28話:金持ち殺しの賞金首
牢屋から出て、“
頭に大き目なバンダナを巻いた彼は告げた。
「さぁ、醜い奴隷諸君。世界一醜い“殺し合い”を始めようか」
「「「………………」」」
男性の発言に全員が絶句。
しばらくして、一部の者からようやく絞り出された言葉も大した意味は成さない。
「殺し合いを、始める……? 一体どういうことだ?」
「おいおい、先の説明で理解出来なかったか? ここに居る全員を『“
「「「ッ!?」」」
「世の金持ち共は、都合が悪くなるとすぐに逃げるからな。逃げ場を失くすこの“
「ふッ、ふざけるのも大概にしろ!! 奴隷の分際で!!」
二階席に居た客の一人が叫ぶ。
どうも見覚えがあるなと思ったら、ダークエルフの少女を1億で競り落とした恰幅の良い客だ。
対する野次を投げられたバンダナの男は無言のまま横に歩き、倒れた警備兵の手から短刀を拾う。
それを、
「ッ――」
狙いは恰幅の良い客。
咄嗟に動けぬ彼の体格では避けることが叶わず、代わりにボクが“斬撃”で弾く!!
「ひぃッ!?」
悲鳴を上げた恰幅の良い客。
その顔のすぐ横を短刀が過ぎ去り、背後の座席に命中。
ギリギリ間に合ったボクは安堵するも、短刀を投げたバンダナの男は不機嫌に唇を歪める。
「……解せんな。奴隷を解放するような人間が、何故あの
「それはちょっと、流石に主観が過ぎるんじゃない?」
周りの人間を不幸にせずに、真面目に頑張ってお金持ちになった人だって世の中にはいるだろう――が、彼の言わんとしていることも一理ある。
クルリと、ボクは恰幅の良い客に視線を向けた。
「興味本位で1つ聞くけど、おじさんはどうやってお金持ちになったの? 何か悪いことした?」
「ち、違う!! 人材派遣のビジネスがたまたま上手くいっただけだ!! 神に誓って悪いことはしていない!!」
怯えた顔で、恰幅の良い客がブンブンと首を横に振る。
その首に付いた脂肪が面白いくらいに揺れて、そこに「揺れてるなぁ」と意識を持って行った結果。
銃声!!
恰幅の良い客が懐から銃を取り出し、問答無用でボクに発砲。
結果、それを難なく避けたボクを見て、悔し気にギリリッと歯を食いしばる。
「糞ッ、貴様を殺せば俺がここから出れたのに――」
刺ッ!!
悪態を吐く恰幅の良い客、その喉に“短刀が突き刺さった”。
バンダナの男が再び短刀を投げ、それが恰幅の良い客の喉に命中したのだ。
「うが……ぇ……」
言葉にならぬ言葉を最後に、恰幅の良い客は倒れる。
即死はしないだろうけれど、最早彼が助かる道も無いだろう。
それから、主犯であるバンダナの男はボクを見ながら不敵な笑みを浮かべた。
「どうした、今度は助けないのか?」
「うん、まぁ残念だけどね。あの人は“もういい”かなって」
「ははっ、切り替えの早い小僧だ。だったら先程も助けなければ良かったものを」
「それは結果論だよ。さっきは“良いお金持ち”か、それとも“悪いお金持ち”かわからなかったし」
だから仕方がない、と思ったけれど。
そもそもここに奴隷を買いに来て、夜の相手をさせようとしていた人間がまともな人である筈が無いか。
だったら先程の時点で助けないことが正解。
あんなゴミクズみたいな人間は、さっさと死んだ方が世の中の為に――
「「「う、うわぁぁぁぁああああ!!!!」」」
遅ればせながら。
恰幅の良い客が倒れた事で――“2人目の死者”が出た事で、オークションの客全員が理解する。
そして、脱出する為には“誰かを殺さなければならない”ことを。
結果、始まったのは阿鼻叫喚の“殺し合い”。
隠し持っていた銃を取り出し、その銃を奪われ、発砲され、アチコチで悲鳴と血飛沫が上がる。
(……まるで地獄だ)
地獄でもないのに、地獄の底と変わらない。
正真正銘の命を懸けたこの争いは、ボクにはもう止めようがない。
「――小僧、コレが答えだ」
ステージ上からボクを見据え、バンダナの男がゴミでも見る様な目で客席を一瞥。
「少なくとも、ここに奴隷を買いに来るような輩にまともな金持ちは居ない。最初からわかっていたことだろう?」
「……かもね。それで、アンタの目的は何? 皆に殺し合いをさせて何がしたいの?」
「わからないか? ここには奴隷を買いに来た金持ちが大勢集まっている。だったら全員殺してその金を奪えば、俺は一瞬で大金持ちって訳だ」
「なるほど。結局アンタもお金が欲しいだけか。ここにいるお金持ちと大差無いね」
「いいや、大ありだ。俺は悪い金持ちから金を奪っている。不当に搾取された金を取り返しているだけだ。つまりコレは正義の行い、違うか?」
「違うかどうかは知らないけど、流石に“全員”は欲張り過ぎじゃない? もうとっくに誰か逃げちゃってるかも知れないよ」
「ハッ、それが出来ればな」
意味有り気な男性の返し。
誰か殺せば“
それらを全て引き留めるのは流石に無理なのでは? という疑問はすぐに疑問ではなくなる。
「や、やったッ、殺したぞ!! これで外に出られる!!」
銃を片手に、興奮した表情で喜ぶ男性客。
眼下で血を流して転がる死体を踏み越え、脱出の為に壁へと近づくも――
「痛ってぇぇええ~~!!」
壁に近づいた途端、光の剣に斬られた。
右腕から真っ赤な血を流し、その右腕を左手で押さえつつ、斬られた客はバンダナの男を睨む。
「おい貴様ッ、殺したのに出られないぞ!? どうなっているッ、話が違うぞ!!」
「いいや、何も違わないさ。お前等が“一人殺せばここから出られる”と勝手に解釈しただけだ。この
「「「ッ!?」」」
ここで明かされた真相に、争っていた客達が停止。
まだ命のある全ての者が、この殺し合いが如何に無慈悲なルールに縛られているのかを理解する。
ただ、それでも。
斬った斬られた、撃った撃たれたの恨みはあるのだろう。
一瞬の静寂の後、一部の者達が“引き続き殺し合いを再開”。
傍目から見て無意味なその争いを止める気力は、ボクの中に湧いてこない。
「あーあー全く、大変な事になっちまったな」
ステージから戻って来たイヴァンが、「疲れた」と言わんばかりに客席へドカッと座る。
「後輩、これはお前が撒いた種だぞ。何の考えも無しに奴隷を解放するからこうなるんだ」
「えぇ~? イヴァンも奴隷を解放しろって言ったじゃん。同罪だよ」
「うるせぇ。俺は後輩に責任を押し付けるタイプの先輩だ」
「さ、最低だ……っていうか、今まで何してたの? 随分と静かだったけど」
「ちょっとな、手持ちの手配書リストを漁ってた。あのおっさん、どうも見たことある顔だと思ったらコイツだ」
言って、イヴァンは手持ちの紙束から一枚の手配書を取り出す。
そこにはステージにいるバンダナの男と同じ顔の写真があり、名前と共に懸賞金が記されていた。
「奴は“金持ち殺し”で有名な男『サンディゴ』。懸賞金は――『1億3000万G』だ」
「えッ!?」
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