長い鎖の果て
隼は暴力を受ける雄飛を見ることしかできなかった。
「お前、助け呼んだらどうなるか分かるやろ」
雄飛を取り囲む男の一人はそういい放つと、雄飛のみぞおちを突いた。路地に激しく胸の鼓動が強くなった。腹を蹴り上げる鈍い音と雄飛のうめき声が嫌でも耳に入ってくる。その度にお腹に重たい衝撃が走った。助けようと心を砕き、強く結んだ唇を嚙んだ。
「おい、きったね」
深く息を吸ったときの嘔吐物とアルコールの入り混じった匂いが隼の意識を現実に戻した。男たちは雄飛から後ずさりするように距離を取った。彼らの隙間からクラブで飲んだお酒と胃液がアスファルトに広がっていくのが見えた。
「おい靴弁償しろよ」
リーダー格の男が雄飛のポケットをまさぐると財布を抜き取った。
「靴代ありがとねー」
唾を吐き捨てるとゲラゲラと笑いながらメインストリートの人ごみに消えていった。
「雄飛!」
緊張から解放された隼は雄飛に駆け寄った。雄飛の不規則な呼吸からは嫌なにおいがした。
「なんで助けんかった」
絞り出すような声で雄飛に睨まれ、隼は口をつぐんだ。
「ごめん」
声の震えはどうにも抑えられなかった。視界が歪み、何度も目をつむると、額にしずくが垂れた。
「泣きたいのは俺の方だよ」
怒気を含んだ声に隼はただ頭を下げた。
「いいからはよ助けろ。なんでずっとゲロの横に寝かせとくんや」
立ち上がろうと体を支える腕はすぐに崩れてしまいそうで急いで差し伸べた手は強く握られた。肩を借りながらなんとか立ち上がった雄飛は『そこでいい』と壁にもたれかかるように座った。
「ごめん」
「いや自業自得やから。クラブで喧嘩買った俺が悪い」
隼のペットボトルは空になり、軽い音を立てて暗闇に転がっていった。
掛けてあげる言葉が見つからず、二人の間に淀んだ空気が流れ始めた頃、雄飛は『行くか』とよろめきながら立ち上がった。
「行くってどこ行くんだよ」
「家に帰るんだよ」
肩を貸そうと差し伸べた隼の手は払われた。歩き方に違和感はあったがそれでも負けじと雄飛は足を前に出し続けた。
「雄飛それでどうやって帰るんだよ」
「タクシーだよタクシー。助けなかったバツとしてタクシー代は出せよ」
路地を出るといつものストリートに世界は戻った。
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