少し前

 死ねない男と別れた侍は、指示通り裏口に行くためにホールを歩いていた。ホールを横断しようとすると、会いに行こうとした男が目の前に現れた。

「ようやく、会えたな。」

「お主!追ってきていたのでゴザルか。」

「当たり前だろ。真剣勝負をしてた相手が、トラックの荷台に隠れたらそのままどっか行っちゃったなんて、笑えない話だ。」

「すまないでゴザル。では、面倒なのでこの場で蹴りをつけるでゴザルよ。」

「あぁ、そのつもりだ。」

二人は向き合い、互いに得物に手を掛ける。


「デリャーーー!!!」

先に仕掛けたのは、侍だった。刀を抜き、駆け寄ってくる。カウボーイは即座に銃を抜き、まっすぐ向かってくる侍に向けて1発放つ。しかし侍は引き金が引かれる瞬間、刀を前に突き出した。それにより、なんとのである。破片の片方が、左肩に当たったことなど気にもせず、侍は突き抜いた。さすがのカウボーイも驚きのあまり避けきれず、右肩に刀が突き刺さる。両者痛み分けといった形だが、侍は刺した刀で斬り降ろそうとした。そうはさせまいとカウボーイは、侍の右肩を撃ち抜くと同時に反動で肩から刀を引き抜いた。間合いを取ったまま、侍とカウボーイは、それぞれ自身の右肩を手で押さえる。

「オイオイ……日本が好きだからって、弾を刀で斬るとか、アニメの観すぎだろ!」

「ハァハァ……一撃で決めたかったのでゴザルよ。」

「そいつは、残念だったな!」

カウボーイはそう叫ぶと、自ら間合いを詰めた。弾丸を斬られることが分かった以上、遠距離の闘いは無理だと考えたからである。侍のくり出す斬撃を銃で受け止めては、弾丸を放つ。侍も負けじと、様々な斬撃や突き・薙ぎ払いをくり出す。ホールの中央で繰り返される刀と銃による小競り合い。互いの攻撃によるかすり傷で床が、体が、得物が赤く染まっていく。両者の体が満身創痍の血だらけになり、ふらつきだす。どちらも虫の息の中、侍が決着をつけるための渾身の突きをくり出す。カウボーイは避けず、その突きに向かって自らの得物、拳銃を突き出した。


ガアァギギイィィーーーンンン!!!!!!


金属と金属が、激しく、強く、衝突する音がした。銃口が、刀の先を受け止めている。これでは、いくら弾丸を斬る事が出来ると言っても、破片が確実に侍に当たる。カウボーイは自らの勝利を確信しつつ、引き金を引く。

しかし、それは叶わなかった。

頭上から爆発音と共に瓦礫が崩れてきたのである。

二人は巻き込まれた。



 崩落の原因であるジャックポットは、頭から血を流しつつも生きていた。瓦礫の中から這い出すと、周囲を見渡した。砂煙で何も見えないが、シルバーブレッドを探そうと歩き出す。数歩ほど進んだところで突然、足首を掴まれた。反応する間もなく、引き倒された。そして、つりさげられた。掴んでいる物を見ると、人の腕であり、先ほど店で会った男だった。

「また、会ったな!!!!!!」

「おっ……おぉ…………」

別れ際に一瞬だけ感じた殺気が、今は全身から溢れ出ていた。男は上半身がボロボロで、足からは血が流れ出ていた。

「参ったよ!殺したい奴を失血死させようとしたら、上から瓦礫が降ってくるんだもん!!ひさびさに、自分の血を見たよ!!!」

「そうなのか……」

確実に怒っているのは間違いない。下手に逆らうと殺される。そんな事を考えていると、窮地に陥る質問が来た。

「お前も巻き込まれたみたいだが、原因を知ってるか?」


ドキッ……


正直に言えば殺されるのは間違いない。ジャックポットは考えた前に答えた。

「知っている。オレが狙っている奴が、苦し紛れに手榴弾をt」

「お前の懐に入っていたコレは何だ?」

男はジャックポットをつるし上げている右手をそのままに、左手の中の物を見せてきた。それは、ジャックポットが持っていた手榴弾だった。思わず体を触ってしまう。

「1つしかない。いつの間に!」

「造作もない事だ。それで!お前が何でコレを持ってるんだ?」

男に、ジャックポットは疑いの目を向けられる。

「それは……つまり…………相手が俺から取って爆発させたんだ………………」

「…………そうか……」

男は納得したのか、イマイチよく分からなかった。その瞬間、男はジャックポットを後方にブン投げた。瓦礫の山に、ジャックポットは放り込まれた。


「原因なんか、どうでも良いんだよ!」

死なない男は、少しづつ歩を進めながら叫ぶ。

「出て来い!!!良い加減に決着をつけようぜ、お前と俺の運の強さを!!!!!!」

背後に気配を感じ、店で手にした鉈をくり出す。鉈は肉を切ることなく、刀に触れた。ギチギチッと鍔迫り合いをする中で、相手の顔が見えた。侍の格好をした、傷だらけの金髪碧眼の男だった。知らない人物だったが、そんなことはどうでも良かった。

「何奴?」

「俺か?俺は『死なない男』だ!」

死なない男は、侍の腹を蹴り飛ばす。後ろにフッ飛ばされた侍に、詰め寄り鉈を斜めに振り下ろす。侍の体に、左肩から斜めに赤い線が入る。吹き出す血しぶきを体に浴びる死なない男。だが、侍も負けじと反撃する。侍のくり出した斬撃が、死なない男の右目と右肩を斬りつける。振り下ろした刀を、すぐに切っ先をひるがえし、右上に振り抜き死なない男の左足を斬る。

「ふぐっ!」

流石の死なない男も、膝をつく。両手で侍に斬られた左の太ももを抑える。

侍は、死なない男に背を向けた。

「命までは、取りはせぬ。殺意を持ってくる者には殺意で返すが、戦えない者を殺す趣味は無いでゴザル。」


侍は少しずつ歩き出す。

砂煙の中にいるカウボーイを探しに。

自身もまた、煙の中へと姿を消した。



 シルバーブレッドは、3階の通路で眼が覚めた。爆発で、気を失っていたのである。間一髪、巻き込まれずに済みはした。

「全く……無茶のしすぎだ…………」

ホール全体を見渡しても、砂煙で全く見えない。ジャックポットを探そうとした時、階下から銃声が聞こえた。すぐに身を隠す。しかし、自分に向けての発砲ではない上に、一度しか鳴らなかったので確認の為に降りることにした。階段で1階に降りると、駐車場で会ったカウボーイがしゃがんで何かしている。

「どうしたんだ?」

声をかけると、カウボーイは振り向きざまに銃を向けてきた。弾が出ていれば、確実に死んでいたレベルの早抜きだった。カウボーイは、男の姿を見て胸を撫で下ろすと同時に、銃も下げた。

「なんだ、さっきの人か……」

「危ないだろ。」

「それはすまない。そんな事より、助けてくれないか?」

「何をだ?傷だらけのお前をか???」

「違う違う!この人だよ。」

カウボーイが下を指差すと、そこには血を流して倒れている白髪が多い人が倒れていた。

「なんだ、お前が探してた『侍』じゃないのか。」

「全然、違う。アンタの探してた、『ジャックオーランタン』じゃないの?」

「違うし、名前も違う……」

「とにかくさ!間違って撃っちゃったんだよ!どうすれば良いのか分からなくて…………」

「とりあえず、止血しろ。」

そう言うとシルバーブレッドは、服から簡単な治療パックを取り出した。弾はどの傷口からも貫通していたので、麻酔をして簡単に縫合した。

「すごいな。」

「長く生きていれば……造作もない事だ…………」

「助かるか!?」

「たぶんな。それにしても……全身に4発は撃ちすぎじゃないか?」

「うん?いや、俺は、1発しか撃ってないぞ。」

二人の間に、しばしの沈黙が流れる。近くで、ドサッという音がした。それを聞いて、カウボーイはシルバーブレッドに切り出した。

「それじゃ、俺は行くよ!ソイツはアンタに任せた!」

「えっ!?おいっ!!!」

シルバーブレッドが引き止める前に、カウボーイは煙の中に消えていった。困っていると、足元から声がした。

「ここは……地獄かい………………」

「いいや。あの世よりも恐ろしいだよ。」

「……そうか…………」

「治療したから、当分は死ねないぞ。」

「また……生き延びたか…………」

「良かったな、運が。」

「………………悪い方が……良かったな……」

ゆっくりと白髪の多い男は立ち上がる。ノロノロと歩き出したので、シルバーブレッドは声をかける。

「あんまり生き延びたくはなかったみたいだが、早く外に出て治療を受けるんだな。応急処置と麻酔しかしてないから、四肢がもげても気づかないぞ。」

「…………………………」

「オイっ!」

「……全部もげたら、死ねるかな~」

砂煙に消えて行った。入れ替わりに現れたのは、3度目の対決となる男だった。



 見知らぬ男からの治療を受けた死ねない男は、自分を追い詰めた相手を探していた。さっきまでは歩くことすらままならなかったが、麻酔によって痛みは感じなかった。ゆっくりではあるが、確実に歩いていた。ひらけた場所に出ると、片足をつく死なない男に出会った。ところどころから血が出ていたが、瓦礫の割には切り口が綺麗だった。近づいてくる足音に気づき、死なない男は顔を上げる。自分が手足を撃ち抜きボロ雑巾の様に転がっていた男が、今は何事もなかったかのようにこちらに向かってくる。

「斬られたみたいだけど、どうかしたのかい?」

「そういうお前さんこそ、ピンピンしてるじゃないか。」

「通りすがりのお節介なオジサンが助けてくれたんだよ。」

「本当に、『死ねない男』だな。」

「それにしても、形勢逆転だね。」

死ねない男は、銃を取り出し構える。

「持ってたのか?」

「さっきの店で拾ったんだよ。倒れ込んだ時に、ディスプレイと床のすき間に落ちてたんだよ。」

「弾は入ってるのか?」

死ねない男は、床に向かって撃つ。床に丸い穴が開いた。確実に入っている。再び狙いを死なない男の頭に戻す。

「運の良さ。負けたかったけど、勝ちで良いね。」

「…………そうだな……………………」

「じゃあ……バイバイ…………」

ゆっくりと、引き金を引く。しかし、思いもよらない物が死なない男から飛び出してきた。ピンを抜いた手榴弾を投げつけてきたのだ。

「負けるくらいなら!引き分けだ!!!」

しかし死ねない男は逃げも隠れもしない。すかさず拾い上げ、後ろに手榴弾を放り投げた。

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