二度目
シルバーブレッドは、なかなか来ない業務用エレベーターを待っていた。ようやく最上階から降りてきたが、1階で少し止まった。降りてきたのですぐに乗り込み、止まった1階で降りた。扉が開くと同時に銃を構えたが、誰も居なかった。安心する反面、敵だけでなく従業員もいないことに不安を感じた。ゆっくりと移動して、近くの案内図を見る。セントラルタワー内部は地上から3階が吹き抜けの円形ホールになっており、多くの店舗があることが分かる。その中で銃器を扱っている店は、2階だった。
そこへ向かうために、シルバーブレッドは動きだした。ただ、直接向かえば罠や反撃を食らう可能性を考え、一度エレベーターで地下1階に戻り、そこから3階へと階段を駆け上がる。階段を上る時、店側を見たが誰も居ないようだった。そして、店が見える反対側の3階に辿り着く。ゆっくりと歩を進めるがそこにも誰も居なかった。しかし向かい側、店の上の3階で何かが光った。その光が何かは、シルバーブレッドの経験からすぐに分かった。スナイパーライフルのスコープである。とっさにしゃがんだことで、弾は回避できた。
「あの小僧……確実に成長してやがる…………」
向かいから、ジャックポットの声がする。
「どうした、シルバーブレッド?まさかルーキーに読まれているとは、思わなかったか???」
「よく分かったな。」
「学習だよ、学習!ここまで来る間に、ただボケっと走ってたと思うなよ!!!」
「なるほどな。ただ、これからどうするんだ?待ち伏せがバレた以上、狙撃は厳しいんじゃないか?」
「確かに。もう待ち伏せからの不意打ち狙撃は、出来ない。だったら代わりに、乱射するだけよ!」
ジャックポットは3発、撃ってきた。ただ、乱射というには遅かった。ボルト式なのか、自分で排莢し弾を込めているからだろう。それを利用しシルバーブレッドは、銃撃音のたびに少しずつ、左から近づいていった。気づいていないのか、元いた場所を撃っていた。半分ほど進んだところで、ジャックポットがチラリと見えた。寝そべり、ゆっくりと頭を狙う。確実に当てるために、匍匐前進をする。1歩、2歩と行き、3歩目を踏み出そうとした時。
ビビビイイイィィィーーーーーー!!!!!!
けたたましい音がした。見ると、センサー式のアラームが仕掛けられていた。シルバーブレッドがセンサーをほんの一瞬だけ見た。すぐに顔を戻すと、ジャックポットが完全にシルバーブレッドの顔を狙っていた。眼が合った瞬間、互いに体を動かす。
シルバーブレッドは横に回転し、ジャックポットは引き金を引く。
弾は廊下の床にめり込んだ。
「流石に俺の事を甘く見過ぎじゃないか?何の備えも無く、狙撃してると思ったのか!」
「……………………」
「さっきも言ったけど、視野が狭いね。オッサンなら、こういう経験だって、したことあるんじゃないの?」
煽りに煽るジャックポット。シルバーブレッドは無言で、何も言い返さない。怒っている訳ではなく、悲観する訳でもなく、冷静に策を練っていた。地雷やクレイモアではなかったことに安堵もしつつ、センサー式アラームを見る。一か八か、シルバーブレッドら賭けに出た。軽く動くと再び、けたたましい音がする。
ビビビイイイィィィーーーーーー!!!!!!
アラームが鳴った瞬間、シルバーブレッドは手すり下のガラスにボンヤリと映る、ジャックポットを撃つ。正確に狙わずに放たれた弾丸は、ジャックポットの左手をかすめた。
「ウガッつ!」
うめき声と共に、銃が落ちる鈍い音がする。シルバーブレッドは、すぐに物陰から飛び出し仕留めようとした。しかし、目の前には、手榴弾が転がっていた。
死ねない男は、侍と共にエレベータを下りた。ホールを通って裏口を抜けて外に出るように、侍に忠告して別れた。死ねない男は、消防車が突っ込んだ正面口に向かった。正面口には、柱にぶつかった消防車が煙を上げつつ炎上して止まっていた。中や周囲を見るも、誰もいない。かなり消防車全体が、ひしゃげているものの血痕などは全くなかった。どこに行ったのか考える中で、侍を出口に向かわせる時に見た案内図、それに載っていた銃器を扱う店を思い出した。そこにいるのではないかと思い、すぐに向かった。ホールに向かい、店から近い階段を上がる。ゆっくりと店内に入ると、かなり物が少なかった。割れたガラス片が床に散らばっており、欠片の1つ拾った。
「よく、ここだと分かったな。」
奥の暗がりから、声がした。左足を右膝に乗せつつ左手で頬杖をつき、椅子に座っている死なない男が座っていた。暗くてよく見えないが、何か隠し持っているのは間違いない。そう思うと、死ねない男は身構える。
「怪我、してないのか?」
「してないね~」
「流石に無理だろ。」
「まぁ、小説は事実より奇なり、と言うし。」
「たしかに。」
「それにしても早かったな。焦りすぎて、こんな座り方をしちゃったよ。」
「丁度、ヘリが来てたからな。」
「乗せてもらったのか?」
「いや、ぶら下がってきた。」
死ねない男の言葉に、死なない男は笑った。
「伊達に、『死ねない男』を名乗るだけあるな。」
「あんたも、流石の『死なない男』だな。」
「そりゃ、どうも!そんな事より、そろそろ決着をつけようぜ。」
「そうだねっ!」
死ねない男は、床を蹴り上げた。上がった足と共に、周囲にガラス片が飛び散る。とっさに死なない男は、顔を隠す。その隙に、死ねない男は近くの棚に身を隠す。棚の影から見ると、死なない男は立ち上がり右手に拳銃を構えていた。店の入口の方をにらみつつ、声をかける。
「出て来いっ!て言っても、来ないよな~」
「………………」
「返事をしないという事は、近くにいるって事だろ?」
死ねない男は、ゆっくりと死なない男の背後に回る。拾っていたガラス片を手に持ち、死なない男の首をかっ切ろうとする。少しずつ、少しずつ近づき、あと一歩という所で、銃声が聞こえた。死ねない男は、焦った死なない男の弾丸だと思い襲いかかった。
「間違えたな!」
しかしそれは、死なない男の手元からではなく、
「アレ?」
死ねない男の声を聴き、振り向きざまに死なない男は連射する。急いで椅子の後ろに隠れたが、死ねない男は左右の腕と右足の太ももを撃たれた。
「ウグゥ…………」
「大丈夫か???いや、大丈夫じゃないよな〜」
「………………」
「さっきの銃声は、お前か仲間か?」
「違う。お前の仲間じゃないのか?」
「仲間なら、聞くかよ。」
死なない男はゆっくりと歩み寄り、動けない死ねない男の頭に銃を突きつける。確実に殺すつもりで、ゆっくりと引き金を引く。
パンッ!!!
乾いた音がした。死なない男の前には、死ねない男が転がっている。
「ふぅ…………」
「ハァ……ハァ…………殺さないのか………………」
骸と化したはずの死ねない男が、話しかける。
「さっきから上で銃声が酷い。気になるよな〜」
「…………………………」
「よし、確かめてからお前を殺すことにした!それにまた、弾詰まりを起こされても困るからな。あと、失血死の方が確実だろ。
「失血死は…………前に試した……」
「そうか。で、結果は?」
「失敗……したよ、意外に時間が……かかるもんだから。……お節介な……近所の…………よく喋るおばさんが……家に乗り込んで来て……………………」
「そのおばさんが、また現れることを祈るんだな。」
「ハァ……祈るか……逆に来たら……呪ってやる…………」
死なない男は銃をしまうと、ゆっくりと店の外へと出た。その瞬間、とてつもない爆発が起こった。死なない男の頭上が、なんと崩れ落ちてきたのだ。死なない男は驚きの声を上げる間も無く、店の前の通路の崩壊に巻き込まれた。死ねない男は首を動かし、破片から顔だけでも守る。音がしなくなったので振り返って見ると、そこには大量の砂煙と瓦礫の山だった。何が起きたのか分からなかったので、ゆっくりと何とか立ち上がり、ヨタヨタと入り口に近づく。上の通路と店の前の通路は、完全に無くなっていた。痛みを堪えながら、少しづつ足元を確認し、瓦礫の山を滑り降りる。砂煙で周囲は全く見えなかった。しかし、現れた陰から放たれた弾丸を背後から喰らい、死ねない男は再び倒れた。
「勝ったな!……って、あれ?コイツ誰だ???」
そう言ったのは、全身ボロボロなカウボーイだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます