決着
セントラルタワーから少し離れた、廃倉庫が建ち並ぶ倉庫街。そんな人気の無い場所で、男が二人、対峙していた。一人は若者で、もう一人は中年であった。双方ともに、ボロボロであった。服も体も。
「なんて無茶な事をしてくれたんだよ!」
「ああでもしないと、生き延びられないと思ってな!」
シルバーブレッドと、ジャックポットであった。二人は爆発から逃れ、セントラルタワーに来るまでと同じように走り回っていたのである。とうとう逃げ場の無い所まで、辿り着いたのである。
「いい加減に……ケリをつけるか…………」
「そうだな……」
シルバーブレッドは、懐から銃を出す。弾は少ないので、確実に撃つ必要があった。
残りは3発だった。
しかし、心配はないと思っていた。ジャックポットに向かって、しっかりと構える。その時、腕があまり上がらなかった。最後の爆発から受けたダメージが、確実にあったのである。そこをジャックポットは、見逃さなかった。上手く構えられなければ当たらないと踏んだのである。ジャックポットはゆっくりと、ポケットに右手を入れる。
「おいっ、手は出せ!」
「分かってるよ……」
言われた通り、ジャックポットは右手をポケットから出す。何も持っていない様に見えた。シルバーブレッドは、ゆっくりと銃を構え、引き金を引く。その瞬間、ジャックポットは横に飛んだ。弾は外れた。
残り2発。
ジャックポットが飛んだ先には、幾つかの積み上げられた箱があり、駆け登る。シルバーブレッドは体を狙うも、外れた。
残り1発。
頂上からジャンプした。かなりの高さで、シルバーブレッドが狙おうとするも、腕が上がらなかった。ジャックポットは右の拳を殴りつける為に、シルバーブレッドの顔に飛びかかる。腕力と重力、そして
「ぐああぁぁぁーーー!!!!!!」
シルバーブレッドは、あまりの痛みに銃を落とした。そして殴られた顔を押さえる。顔というよりも、眼だった。ジャックポットは、余裕の笑みを浮かべる。
「効いたみたいだな!」
「ハァ……テメェ……何をしたっ!」
「簡単な事さ。若い力と、落ちる勢いと、これさ。」
ジャックポットは血に染まる己の右手を開くと、中から長いボルトが出てきたのである。
「いつ……どこで…………」
「下水道で、くすねたのさ。」
ジャックポットは、ゆっくりとシルバーブレッドの銃に近づく。拾い上げると、眼を抑えるシルバーブレッドのそばに行き、頭に銃を突きつける。
「俺の勝ちだな!」
「……そうだな…………その前に1つ、言いt」
「分かってるよ!安全装置だろ???」
「……そうだ…………」
「仕方ない!ちゃーんと、目で、見てやるよ!!!」
ジャックポットは分かりやすいぐらいに、シルバーブレッドの銃の安全装置を見る。
「
ジャックポットは、安全装置を外した。そして、しっかりとシルバーブレッドの頭に銃を押し付け、確実に殺せるようにした。
「さようなら、過去の栄光。」
「…………………………」
「こんにちは、未来の名誉。」
「………………………………」
ジャックポットは、引き金を引いた。
廃線の上に、二人の男が立っている。一人は上半身裸で、もう一人が全身から血が出ていた。爆発によって、怪我は無いものの外に吹き飛ばされたのである。セントラルタワー周辺には、かなりの野次馬と警察官・消防士がいたので、それらから逃れるために近く線路を走る貨物列車に飛び乗った。そして、誰もいないところで降りたのである。示し合わせた訳では無いが、同じ電車に乗り、同じ場所で降りたのである。
「お互いに……そろそろ限界みたいだね…………」
「関係ないな!」
「僕は失うものは無いし……死にたいけど……そっちは困るんじゃ……ないの?」
「関係ない!!!」
死なない男が飛びかかる。鉈を突き立てようとするも、死ねない男にかわされる。何度も切りかかるが、一向に当たらない。しかし、後ずさりしていた死ねない男が、足下の線路に躓き倒れ込んだ。
「終いだああぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
死なない男が、死ねない男に鉈を振り下ろす。この時、セントラルタワーで鉈を掴まれたことを思い出し、突き刺そうとすれば良かった。しかし、同じように振り下ろした。鉈は、手ではなく捨てられた貨物車両に壁に刺さってしまった。引き抜こうと力み、力み過ぎて、死なない男も倒れ込んだ。疲労や負傷で、力が上手くコントロール出来なくなっていた。しかも、倒れた拍子に鉈を放してしまった。少し先に、鉈は転がってしまった。すぐに取りに行こうと、這いつくばって進もうとするが、動けない。地面と線路の間に、いつの間にか右足が挟まってしまったのである。抜け出そうとするも、抜けない。侍に斬られた左足では、どうしようもない。あれこれ試していると、急に死なない男に影がかかった。影の正体を見ると、自身の落とした鉈を持つ、死ねない男だった。
「おい…………待ってくれよ………………」
「…………………………」
「家族がいるんだ!」
「バイバイ……」
死なない男の頭に、死ねない男は力いっぱい鉈を振り下ろした。
