【1章:復讐編(全15話) ~少年は闇の街を奔走し、人攫いから少女を助け、4000年越しの復讐を果たす~】

6話:『Darkness World (暗黒世界)』

*まえがき

この【1章】で登場する少女二人の挿絵を描いています↓

ネタバレ要素もありますので、気にされない方のみご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330664964692248


以下、本編です。

――――――――――――――――


 つい先程の事だ。

 地獄の管理局で「青い光」に包まれたボクは、重力を感じない光のトンネルを進んでいた。

 無数の流れ星を眺めているような目映まばゆい光景の中、自分で制御出来ることは1つもなく、それも時間にすれば僅か10秒程の出来事。


 流れるままに光のトンネルを抜けると――そこは「室内」。

 高い天井を有する吹き抜けの建物で、背後には地獄でも見た巨大な鏡:『世界扉ポータル』が鎮座している。


「ここは……『Darkness World (暗黒世界)』の管理局か」



 ■



 ~ 『D』の世界:『Darkness World (暗黒世界)』 ~ 


 26世界から成る新世界『AtoAアトア』の中で、地獄からの「逃亡先」に選んだのが『Darkness World (暗黒世界)』。

 昼夜を問わず「黒紫の空」に支配されている薄暗い世界で、その原因は上空を漂う大気が異様に濃い為だと聞いている。


 実際、窓から見える外の景色も薄暗いが、それよりも無視出来ないのは、ボクの視界に映る“モノクロの制服を着た強面の男性”か。


「むッ、何だ貴様……咎人トガビトの服? それに、その右腕……怪しい、怪しいぞ貴様」


 ボクを見つけて早々、眉をひそめる強面の男性。

 今回の脱獄では管理者用の『世界扉ポータル』を使用した為、当然ながら渡航先は「管理局の敷地内」。

 つまり、彼を含めた「管理者」数名がジロジロとボクを怪しんでおり――


「せいッ!!」


「わっ!?」


 強面の管理者がいきなり殴りかかって来た!!

 直撃するギリギリで避けつつ、問答無用が過ぎる行いに文句を返す。


「ちょっと、いきなり殴りかかるとかどういう了見なの? 普通、ボクが何者か聞いたりしない?」


「そんなものは捕まえてから聞けばいいだろう。怪しい貴様が悪いのだ。怪しいことが既に罪。怪しい奴に人権は無い!!」


 ブンッ!!

 再びの一撃を避けつつ、ボクは入口を目指して走る。


(こんな管理者に付き合ってられないッ。モタモタしている内に、地獄と連絡を取って応援でも呼ばれたら面倒だ)


「待たんか怪しい奴め!! 森を抜けて“暗黒街”へ逃げる気だな!?」


「生憎だけど、待てと言われて待つくらいなら逃げてないよ(っていうか、近くに暗黒街があるのか。コレは好都合だ)」


 図らずしも周辺情報のゲットに成功。

 突然の出来事に他の管理者が呆気に取られる中、身軽な身体を活かしてあっという間に入口から外へ。

 このまま逃走を見逃してくれたらありがたかったけれど、流石に管理者側もそこまで甘くない。


 銃声ドンッ!!


「ッ!?」


 背後からの銃弾が頬を掠め、ボクはその場に急停止。

 クルリと振り返り、硝煙が立ち昇る銃を手にした強面の管理者を睨み返す。


「――今の銃弾、ボクが反応しなかったら頭に直撃してたよ?」


「ハッ、笑わせてくれる。まるで銃弾を避けたみたいな言い方だが、たまたま俺の狙いが外れただけだろう? それに逃げると言うことは、後ろめたいことを隠しているも同義。怪しい奴に人権は無いと言った筈だ」


「……そう。まぁその考え、実は意外と嫌いじゃないよ。ちょっと行き過ぎてる気もするけど、管理者としては悪くないと思うし」


「ほう、話がわかるな小僧。確かに俺の行いはよく“行き過ぎている”と言われるが、それも全ては善良なる市民を守る為だ。俺は俺の正義を執行する為に、この『Darkness World (暗黒世界)』へ自ら志願して来た。貴様の様な人権を持たない輩を片っ端から捕まえ――」


 叩き付けドンッ!!

 黒ヘビを地面に叩き付け、強面の管理者に“土煙”をプレゼント。

「目くらましのつもりか!? 逃がすか!!」と煙の中に入った来た彼の首に、スッと黒ヘビを伸ばし、絞める!!



