エピローグ

 「旦那―、朝でっせ。」

「……うん?あぁ………………」

「血が足りない感じですか?」

「多分……そうかもな…………」

カラスの呼び声で、シルバーブレッドは起きる。よくある日常だ。少し違う部分と言えば、寝るときに邪魔で外すアイパッチを着けるぐらいだ。医者曰く、失明はしないが、しばらくは見えないとのことだ。なので、完治するまでは一旦、殺し屋専門の殺し屋は休業である。

「またテレビで、この間の事やってますね。あーあ、また怒ってるよ。クックックッ!」

カラスは画面を指差して笑っている。画面には、放送禁止用語を連発しながら、怒鳴り散らしている男が映っていた。その男は、アスタリスクシティの町長である。怒っている理由は、ただ一つ。セントラルタワーでの一件だった。町長が街の発展のためという建前と、自分の権力を見せつけるためという本音で、目玉政策として建設させたのが、セントラルタワーであった。そのタワーを、訳の分からない連中が滅茶苦茶にしたのである。タワーの中の商業施設は、全てボロボロになった。連続した爆発と消防車の大きな衝突により、柱や壁が砕けたせいでタワーは使えなくなっていた。耐震基準が満たせなくなり、セントラルタワーは解体せざるを得なくなった。これは、怒って当然である。しかし、相手がテロリストか犯罪組織かイカレた奴なのか分からない。なので怒りの矛先を、向ける相手が定まらない。

町長は警察に、もの凄い圧力をかけたのである。警察も町長からの圧力の他に、大通りでの銃乱射事件や消防車の暴走による建物破壊への民衆の不満があった。なので、徹底的に組織や悪人どもの掃討をしたのである。シルバーブレッドは自身の休業で、悪人がのさばるんじゃないかと心配したが、それは無用となった。かなりの組織から、幹部以上が逮捕されたのである。

セントラルタワーに関しては、監視カメラ等の映像があるのではないかという話も、映像が壊れており犯人が分からない状態であった。映像が壊れていたのは、半分は当たっていた。爆発によってカメラや警備室が破損したのもある。それ以前の映像は、カラスが盗んだうえにウィルスを入れたからである。おかげでシルバーブレッドは顔も割れず、噂のままで居続けられた。ジャックポッド以外の他の連中の事は、特には気にしなかった。死んでいるならば、復讐なんてされないからだ。


「ピザ、冷めますゼ。」

「あぁ……というか、また宅配ピザじゃないだろうな?」

「違いますよー!自分で作ったんです〜」

「そうなのか……」

「かなり自信があるんですが!どうでっか?」

「まぁ……良いんじゃないの?」

「いや!食べてから言ってくださいよー!!!」

「ところでカラス。セントラルタワーの事件後に、俺が電話したら珍しく出なかったが、どうしたんだ?」

「えーと……」

「?」

「アジトの前に死体が転がってて、それを移動させてましたわ。」

「そうか。まぁ、この街で死体は珍しくないからな。」

「でも調べられたら困るでしょー!なので、引きずってたら出られなくて……そんな事より、ピザ!どうすか!!!」

「まぁまぁだな。これなら、宅配の方が良い。」

「なっ!?それなら、今度から文句言わずに、宅配のザーピー食ってもらいますからね!」

「……食べないとは言ってないだろ。」

シルバーブレッドは、テーブルの上になったピザを全て口の中に放り込んだ。あんぐりと口を開けて、カラスはその様子を見守っていた。

「あーあ……」

「ふうっ!」

「おれ……作ったのに、まだ食べてないんですけど…………」

「また作ればいいだろ?」

「そりゃ!そうですけど!!!」

しょんぼりしながら、カラスは空になった皿を見つめた。だが、すぐにまた明るく、シルバーブレッドに話を振ってきた。

「そういえば、旦那とジャックポット以外の連中の事も、少し分かったんですが聞きますか?」

「死人の事なんか、知らんな。知った所で、復讐されないんだし、役に立たん。」

「ゾンビとか〜幽霊として、来るかもしれませんぜ!」

「だったら、とっくに大軍団が俺の所に押し寄せてるわ。」

「そいつは、違いない!!!」

カラスはケタケタと笑いながら、エプロンのポケットから資料を取り出した。

「まぁ、冗談はここまでとして。身内や仲間からの報復は、否めませんゼ。」

「心配することは無い。今までだって恨みを晴らそうとしてきた連中を、返り討ちにした事あるだろ?」

「そうですけどー……あのセントラルタワーにいた連中は、アンタと同等程度なんだから、復讐に来るのだってそのレベルだろ?アンタに死なれると俺が困っちゃうんだから~。」

