40話:ゴミの雨と動くゴミ

 目的地:『ハッピータウン』を目指し、線路に沿って走ること2日。

 情報によると「最低5日はかかる」と言われた距離のほとんどを2日で走破し、ボクは目印となるランドマークを視界に捉えた。


「ふぅ~、アレが『ハッピータウン』のある“螺旋山らせんやま”かな?」


 ――螺旋山らせんやま

 巨大なネジをひっくり返し、その上部をスパッと平らに切り取った様な形の山。

 麓から頂上まで3000メートルの高度差があり、その山頂に『ハッピータウン』は造られたらしい。


 つまり、行程の最後はあの螺旋山らせんやまを登山する必要がある訳だが、今そこに目を奪われていては話にならない。

 まずは螺旋山らせんやまの麓に広がる「広大なゴミ山」を走破しなければならないのだ。


「う~ん、これまた凄いゴミの量だね……螺旋山がもう少し低かったら見えなかったかも」


 本当に、ここから先はゴミだらけ。

 線路の敷かれた場所以外の全てがゴミで覆いつくされており、地平線が「ゴミ平線」になっている。

 『Trash World (ゴミ世界)』には世界中のゴミが集められるとは聞いていたけど……まさかここまでとは思わなかった。


 加えて。

 風に乗って漂って来た「鼻を刺激する臭い」には、嫌でも顔を歪めてしまう。


(うッ、地獄の血生臭さとは違う酷い臭いだ……。野盗に襲われたおじさんが言ってた、『とんでもなく臭い』ってのはコレのことか)


 渡航の前から知っていれば、組織の先輩:イヴァンと行き先を交代していたところだけど、今更後戻りは出来ない。

 覚悟を決め、ボクは鼻がひん曲がりそうな臭いの中、線路に沿ってを進み始めた。



 ~ 30分後 ~


(全く、こんな場所を通らないと辿り着けないなんて……何で螺旋山らせんやまの山頂に街を造ったのか理解し兼ねるよ)


 歩けど歩けど変わり映えの無いゴミ山の景色。

 そこに悪臭も重なれば、悪態の1つでも吐きたくなるというモノ。

 野党に襲われた街はこんなゴミ山に囲まれていなかったし、場所を選べばもっとマシな場所もあるだろうに……。


 ただ、そのマシな場所で発展した街は野党に襲われてしまった訳で、この『Trash World (ゴミ世界)』に安全な場所を求めること自体が間違っているのかも知れない。

 なんて思考を回していると――


「あいたッ!?」


 コツンッと、頭に何かぶつかった。

 晴天下にひょうでも降って来たのかと、足元に転がった物を見ると、それは“錆びたネジ”だ。


「何処からネジが……風に飛ばされてきたのか?」


 ボクが歩いている「線路沿い」はほとんど無風だけど、ゴミ山の上では強い風が吹いているのだろうか?

 それから何気なく空を見上げ、呆気なく「答え」が見つかる。

 同時に、背筋がゾッと凍り付く。



 “ゴミ”だ。



 雲一つ無い青空から、大量のゴミが降ってきた!!


「ちょッ、あの量はマズい!!」


 すぐさま全速力で駆け出し、その僅か数秒後。

 先程までボクがいた場所に、大量のゴミ・瓦礫が爆撃の如く降り注いだ。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ー



「いやはや参ったね。まさか空からゴミが降ってくるなんて」


 ゴミの雨から逃げる為、命辛々の全力疾走。

 先日から走りっぱなしで流石に疲労も隠し切れないけれど、それでもゴミに押しつぶされなかっただけマシだろう。


(『Trash World (ゴミ世界)』には世界中のゴミが集まるとは聞いていたけど、まさか空から捨てていたとは……)


 よくよく空を見上げると、上空に『世界扉ポータル』らしき陰が見える。

 地上からチマチマ運んで捨てるよりも効率的なのは間違いないが、地上にいる人間からすれば堪ったモノではない。


 またゴミが降ってきたら洒落にならないと、ボクは早々に歩き出し、そこで「人の気配」に気付く。


(おっと、ボク以外にも人が居るのか)


 それも1人や2人ではなく、結構な数だ。

 少なくとも10人以上は……って、それどころじゃない。


 今まで何処に隠れていたのか、パッと見ただけでも100人以上の人間がゴミ山のアチコチから現れた。

 しかも、それら大勢の人々が先程降り注いだ“新しいゴミ山”に群がり、嬉々として「ゴミ漁り」を始める。


「見ろッ、食い物だ!! まだ食べられる!!」

「こっちは服だ!! 靴もあるぞ!!」

「金属もあるぞ!! こりゃあ金になる!!」

「拾え拾え!! “出て来る前に”全部拾え!!」


(………………)


 言葉を失う。

 何かと比べられるモノではないとわかっていても。

 12年間虐められていたボクから見ても、やはりゴミ山で暮らす環境というのは「酷い」の一言に尽きる。


(皆痩せてるし、服もボロボロだ。ここでまともな生活が出来る訳もないか……)


 まるで地獄。

 老若男女問わず、全員が全員痩せ細っているのは流石に心が痛む。

 そんな彼等を見て「可哀想」だと、そう思ってしまったボクは酷い人間なのだろうか?


 その是非は判断しようも無いが、そんな風に考えてしまったボクが酷い奴かどうかに関わらず、彼等が“本当に大変な環境下”で生きているのは間違いない。


 先程、誰かがこう言った。

「“出て来る前に”全部拾え!!」と。

 その言葉の意味を、ボクはすぐに思い知ることとなる。


(……ん?)


 ガラガラと、瓦礫の崩れる音が聞こえた。

 そして次の瞬間には、ゴミ山に埋もれた“瓦礫が動き始める”。


「――は?」


 それも一つではなく複数の瓦礫だ。 

 コンクリート片や折れ曲がった金属パイプ、錆びた鉄骨など、動き始めた複数の瓦礫が集まって「ガチャン、ガチャン」と合体。

 時間にして僅か10秒程で、どことなく人の形をした“瓦礫のバケモノ”が生まれた。


 ゴミ山の住人達は瓦礫のバケモノを目の当たりにし――いや、むしろ瓦礫が動き出した時から、蜘蛛の巣を散らしたように逃げ出している。

 その際、誰が叫んだか。



「“廃棄怪物ダスティード”が出たぞぉおお!!」



 大きさ的には4メートル程度。

 『廃棄怪物ダスティード』と呼ばれた生まれたてのバケモノが、武骨な瓦礫の身体をゆっくりと動かし始める。

 その際「バキバキッ」だとか「ガキンッ」といった系統の音が周囲に鳴り響き、廃棄怪物ダスティードは瓦礫の腕を伸ばし、ガラガラと音を立てて足元の瓦礫を引っこ抜いた。


(あれ? これはまさか……)


 嫌な予感ほど的中率は高い。

 その予想に反することなく、廃棄怪物ダスティードが引っこ抜いた瓦礫を――こちら目掛けて投げてくる!!

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