 “黒蛇クロノ首締めチョーク



「ッ~~!?」


 突然の首絞めに、声ならぬ悲鳴を上げる強面の管理者。

 黒ヘビに首を絞められ、尚且つ“空中に持ち上げられた”彼が意識を保てるのは、せいぜい十数秒が限界か。

 しばらくジタバタ暴れた後、強面の管理者はガクッと意識を失った。


「――仕事熱心なのは結構だけど、こっちも捕まる訳にはいかないんでね。……射撃の精度も無駄に高かったし」


 念の為に補足を入れておくと、黒ヘビで締めたのは首の“頸動脈けいどうみゃく”。

 殺した訳ではなく、血管を圧迫して血の流れを抑えた結果の失神であり、彼が意識を取り戻すのは時間の問題だろう。


 かくして静かになった彼を地面に降ろし、ボクは改めて逃走を開始。

 他の管理者はただ怯えて建物に隠れる中、唯一勇敢だった強面の管理者に心の中でエールを送りつつ、何処かさびれた感のある薄暗い町並みを疾走。

 そのまま人気のない路地を抜けて、先の見えない「霧深い森」へと逃げ込んだ。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ~ 2時間後 ~


 進んでも進んでも似たような景色が続いていた霧深い森にて。

 強面の管理者が言っていた情報はデタラメだったのではないかと、半信半疑の「疑」が7割近くを占めて来た辺りのこと。


 曲がりくねった木々の向こう側に、ようやく希望の光が見えて来た。



 ■



 ~ 『暗黒街:ナイカポネ』 ~


 その身を追われた「ならず者」が身を潜め、そのやから共を相手に商売人が集まって生まれた「闇の街」。

 新世界『AtoAアトア』の中でも、特に『Darkness World:暗黒世界』には数多くの暗黒街が存在し、世界を統治する管理者でさえ迂闊に手が出せない「無法地帯」となってる。


(一般人には危険な街だけど、今のボクにとっては逆に安全な筈だ)


 木を隠すなら森の中。

 石を投げれば犯罪者に当たるこの街は、身分を隠すには好都合。


 だからこそ暗黒街に逃げ込んで来た訳だけど……とは言え。

 いくら空が暗くても「脱獄した姿」のままでウロウロするのは悪手。

 人目を引く黒ヘビは一旦右肩に戻し、ゴミ捨て場で拾ったボロ布を羽織って「咎人トガビトの服」も隠した。


 これでとりあえずは怪しまれないだろうが、問題は山積み。

 何をどうしたものかと思考を回すも、やはり無視出来ないのは“あの言葉”だろう。



“『D』の世界:『Darkness World:暗黒世界』に来い。続きはそこで話す”



 ――地獄で『世界扉ポータル』を使用する際、脱獄を手伝ってくれた“しゃがれ声”はそう言っていた。

 その指示通り、こうして『Darkness World (暗黒世界)』に渡航して来たはいいものの、次に取るべき行動がわからない。


(“あの老人”が何処にいるのか、全くわかんないしなぁ……)


 地獄の殺し合いで「生き残った咎人を脱獄させる」という、とんでもない提案をしてきた白髭の老人:グラハム。

 ボクに指示を出したしゃがれ声の主はあの老人に間違いないと思うけど、彼と会わないことには話が先に進まない。


(何とか脱獄は成功したけど、ここからどうしたらいいんだ? あの老人が来るのを待つべきなのか?)


 動くのが正解か、動かないのが正解か。

 どちらを選んだところで、こんな薄暗い世界では明るい未来が見える気もしない。


 一体どうしたものかと、人通りの少ない路地で迷っていると――羽音バサリッ


 悩めるボクの前に、子羊を救う天使の様に一羽の真っ黒いカラスが降り立った。

 小さなシルクハットを被った風変りなカラスで、足には僅かに自己発光する青い筒を付けている。


「……“鴉手紙カラスレター”?」


 世界を越えて手紙を届ける「カラスの郵便屋」。

 手紙を渡したい相手の“髪の毛”や“爪”を持たせる必要はあるが、情報通信の手段として古くから利用されている。


(どうやらボク宛みたいだね……)


 いつ、何処で髪の毛を取られていたのかは気になるが、何はともあれ待望していた進展の兆し。

 カラスの脚に括りつけられた「青い筒」を外し、中から丸まった手紙を取り外す。

 そして「仕事は終わった」とばかりに飛び立ったカラスを見送り、広げた手紙に記されていた文面を見て――絶句。


 手紙には、次の文言が記されていた。


 ================

“5日以内に『闇の遊園地ベックスハイランド』まで来い。間に合わなければ貴様を殺す”。

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 ――――――――

*あとがき

 次話、「鬼族の少女」登場です。

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