カウント
【5】
侍とカウボーイは、3度目の対峙を果たしていた。互いに満身創痍ではあるが、どうでも良かった。侍の方が若干、死なない男から受けた切り傷で不利ではあったが。
「いい加減に、ケリをつけようぜ!」
「そうでゴザルな……」
互いに駆け寄り、得物を構える。侍の出す斬撃を銃で受け止め、いなしては銃撃をする。一歩も譲らず、戦い続ける。互いにチャンスを見つけて攻撃を出すも、すべて外されてしまう。
刀を横一文字に振るも、しゃがまれ銃で狙われる。侍は右膝で蹴り上げ銃の照準をずらす。そこへカウボーイは軸足の左を蹴り、侍を後ろに転ばせる。すぐにカウボーイ立ち上がり、倒れた侍の眉間を狙う。すかさず引き金を引く。だが、弾が出ない。1発まだ残っているはずなのに。
「何故だ!」
叫ぶも、すぐに思い出した。
「隙アリィッ‼」
侍は左手に持った鞘で銃を叩き落とすと、刃を突き出しながら立ち上がる。カウボーイは体をずらして避けるも、軽く左の首元を切られた。これだけならば良かったが、何故か右足に銃弾を撃ちこまれた。それ一撃により、カウボーイは床に倒れた。
「……銃を使う侍なんて…………聞いたことないぞ………………」
「拙者では……無いでゴザル……他の者の射撃か……跳弾ではないのか…………」
「へっ!そうかよ……」
「ちなみに……リョーマという侍は……銃を使っていたそうだ……」
「うんちく……どうも。さっさとやれよ。」
「己の手で決着をつけたかったでゴザル……しかし勝負は時の運。天に見放された、自分を呪うでゴザル!」
侍は、構える。倒れたカウボーイの心臓にめがけて、一気に刀を突き下ろすそうとした。
だが、それは叶わなかった。
どこからともなく、手榴弾が飛んできたのである。
「「なっ!!!」」
二人は同時に叫ぶ。叫ぶだけでなく、床を跳ねる手榴弾を、二人はそれぞれ蹴り飛ばす。手榴弾は床を転がり、砂煙と瓦礫の中へと消えた。
【3】
「イッテーなー!というか、大の男を片腕一本で持ち上げて投げるなんて、どんな怪力だよ…………」
「痛むところがあるなら、治してやろうか?」
ジャックポットが腰に手をやりながら歩いてきたところに、シルバーブレッドが声をかける。ジャックポットは驚き、すぐに腰の銃を手にしようとした。しかし落ちた時か、投げられた時か、無くしたらしい。懐から別の銃を出そうとするも、その間にシルバーブレッドは駆け寄り銃を突きつける。
「武器をコロコロ変えるから、そういう事が起きるんだよ。」
「また……学ばせてもらったな。」
「生き延びたら、役に立つかもな?」
「生き延びるさ!ジジィに負けるかよ!」
「ふー、小説やマンガの読みすぎだな。」
「…………それはどうかな!」
ジャックポットは懐から勢いよく左手を出した。そのまま裏拳で、シルバーブレッドの銃の照準を変える。そのままジャックポットは、右の拳を下から打ち込む。シルバーブレッドは避けられず、拳を食らってそのまま吹き飛ばされる。ジャックポットは、倒れ込んだシルバーブレッドに飛びつき、馬乗りになって銃ではなく、拳を叩き込み続ける。
「コレがっ!アンタからッ!学んだことだッッッ!!!」
ジャックポットは、拳を叩き込みながら叫ぶ。銃を使えば路上の時の様に弾かれ、手榴弾は最終手段に取っておきたい。ならば残った武器は、己の拳のみ。両手で殴り続ける。その時、何かが足に当たった。それは、己の手元にあるはずの手榴弾。ピンが抜けて服から落としたと思い、すぐに殴るのを止めて放り投げた。
【1】
「普通は、逃げるだろ…………」
「死ねると思ってね。まぁ、ダメだったけど。」
「そうか……」
「自分の手榴弾なら、どのくらいで爆発するか分かるでしょ?」
「……拾い物なんでね。正直、抜いたらすぐに爆発することも考えてた。」
「なるほど。まぁ、幸運と悪運の合わせ技による回避だね。」
「ふん!ならコンビを組んだら最強だな……」
「命乞いなら……受け付けないよ…………」
「そう思いたいなら…………思っておけ。」
「じゃあ、今度こそバイb」
死ねない男の後頭部に、何か硬いものがぶつかった。床に落ちた物を見ると、それはさっき死ねない男自身が投げ捨てたはずの手榴弾だった。
「えっ!どうしてっ!!!!」
死ねない男は避けようと近くの瓦礫に飛び込んだ。
