異なる点との結びつき

 ガコッ

蓋が開く音がした。少し浮いた蓋のすき間から、二つの瞳が周囲を覗いている。周りには誰も居ない。警戒し終わると、蓋をずらして床に置き、勢いよく人が飛び出してきた。すぐさまずらした蓋を、追ってきているシルバーブレッドを撒くために元に戻す。どうやらここは、従業員用の通路か何からしい。窓が無い辺り、地下であろう。上の方に向かえば店舗があり、武器も揃っているであろう。ゆっくりと周囲を見渡しながら、商業エリアへと向かう。扉を開けると、煌びやかに輝くライトとのんびりとした音楽が溢れる場所に出た。セントラルタワー内部のメインストリートの様だ。しかし人が、一切いないのである。先程まで人間が活動していた痕跡は有るものの人影は全く見えない。

「休み……じゃないはずだけど………………」

少し気になったが、そんな事よりも武器である。そばに案内板があるので、そこで目当ての場所に探して向かう。少し離れた所にあるので、急いで駆け込む。店員は、いなかった。ラッキーと思いつつ、念の為セキュリティーを解除する。色々と銃があるが、家庭用なので悩む。落とした銃と同じ種類の物と弾薬・マガジンをいくつか手に取る。流石に手榴弾は無いので、別の火器を探す。別の棚を漁ろうと取っ手に手を掛けた時、背中に何かを当てられた。

「動くな。」

聞いたことも無い声だった。当てられているのは、銃というより刃物の様だった。

「ゆっくりと、こっちを向け。」

指示に従い、ゆっくりと振り返りつつも、頭の中では声をかけてきた人物、恐らく警備員と思われる男の殺し方を考えていた。後ろにいた男の姿を完全に捉えた。男は格好的に警備員ではなく、一般人の様だった。

「あっ、人違いだったわ。スマンスマン。」

男は手にしていた消火斧を下す。人違いで切り殺されるところだったのかと呆れつつ、こいつが探してるのはどんな奴か気になるという思いだった。

「あんた、ここの人か?」

「いや、ただの通りすがり。火事場泥棒に近いかな。君は、ガチの火事場泥棒っぽいけど?」

「俺は違う。ただ、ちょっと借りるだけだ。」

「ほうほう。」

「ここらへん、人がいないけど何かあったのか?」

「あったというか、起こしたというか……」

「???」

「気にしないでくれ。ところでその銃、取っても大丈夫なのか?」

「セキュリティーなら解除してある。警報は鳴らないよ。」

「おぉー、そいつは助かる!!!解除しようと右往左往してたところだったんだよ。イヤー、《俺は神に愛されてるぅ!》」

「……………………」

「じゃあ、ありがたくおこぼれをもらうよ。」

「危ないから、さっさと探してる奴を見つけて出て行きな。」

「忠告どうも。ただ、その言葉をそのまま返すよ。」

今までほんわかしていた男から、一瞬だけ、とてつもない殺気を感じた。その殺気におののいている間に男は、店の奥に消えて行った。ジャックポットは男から逃げる様にして、飛び出した。が、すぐに冷静さを取り戻した。そしてシルバーブレッドの事を思い出し、迎え撃てる場所を探しに行った。



カウボーイは、階段を駆け下りる。途中でとてつもない衝撃に襲われたが、特に気にも留めず下っていく。意外に階段が多かったので、エレベーターで降りるべきだったと後悔し始めた。ようやく地下駐車場に到着すると、息つく間もなく、追っていた冷凍車を探す。たくさんの車が、並んでいた。整然としたものから、乗り捨てられている様な物まであった。走りながら、いくつかの区画を通り抜ける。

「見つけたぞ!」

カウボーイは、業務用エレベーター近くにあった冷凍冷蔵車へ駆け寄る。開ける前に周囲から鉛弾で穴ぼこだらけにしても良かったが、正々堂々と戦う事を選び、扉を開けた。ホルスターから銃を抜き、静かにロックを外す。構えながら、勢いよく扉を開ける。


「出てこい、侍!!!」


駐車場に声が響く。荷台からは特に反応も無ければ、荷物も何もなく空っぽだった。一足遅かった。既に荷台から荷物を運ぶ時に、抜け出していたようだ。

「クッソー!どこに行きやがった………………」

セントラルタワーのどこにいるのか考えていると、いきなり足元のマンホールがガタガタと動き出した。驚きつつも物陰に隠れ、侍が飛び出すかもしれないと思い銃を構える。蓋がズレると同時に中から人が飛び出してきた。カウボーイもすかさず飛び出し銃を突きつけた。お互いの銃が、お互いの顔面の目と鼻の先に突きつけられる。出てきたのは、知らない男だった。すぐにカウボーイは、相手に質問した。

