■【右腕を代償に「黒ヘビの腕」を手に入れた少年の復讐劇】 ~ 死後、4000年の殺し合いを経て地獄最強の咎人となった少年が、地獄を抜け出し欲望渦巻く「闇の世界」で成り上がる!! ~
23話:約束の地『闇の遊園地《ベックスハイランド》』
23話:約束の地『闇の遊園地《ベックスハイランド》』
――パチリ。
目を覚ますと、見知らぬ天井がボクの視界に映った。
どうやら何処かの室内で眠りに着いていたらしく、背中には固めなベッドの感触もある。
それから視線を横に動かすと、枕の先に「地獄の鬼族」である少女:
ガラス窓から外を眺めている様だけど、この薄暗い世界では綺麗な景色など到底望めないだろう。
「……あの化け物は?」
「おや、ようやくお目覚めか。ドラノア君は随分とお寝坊さんだね」
視線を窓からボクに戻し、それから彼女がベッドの上に腰掛ける。
「暴食のグラトニーなら、キミをぶっ飛ばした後にいくつか建物を壊して街を出て行ったよ」
「出て行った? ボクに止めを刺さなかったの?」
「あぁ。というよりも、そもそも奴には“戦っていた自覚”があったかどうかも微妙なところだね。せいぜい食事の邪魔をする
「………………」
暴食のグラトニーにとって、ボクはそのレベルの存在でしかないらしい。
余りにも遠過ぎて、余りにも高過ぎる壁は、何処まで進んで何処まで登れば越えられるのか、頂上が全く見えてこない。
少しばかり、心も折れる。
が、折れたところで現状が好転することは無い。
そんな当たり前のことは地獄の4000年で死ぬ程この身に刻んで来た。
心が折れたのなら接着剤で無理やりくっつけ、くっついたと思い込んで前に進むしか道は無いのだ。
前に進む時間の中でしか、折れた心が元通りに、そして元以上の強度になることはないのだから――。
「ドラノア君……大丈夫?」
(ん?)
鬼姫とは反対側。
ベッドのサイドテーブルに壺が置かれ、そこから蜂蜜になったパルフェが顔(?)を覗かせていた。
「あまり無茶しないでね。『
「うん、まぁ……今後は気を付けるよ」
「私の用心棒なんだから、絶対死んじゃ駄目だよ?」
「……わかったよ」
少々気まずく、誤魔化すようにボクは鬼姫を見る。
「それで、ボクはどれくらい寝てたの?」
「そうだね、だいたい2年くらいかな?」
「2年!?」
驚愕に目を見開く。
直後、パルフェから訂正が入る。
「ほ、本当は2日くらいだよ。鬼姫ちゃん、すぐ嘘吐くんだから」
「ちょっとちょっと、ネタ晴らしが早過ぎるよ。もう少しドラノア君で遊んでもいいだろう。姫様は正直が過ぎる」
「えへへ、それほどでも」
「褒めてないんだけど?」
ジト目を向ける鬼姫と、それをサラリと受け流すパルフェ。
どうやら知らぬ間に仲良くなっていたみたいだけど、まぁ同世代の女子が2日も一緒に居たら当然か。
それよりも気になるのは“別のこと”。
「ボク、2日も眠ってたのか……。ちょっとマズいね、約束の期限までもう時間が――痛ッ」
ベッドから起き上がろうとして、激痛。
堪らずその場でフリーズし、それからゆっくり身体を動かして何とかベッドに腰掛ける。
無理すれば動けなくも無いけど……正直、厳しい。
「そりゃそうだよ。『
「でも、急いで『
立ち上がろうとするも、やはり身体が拒否反応を示す。
「無理しないで」とパルフェが心配そうな声を掛けてくれるけど、だからと言って悠長にしている暇は無い。
(参ったね……『
約束の期限まで残り2日も無い。
身体に鞭を打ってでも先に進まなければ、最悪地獄に送り返される可能性がある。
痛みを堪え、何とか立ち上がる――そこで、「はぁ~」と鬼姫の溜息。
「しょうがない、私が“列車まで”背負ってあげよう」
「列車……?」
「窓の外を見てご覧。『
「あ、本当だ。でも何でここに止まってるの?」
「暴食のグラトニーがアチコチ破壊して、列車もここで脚止めをくらっていたのさ。それにほら、置き去りにされた“5号車”もここまで引っ張って来て連結済み。キミが呑気にも寝ている間に、皆頑張っていたんだよ」
「別に、呑気に寝てた訳じゃないけど……」
ともあれ、これで「脚」を取り戻した。
あと2時間程で列車が出発するらしく、多少情けなくとも背に腹は代えられない。
気恥ずかしさを捨ててボクは彼女に背負ってもらい、唯一自由に動ける黒ヘビの右腕でパルフェの壺を持つ。
それでも鬼姫はビクともせず、その体幹の強さには驚くばかりだ。
「重くないの?」
「全然、軽いくらいだよ。っていうやり取りは、普通“男女”逆の立場でするべきなんだけどね」
「………………」
至極真っ当な意見に反論できる訳も無く。
ボクは鬼姫に背負ってもらい、何とか無事に列車への再乗車を果たした次第だ。
■
~ 翌日 ~
ボク等が再乗車した列車は、大きく速度を落としての運行となった。
線路の安全確認に加えて、臨時的に『暗黒街:ボッティ(グラトニーに半壊された街)』の住人を列車に乗せた結果だ。
結局、列車の移動だけで丸一日時間が掛かってしまったが、何とか前方に“目的地の灯り”が見えて来た。
5日以内という期限にも何とか間に合いそうだし、睡眠がバッチリとれたのは怪我の功名。
身体の痛みも多少は引いて来たので、全体としては結果オーライと言えるだろう。
「ようやく『
これは少々予想外。
遊園地と銘打っているので、観覧車やジェットコースターの灯りが見えたのは予想通りだが、それが“大きな湖の孤島”にあるとは思っていなかった。
「おや、知らなかったのかい? 『
今更? とでも言わんばかりの顔で鬼姫がボクを見る。
そんなボクが持つ壺の中から顔(?)を覗かせるパルフェが、瞳をキラキラと輝かせた。
「わぁ~、『Darkness World (暗黒世界)』にこんな楽しい場所があったんだね」
「そうだね。まぁある意味では楽しい場所かもね」
「私、ジェットコースター乗ってみたいなー」
「壺の持ち込みがOKなら、ドラノア君に頼んでみるといい。でも、風で飛ばされてバラバラになっても知らないよ? 下手すりゃそのまま湖に落ちて、一生見つけられないかもね」
「うぅ、やっぱり辞めておきます……」
元の身体に戻れるかどうかもわからないのに、バラバラになるリスクは流石に負えない。
パルフェがしょぼんと落ち込んだ(様に見えた)ところで、『
誰一人として、これから“一波乱”起きることを知らぬままに。
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