セントラルタワー地上駐車場に、二人の男がいた。二人とも血だらけな上に、服が焼けてしまっていた。先程までホールに居た、あの侍とカウボーイとは分からないレベルだった。どちらも、爆発をもろに喰らってしまい、すぐに治療が必要な状況だった。しかし、そんなことで、漢と漢の勝負を投げ出すわけにはいかなかった。カウボーイがリロードし終わると同時に、二人は駆け寄った。何度目かの銃撃と斬撃の勝負である。疲労やダメージにより、今まで以上に互いの攻撃が深く・強く受けてしまう。新たな傷口を増やしつつ、命を削りあう。その時、侍の斬撃を受け止めようとカウボーイが銃を突き出したところ、触れた場所が滑ってしまった。銃に血がついていたせいであろう。恐らく、侍がセントラルタワーで会った男の流れ弾に、当たった時の血かもしれない。滑った勢いのまま、カウボーイは数歩、歩いてしまう。この間に侍は、カウボーイの背後に回り、残る力を振り絞り、刀でたたっ斬る。カウボーイは、背中から大きな血しぶきを上げ、前のめりに倒れ込んだ。
「勝った…………」
侍は絞るように声を出し、刀を鞘に納めた。倒れそうになりながらも、フラフラと、一歩ずつ歩き出した。
カチリッ……
金属音が、響き渡る。
音の出どころは、銃からであった。その音を聞いた瞬間シルバーブレッドは、ジャックポットの銃を持つ手を掴み投げ飛ばした。仰向けに倒れ込んだジャックポットの眉間に、取り戻した銃をシルバーブレッドは押し付けた。
「勝ったつもりかオッサン???」
「……………………」
「その銃には、もう弾が入ってないぜ!!!」
「いや、1発だけ残ってる。」
「嘘だ!!!じゃあ、何で俺が撃ったら出なかった!!!!!!」
「……理由は…………簡単だ………………」
そう言うとシルバーブレッドは、
しかし、そう見えているのはジャックポットだけだった。
「なんで……安全装置を掛ける…………まさか、見逃してくれるのか?」
「…………俺が、しつこく位に安全装置について、言っていたの覚えてるか?それはなぁ、生き延びるためさ。よくある、敵に自分の武器で撃たれそうになる時の為に。」
「じゃあ……まさか………………」
「そう。俺の銃は特別なんだ。他と違って、安全装置が逆になってるんだ。武器を、とっかえひっかえしてるお前には分からないだろうなぁ。」
「ハァ……ハァ…………」
「それに、人間しつこく言われれば、言わなくても気にしてくれるからな。」
「なっ!?」
「見事にかかったな。」
「待ってくれ!!!」
「あばよ……ルーキー。」
「やめろーーー!!!」
パンッ
乾いた音がした。シルバーブレッドは、銃を懐に仕舞うと歩き出した。歩きながら、カラスに電話をしようとした。裏社会の病院に行きたかったのだ。しかし、掛けたものの珍しく電話に出ないので、仕方なくアジトに歩き出した。
夕焼けの中を歩く中年男の後ろには、建物の陰の中に横たわる
「はぁ……また生き残っちゃったよ…………これからどうしようかって、アレ???」
死ねない男は、ドサッと倒れ込んだ。傍らには、頭を鉈でカチ割られた男が横たわったている。逃げたかったし、離れたかったが、体が動かなかった。セントラルタワーで受けた麻酔が切れたのか、全身が痛みだす。応急処置で縫ってもらった傷も全て開き、血が流れだす。
「失血死は…………2回も失敗してるんだけどな………………でもこれで……ようやく死ねる……家族に会える……………………」
死ねない男は、眼を閉じた。
侍は、歩くのも限界だった。倒れ込むのはこらえられたが、流石に膝をついた。そして、ゆっくりと座る。あぐらをかいて、息を整える。
カチャリという音と同時に、気配を感じた。振り向くと、カウボーイが息も絶え絶えに立っていた。銃を右手に持ち、頭を狙っていた。侍は、撃たれようと撃たれまいと、死を確信していた。
「どうせ死ぬならば、敵の情けは受けん!!!」
侍は、自らの刀を自分の腹に突き立てた。切腹である。そのまま横に斬り、引き抜くと同時に倒れ込んだ。カウボーイは全く動かなかった。正確には、動けなかった。立っているだけで、限界だったのだ。カウボーイは引き金を引く力もなく、そのまま倒れ込んだ。二人の猛者は並び倒れた。
「うーん。旦那に料理しろって言われたから、久々に買い物したな~。面倒だし、電話で言った通りピザで良かったかもな。まぁ、たまの外出も良いもんだな。タラリラリ~~~♪お前の父ちゃん、宴会部長ー♫っと。うん?誰か倒れてるぞ!!!しかも……死んでるよ…………こいつは困った!アジトの前で死なれちゃ、バレちまう。隠さないとね〜……旦那が帰ってくる前に、ちゃっちゃとやろう!」
ズリズリズリズリry
「もう一つ有るよ……こっちの〜死体も〜〜運びましょ〜〜〜って、あっ!………………面倒だな~放置で良いかな?グヌヌ、良心の呵責!!!まっ、連絡ぐらいはしてやるか。それにして、この二人、どっかで見たような〜」
ピッ、ポッ、パッ、トゥルルルルルry
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます