25話:闇の遊園地の催し物

 ようやく辿り着いた『闇の遊園地ベックスハイランド』。

 脱獄を手伝ってくれた白髭の老人:グラハムとここで落ち合うつもりが、ボクに声を掛けて来たのは「イヴァン」と名乗る端正な顔つきの男性だった。


「ジジイの遣いでテメェを迎えに来た」


 そう告げた彼の言葉に最初こそ警戒したものの――いや、今でも警戒を解いた訳ではないけれど、安堵する部分があったのも確か。

 先の言葉にある「ジジイ」とは、十中八九「グラハム」のことに他ならないだろう。


「アンタ、グラハムの仲間?」


「アンタじゃなくてイヴァン“さん”だ。“先輩”への言葉遣いには気を付けな」


「別に、アンタ等の仲間になったつもりは無いけど……」


「おぉ、結構尖ってんなお前。丸くしてやろうか?」


「………………(何を言ってるんだこの人は?)」


 会話が微妙に噛み合わない。

 白けた視線を男性――イヴァンに向けたところで、隣で話を聞いていた鬼姫おにひめがボクの服をグイっと引っ張る。


「ちょっとドラノア君、この男が出てくるなんて聞いてないんだけど?」


「え、何? この人有名なの?」


「おいおい、キミは本当に何も知らずに『Darkness World (暗黒世界)』へ来たのかい? 全く呆れるね」


 言葉通りに「やれやれ」と呆れ。

 それから鬼姫はイヴァンに話しかけた。


「まさかこんな場所で『朝霧あさぎり』のメンバーに遭遇するとは。一体、アナタ達は”何処まで進んでいるのかな”?」


「ケッ。どうですかと聞かれて易々話す訳ねーだろ。特に『五芒星ビッグファイブ』の組織にいる人間にはな」


「おや、私のことをご存じでしたか」


「少し前に話題になってたぜ。『闇砂漠商会』に入った新入りが、いきなり“億越えの賞金首”を倒したってよ。お前のことだろ?」


「さぁどうでしょう」


「とぼけても無駄だ。若い地獄の鬼族、しかも女だと聞いてる。試しに俺と戦ってみるか?」


「それも一興だが、生憎とお断りさせて頂こう。下手に揉め事を起こすとボスに殺され兼ねないのでね」


 ここまでの会話に一触即発の雰囲気は皆無。

 どちらも本気で戦う意思は見えず、互いに流すような会話でこの話は終わった。

 その後、鬼姫がスッと立ち上がる


「そういう訳でドラノア君、私はこの辺でさよならさせて貰うよ。これ以上長居するとトラブルに巻き込まれそうだ」


「あ、うん。ここまで運んでくれてありがと」


「お礼は要らないよ。運搬料は先払いで貰ってるからね」


「………………(ボクが貰いそびれた50万Gのことか)」


 これを高くついたと思うか、それとも安く済んだと思うか。

 何とも真意の掴めない鬼姫の後姿を見送った後、「自称:先輩」のイヴァンが周囲を一瞥した後、一言。


「場所を変えるぞ」



 ■



 白髭の老人:グラハムの遣いで来たという「イヴァン」の後を歩くこと数分。


 ボク等がやって来たのは、入り口近くのモール内にあるカフェテリアの更に奥。

 係の者から「⑰番の番号札」をイヴァンが受け取り、案内されるがままやって来た先は――。


「劇場……?」


 開けた空間に出たと思ったら、一番下がステージとなっている天井の高い劇場だ。

 ステージ正面には階段状の客席があり、それを囲むように2階席・3階席が確認出来る。


 最大収容人数はパッと見で300人程。

 今現在の座席の埋まり具合は3分の1といったところで、ボク等が居るのは二階席の端っこだった。


「何? ここで演劇でも見るの? あんまり興味無いんだけど」


「席に座れ」


 こちらの意見は完全無視。

 まずはイヴァンが近くの椅子に座り、仕方なくボクも隣に座る。


「何のショーが始まるの?」


「まぁ待て、まずは俺の質問に答えろ。ずっと持ってるその壺は?」


「あー、話せば長いんだけど」


 かくかくしかじかと、手短にパルフェのことを説明。

 肝心のパルフェが眠っているので半信半疑なイヴァンだけど、ボクが嘘を吐く意味も無いので一応は信じてくれたらしい。


「――という訳なんだけど、彼女を元に戻す方法を知らない?」


「さぁな、俺はそう言うのに詳しくない。まぁ“あやつ”なら何か知ってる可能性もがあるが……」


「あいつ?」


「『朝霧アサギリ』の隠れ家アジトにいる医者だ。怪しいモンにやたら詳しいから、その蜂蜜女を診て貰いな」


「その『朝霧アサギリ』っていうのが、グラハムの組織ってことでいいの?」


「おいおい、それも聞いてねぇのか? ったく」


 面倒臭い、と言わんばかりの表情を見せた後。

 イヴァンは前の座席に脚を乗せ、いつの間にか半分以上埋まっていた一階客席をジロリと眺め、それから改めて口を開く。


「その認識で間違いない。『秘密結社』を名乗ってはいるが、まぁ詳しくはジジイから聞け。そっちの方がお前も納得するだろ」


「わかった。ちなみに、隠れ家アジトがあるのは『闇の遊園地ベックスハイランド』じゃないの?」


「それはまた別の場所だ。後で俺が直接案内する」


「ふ~ん? 用心深いんだね」


「当然のことだ」とイヴァンが鼻を鳴らしたタイミング。

 劇場の照明が一斉に暗くなり、それから間を開けずにステージの一点がスポットライトで照らされる。

 そこには燕尾服を着た男性が立っており、マイクを片手に軽快な喋りを始めた。



『ご来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました。これより皆様お待ちかねの“オークション”を開催致します!!』



(……は?)


 ボクの戸惑いとは真逆。

 劇場は「ワアァッ」と盛り上がり、耳に五月蠅い音楽と共に煌びやかな照明がステージを照らす。


「何これ、今から何が始まるの?」


「あの男が言っただろ、これから“オークション”が始まるのさ」


「えっと……全く意味がわからないんだけど。別にオークションとか興味無いし。骨董品でも競り落とすの?」


「まぁとりあえず見とけ。すぐにわかる」


 勿体付けるイヴァンが下のステージを顎で指す。

 それを合図にした訳ではないだろうが、五月蠅い音楽がピタリと鳴り止んだ。


 そしてステージの中央には“檻に閉じ込められた女性”が台車に乗って登場。 

 先の盛り上がりとは少し変わり「オォォッ!!」と感心交じりの声が響く中、ボクは戸惑いつつも檻の女性に目を奪われる。


(褐色の肌……それに、あの尖った長い耳は……いや、それよりもどうして彼女は「檻の中」に?)


 何だか嫌な予感を覚えた、その答え合わせ。

 燕尾服を着た進行役の男が、マイクに向かって声高らかに叫ぶ。



『商品番号001。『Fantasy World (幻想世界)』原産、ダークエルフ族の美少女:ロロ!! 美人揃いのエルフ族の中でも、更に希少なダークエルフ族の15歳です!! スタートは3000万Gから!!』



(ッ~~!!)


 やはり、嫌な予感は的中。

 すぐさま視線を横に向けると、イヴァンが涼しい顔をボクに返す。


「参加するのは初めてか? コレが『Darkness World (暗黒世界)』に蔓延る闇の1つ――“奴隷オークション”だ」

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