵から連絡されるのがオチだし、そもそも罪も無い彼等にそこまでする気にはなれない。
(かと言って、警備兵の目が光ってない場所からコッソリ登ろうにも、結構警備の目は厳しそうだな……)
つまり、ここは「第三の選択」がベスト。
左手をポケットに伸ばし、ボクはスッと取り出したお金をおじさんに渡す。
「“コレ”で見逃してくれない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます