■【右腕を代償に「黒ヘビの腕」を手に入れた少年の復讐劇】 ~ 死後、4000年の殺し合いを経て地獄最強の咎人となった少年が、地獄を抜け出し欲望渦巻く「闇の世界」で成り上がる!! ~
10話:人攫いと“魂乃炎《アトリビュート》”
10話:人攫いと“魂乃炎《アトリビュート》”
~ 『暗黒街:ナイカポネ』の路地裏にて ~
「はぁ~、参ったな。まさか振出しに戻るとは……」
薄暗い路地の片隅。
乱雑に積まれた木箱の上で、ボクは今後の身の振り方を考る。
(
労働の対価として、喉から手が出る程にお金は欲しいけど、あの“白髭老人:グラハム”の指示を無視する訳にもいかない。
別にお金を奪って逃げた訳でもないし、わざわざ鬼姫がボクを追いかけて来るとも思えないものの……面倒になる前に姿を隠した方が無難か。
(未だジャックに繋がる情報はゼロ。肝心のお金もゼロだけど……闇に紛れて列車に潜り込めば何とかなるか?)
ここでの情報収集が難しくなった以上、何とか列車にタダ乗りして他の街まで移動する他ない。
目的地である『
「ははっ、ボクも立派な悪党に成り下がったな……まぁ今更だ」
自然と笑みもこぼれるが、嬉しさ故でないのは明白。
既に、ボクは人の命を奪っている。
明日になれば生き返る地獄ではなく、この現世で人を殺したのだ。
彼等の人生は間違いなく終焉を迎え、死後は魂が擦り減って消えるまで、地獄の日々を繰り返すだけ。
いくらゴミの様な悪党だとしても、その地獄へボクが送り込んだ事実は覆らない。
無論、覆すつもりも無いけれど……それでも。
ボクの中の善悪がグルグルと渦を巻き、徐々に線引きを難しくさせてゆく。
(駄目だ駄目だッ、考え込んでも始まらない。――よし、もう行こう。ジャックに復讐するまで、ボクは立ち止まる訳にはいかないんだ)
復讐こそが生きる道。
前途多難な船出だとしても、船を出せただけで御の字だろう。
ここに至る4000年の地獄を想えば、この程度の困難は数えるにも値しない。
かくして、気持ちを新たに。
ボクは人目に付かない細い路地を選びつつ、「駅」を目指して歩き始めたが、すぐにその足を止めることになる。
――――――――
(……いいなぁ、凄く美味しそう。久しく嗅いでいなかった“甘い匂い”だ)
『暗黒街』という響きを聞くと。
人によっては怪しい露天しかないと思うかも知れないが、人間が生きる以上は食べ物を扱う店も多い。
駅を目指す最中、薄暗い街に似合わず「パフェ」を売っている露店を見つけて足を止めたが、それを買うお金を持っていないのは先の通り。
(どうしよう、物凄く食べたい。無性に甘いモノが食べたいけど……うん、やっぱり辞めておこう。まだ盗みに手を出すほど追い込まれてないし)
善人ぶるつもりは無いけれど、それでもせっかく脱獄した――ある意味では“生き返った”のだ。
死ぬ前とは何もかもが違うけれど、人として最低限の「正義」くらいは貫きたい。
そうでなければ、他人に好き勝手迷惑をかける馬鹿共と同じになってしまうと、そう自分に言い聞かせて。
後ろ髪を引かれる気持ちを無理やり断ち切り。
そのまましばらく歩いて、まもなく駅に到着となる、その手前。
「ん?(あの集団は……?)」
路地を曲がった先に居たのは、帽子とマスクで顔を隠す5人の集団。
そして、彼等によって
この光景が一体何を表しているのか、それがわからない程ボクも馬鹿になったつもりはない。
(
この薄暗い世界で「白昼堂々」という表現が適切なのかどうかはさて置き。
このまま女性を見捨てて駅に向かうほど、ボクの「正義」も死んではいない。
列車が出るまでしばらく時間もあるし、彼女を助ける程度のタイムロスは許容の範囲内だろう。
(でも、街中で暴れると『
■
頭陀袋(中身入り)を担ぎ上げ、それを運び始めたマスク集団。
気付かれない様にコッソリと彼等の後を追うと、細い路地をいくつか曲がり、そのまま街の外へと出て行く。
一体何処まで運ぶのかと思えば、彼等は大きく迂回してから「霧深い森」へと足を踏み入れた。
そこにはガタイの良い馬が2頭いて、その後ろには荷車が――つまりは馬車が用意してある。
誘拐した女性を何処かに運んで、闇のオークションで売り飛ばすという、そんなシナリオがありありと見て取れた。
「ねぇ、その人はいくらで売れるの?」
「「「ッ!?」」」
声を掛けると、目を見開き驚く5人。
すぐさま腰のナイフに手を伸ばす彼等だが、遅い。
「“
「「「ぎゃぁぁああ!?」」」
連続で放った風の刃が、5人の身体を斬り刻む!!