「誰だお前?」

「それはこっちのセリフだ。」

「侍の仲間では、なさそうだな。」

「そっちも、ジャックポットの仲間ではなさそうだな。……というか、侍って何だ?…………」

「こっちの話だし、見てないならそれでいい。」

「分かった。ついでに聞くが、俺と同じようにここから出てきた男を見なかったか?」

マンホールから出てきた男は、地面を指差した。カウボーイは首を横に振り、銃を下した。男もカウボーイの反応を見た後、銃を下した。男は、目の前のガンマンに話しかけた。

「銃を持ってるが、あんたは警察か何かか?」

「いや、どちらかというと警察に追われる方だな。お前さんは?」

「同じような者かな?」

「ほう……」

男から若干の恐怖を感じたので、カウボーイは踵を返した。振り返らずにそのまま声をかける。

「急ぐから、あばよ!」

「……………………」

返事は特になかったが、撃たれることも無かった。急いで一般用のエレベーターに乗り込み、とりあえず地上を目指すことにした。



シルバーブレッドは、先ほどのタイムスリップしてきたかのようなカウボーイの事を考えた。殺し屋ならば容赦はしないと思いつつも、今は最重要課題であるジャックポットのことを考える。とりあえず、業務用エレベーターへと近づいた。ボタンを押すも、エレベーターは地上階よりも先、高層階まで行っていた。しかたなく、戻って来るまで待つことにした。



「うぅ……まだ寒いでゴザル…………」

侍は震えながら、乗っているエレベーターが開くのを待つ。運転手が扉を開け荷物を運び出している時に、こっそりと抜け出した。抜け出したのは良いが、体が芯まで凍えているので、すぐにでも温まりたかった。体を温める方法を冷凍冷蔵車の荷台で考えていた。しかし、寒すぎて思考が鈍ったのであろう。と考えた。この場所がどこかは運転手と従業員の会話から、セントラルタワーだと聞いていたので、エレベーターで高いところに行けば良いと思った。目の前に丁度、業務用エレベーターがあったので、すぐに乗り込んだ。


行ける階で最も高い場所を押していたので、なかなかに時間がかかった。エレベーターの扉が開き飛び出すと、目の前にヘリポートへと続く通路があったので迷いなく進んで行った。外への扉を開くと、大きなヘリポートがあり、太陽がサンサンと照りつけてきた。すぐさまヘリポートの真ん中へと駆け出し、両手を思いっきり広げて光を浴びた。だんだんと体が温まる中で、大きな衝撃音が聞こえたが、お構いなしだった。しかし、さすがにヘリコプターの音と風には反応せざるを得なかった。眼を閉じて気持ちよく日向ぼっこをしていたが、目を開けるとなかなかにヘリが近かった。真ん中に居るせいで、着陸できないのである。


「なんだアイツ!」

「仮装イベントかなんかしてて、逃げ遅れたんですかね?」

「助けようにも、あそこに居たら邪魔だ。」

「別のヘリポートに、行きましょう!」

ヘリのパイロットとテレビスタッフは、しばらく侍を見ていたが、諦めて別のヘリポートへと向かって行った。そのとき、今まで侍の視角には入っていなかった物が表れた。別のヘリポートへと向かうために浮上したヘリの下に、ロープにつかまる人がいるのである。侍が驚いていると、ヘリにぶら下がっていた人が、落ちてきた。

「ふぅ、到着した。」

侍は驚きすぎて言葉を失っていたが、ぶら下がっていた白髪の多い男がこちらを見てきたので刀に手を掛けた。日光浴のお蔭で身体は完全に復活していた。

「……………………」

「………………………………」

「あんた、誰?」

「拙者か?いや、人に名を尋ねるのならば、先に自分が名乗るのが礼儀ではゴザラぬか?」

「それもそうだね、僕は『死ねない男』と、でも呼んでくれ。」

「なんとも、珍妙な名前でゴザルな。」

「あんたの格好よりは、まともだよ。」

侍が反論しようとするも、死ねない男はまっすぐ建物に入ろうとしていく。侍は体が動くようになったので、早くカウボーイの待っているかもしれない酒場に戻ろうと考えた。二人は、付かず離れずの距離で歩いた。そして同じ業務用エレベーターに乗り込んだ。

「あそこで何してたの?」

「体が冷えてしまったので、日光浴を少々。」

「……………………」

「……………………」

「何か、ここに用事でもあるの?」

「無いでゴザル。いろいろあって、ここに辿り着いてしまったのでゴザル。」

「いろいろね~」

「まさに、運命の悪戯というやつでゴザルな。お主こそ、何かあるのか?あの様な異様な登場の仕方から想像するに、かなりの急ぎの様だが。」

「急ぎというより、追い付く方法がこれしか無くてね。それと、僕はここに用があってきたんだけど、危ないから早く出た方が良いよ。」

「あい分かった。」

二人は一緒に、地上階へと降りていく。



6人による3つの闘いが、いよいよ1つとなっていく。

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