死なない男はその場から動かなかった。
【0】
ゆっくりと、死ねない男は瓦礫から顔を出す。明らかに爆発する時間を過ぎている。よくよく見ると、手榴弾はボコボコに凹んでいた。どうやら、そのせいで不発になったらしい。
「爆発……しないのか…………」
不満そうに言いながら歩き出そうとした時、何かがぶつかってきた。死なない男が、突っ込んできたのである。そのまま二人は、動かず膠着状態だった。
ピチョンッ……ピチョンッ……
液体の滴る音がする。それは水ではなく、血であった。死なない男の持つ鉈を通して流れる、死ねない男の血だった。ふらつきながらも死なない男は後ろに下がり、鉈を抜く。死ねない男は、背中の刺し傷を触る。触った手を見ると、真っ赤に染まっていた。
ニコリと笑うと、仰向けに倒れ込んだ。
「勝った。勝ったんだ。やはり《俺は神に愛されてる》っ!!!」
死なない男は、声高に己の幸運を叫ぶ。そして左足を引きずりながら、倒れた死ねない男に近づく。確実の仕留めるためだ。持っている鉈を両手で持ち、大きく振りかぶる。
「終わりだあぁぁーーー!!!!!!」
大声と共に一気に振り振り下ろす。空気を切り裂く音と共に、死ねない男の顔を真っ二つにしようと刃は落ちていく。
鉈は止まる。血で赤く染まりながら。死ねない男の血で。
「何だったんだ、あの手榴弾は?」
「拙者は知らないでゴザル。」
「仲間じゃないなら、誰が……」
「………………」
「「あっ!」」
カウボーイと侍は、同時に声を出す。考えていることは同じだった。
「お主、もしや拙者以外の者と出会わなかったか?」
「お前も会ったのか!もしかしたら、そいつらの争いがこっちに流れて来てるんじゃないか?」
「その者達から危険な匂いを感じたので、お主の言う通りかもしれないでゴザル。」
「なら、やる事は、1つだな!」
「うむ!」
二人は手榴弾の転がってきた方向へ、得物を仕舞い駆け出した。考えていたことは同じだった。
邪魔されない様に、なんとかする。
手間がかかるようならば、殺すこともいとわないと。ただ、異なる事が一つだけ。想像している人物が別の人間であるという事。
「今のはなんd」
グシャッ
肉の潰れる音が響く。シルバーブレッドの右の拳がが、ジャックポットの左頬に炸裂した音だった。馬乗り状態だったジャックポットは、吹き飛ばされた。シルバーブレッドは自分の鼻血を拭きつつ、立ち上がる。
「お前の悪い所は、すぐによそ見をするところだ。」
「誰でも手榴弾が転がって来れば見るだろ!」
「自分の武器の管理ぐらいしておけ。」
「それは……」
「なんだ?」
言い淀むジャックポットに、シルバーブレッドは疑念を抱く。ジャックポットは、さっきの手榴弾を自分の爆弾だと思っている、シルバーブレッドの考えを利用する事にした。
「………………」
「どうした?そんなに悔しいか???」
「切り札だったんだがな……まさか自分の最期の為に使われそうになるとは…………」
「なるほどな。ポンポン、爆弾なんか使って。テロリストや大量殺人鬼まがいの事を、簡単にやるからだろ。」
「もっと殺し屋らしくやれ、ってか?」
「そうだな。」
「……撃てよ。…………負けだよ。」
「潔く…………死ぬか……」
ジャックポットは、両手を真横に広げる。心臓も頭も、無防備である。それを見ていたシルバーブレッドは、久々に手こずったルーキーにとどめを刺すために、ゆっくりと銃を出そうとする。そこをジャックポットは見逃さなかった。ゆっくりと銃に手を掛けようとした瞬間、ジャックポットは後ろに向かって走り出した。
「あの野郎っ!」
シルバーブレッドも、銃を片手に追いかけた。武器をまた持たれては困ると考えたからだ。しかし、ジャックポットは別の事を考えていた。何も持ってないと思われている今、勝利の為に最後の手榴弾を使うべきだ、と。上手く使えば、必ず勝てる。策略を考えている。今の戦闘から、学んだことを含めて。
しかし、学んでいないことが1つだけあった。
下水管の中でのことである。
考えながら走ってはいけないという事を。
案の定、ジャックポットはぶつかった。
全く知らない、時代劇に出て来る様な格好をした侍、と。
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