実力の差は圧倒的。
成す術も無く斬られた彼等は、反撃を諦めて一目散に逃走。
逃げるその背中に追撃を入れようとナイフを構えるも、“少し前の感触”がボクの手を
(……まぁいいや。嬉々として人を殺したい訳でもないし)
スッと、静かにナイフを下ろしたボクの左手。
この左手は、既に一生落ちることのない汚れが付着している。
今更多少の汚れが増えたところで大差は無いと思うけど、それでも彼等に対して「殺したい」程の恨みも無いし、今回は見逃しておこう。
ただし。
脚を斬られた為に、
「た、頼むッ、見逃してくれ!! 俺には子供がいるんだ……ッ!! 子供の為に仕方なく……!!」
そうやってこちらを油断させ――
「死ねぇ!!」
背中を向けたボクに、隠し持っていたナイフを突きつけてくる!!
そのナイフが突き刺さる前に、ボクは思う。
(あぁ、どうしてこの世界には、こんな糞みたいな人間が蔓延っているんだろう? ちゃんと掃除すればいいのに……その為の『世界管理局』があって、管理者も居るというのに。彼等は何をやっているんだ?)
いやまぁ、その管理者の一人を失神させて、ボクは逃げて来た訳だけど……それは置いておくとして。
とにかくコイツは「駄目」だ。
人の良心を弄ぶ、人の形をしたゴミだ。
ゴミは綺麗に片付けなくちゃいけない。
(さぁ、ゴミ掃除の時間だ)
――斬ッ!!
背中を向けたまま、背後に一閃。
「……あ?」
理解の遅れた彼の口。
そこから人生最後の一言が出たのは、彼の首が身体を離れ、無造作に地面を転がった後だった。
―――――――――
――――
――
―
「あの~、大丈夫?」
馬車の荷台から頭陀袋を降ろし。
苔むした地面の上で、閉じられた袋の口をナイフで開封。
中を覗き、声を掛けると……
「むぅ~~ッ!!」
余程怖かったのか、涙目の怯えた表情から、恐怖混じりの
手足を縄で、口はテープで封じられているみたいだけど、意識はしっかりしているので大きな問題は無いだろう。
「怖がらなくていいよ。ボクは人攫いじゃないから」
まずは口のテープを剥がそうと、優しく声を掛けるも――「ガサリ」。
背後で草むらの揺れる音がしたかと思えば、ドスの利いた声が響く。
「……おい
草むらから姿を現したのは、“生首を手にした大男”。
身長は3メートル程で、ボクの復讐相手「ジャック・A・バルバドス」や、地獄で教育係だった「赤鬼の獄卒」と同格。
更には人間らしからぬ「
何とも情報盛り沢山の男だが、先の発言から生首の兄であることは間違いない。
恐らくは「攫い屋集団の親玉」といったところだろう。
しかし、それら色んな情報を差し置いて。
一番無視出来ない点は、その胸に「轟々と燃ゆる炎が灯っている」ことか――。
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