カラスは両手の指を絡ませて、顔の横で腰と同時に振る。さながらぶりっ子の様だ。

「分かったよ。情報は、無いよりは良いからな。」

「そうこなくっちゃ!ジャックポット以外にあの場にいたのは、全員が殺し屋さ。オレが旦那に事件の3日前、街に来ている危険な奴としてジャックポットを紹介したのは覚えてる???」

「あー、確か5人の中でもって事でJPが上がったな。」

「JP???」

「ジャックポットの事だよ。長いから略した。」

「勝手に?」

「勝手に。」

「まぁ、死んだ奴の話は置いておいて、そのJP以外の危険な4人があの場にいた連中だったのさ。」

「本当か…………」

「オレも知った時は、ビビったね!幸運だったのは、全員がアンタを狙ってた訳じゃないって事かな。噂の殺し屋専門の殺し屋も、ヤバイ5人を同時に相手するのは無理だろうし。」

「……………………」

「おっ、さすがにビビって、チビりそうですか?」

「いや、1人を途中で助けちまってな。そのままにしておけば良かったか……」

「あーあ…………」

「でもまぁ、生き延びたかは分からないけどな。確実にジャックポットは死んだという事。他の連中が、あの爆発で生きてるとは、思えないが……」

「なら、なおさら聞いてもらわないと!話を続けるとー、セントラルタワーに居た旦那とJP以外の4人のうち、3人は通り名が無い上に本名も分からなかった。分かったのは、侍みたいな恰好をしてるヤツと、カウボーイみたいな恰好のヤツ。それとトンデモナイ強運で、何度も死にかけては生き延びてるやつ。」

「名前が分かってるのは?」

「えーと、『死なない男』だね。」

「たいそうな名前だな。死んでたら笑いものだな。」

「こいつは表の社会でも、かなりの成功者だね。」

「たしか、新聞に顔写真付きで出てた。何でこっちの世界に来たのか……」

「サーカスの花形らしくて、いろいろ危ない事もやってたみたい!さらなるスリルを求めてたのかもね。」

「バカな事を……」

「この男は確実に死んでる。だけど、身内が居るから、もしかしたら狙われるかもしれない。一応、覚えておいてよ。」

「了解。」

「あっとは、そろそろ写真が届くころなんだが。」

「何の写真だ?」

「四人の顔写真だよ。アンタは見たから知ってるかもしれないけど、俺は知らないからねぇ。」

「知って、どうするんだよ?」

「個人的な興味と、情報屋としての業務。おっと、噂をすれば。」

カラスは、自分のパソコンの方へ歩き出す。シルバーブレッドも念のため、一緒に見る。送られてきたメールを開くと、文章は無く4つの画像ファイルだけがあった。その全てをクリックしてファイルを開く。シルバーブレッドは、4人の顔写真を確認した。

「あぁ、こいつらで間違えないな。」

「……………………」

「うん?どうした???」

カラスが、一人の画像を見つめて、無言で動かない。

「おいっ!」

「………………やっちゃった。」

「えっ?」

「やっちゃったー!」

「何を、したんだ???」

「こいつ…………

カラスは震えながら、画面に映る男を指し示した。



病院の一室には、男が一人ベッドの上にいた。窓が開いていて、雲一つない快晴が広がっていた。

「はぁ……生き延びてしまった。人気のない場所だったはずなんだけどな…………誰かが救急車を呼んだお陰で………………」

窓から入り込む風が、男を包む。


「相変わらず、僕は《死神に嫌われてる》みたいだな。」

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