道中
「遅いぞ、オッサーン!さっさと俺に、殺られちまえよ!!!」
ジャックポットは叫ぶと、振り向きざまに拳銃を乱射した。1対1なら問題ないが、ここは街の大通り。シルバーブレッド以外にも、大勢の人たちが歩いている。植え込みに隠れて難を逃れたものの何十人が倒れている。いろいろな人がテロだ、通り魔だと大声で怒鳴っている。
「確かにアイツは、殺し屋じゃないな。ただのイカレ野郎だ。」
シルバーブレッドはサッと身を乗り出すと、弾を1発、撃った。ジャックポットは避けようとしたが、弾丸は持っていた銃に当たって、弾き落とされた。
「ヨシ!」
「イッテェー……これならどうだ!!!」
ジャックポットは上着からサブマシンガン2丁を取り出し、両手から弾を見境なくばら撒いた。さっきの拳銃の乱射で人が居なくなった事が、不幸中の幸いとしか言えない猛攻だった。シルバーブレッドは、呆れてボヤく。
「アイツ、殺し屋がどういう職だか分かってないだろ…………」
「オラー!出て来やがれ!!!!」
隠れている植え込みをジャックポットは集中砲火してくる中、手持ちの銃から4発、撃ちながら冷静にシルバーブレッドは時を待っていた。そして時は、すぐに訪れた。
カチンカチンッ
金属がぶつかる音だけが、周囲に響く。
「クソッ!弾切r」
ジャックポットが言い終わる前に、シルバーブレッドは飛び出した。サブマシンガン2丁ともリロードすると思い、確実に仕留めようとしたのだ。しかし、ジャックポットは新しい武器を、ショットガンを構えようとしていた。
「リロードすると思ったか!」
「!?」
驚くシルバーブレッドだが、賭けに出た。ジャックポットの銃口が自身の身体を捉える前に、銃身の真下に入り込んだのである。流石のジャックポットも面食らい、そのままシルバーブレッドはタックルを食らわせた。吹き飛ばされショットガンを落として、ゴロゴロとジャックポットは道を転がって行った。
倒れ込むジャックポットを眺めるシルバーブレッドの足元に、何かが転がってくる。どこから現れたのか、ピンの抜けた手榴弾が落ちていた。シルバーブレッドは、急いで元いた植え込みに隠れて爆発をやり過ごす。
「アイツ、殺し屋でも、イカレ野郎でも、無いな……ただの人間武器庫だ!」
おそらく、手榴弾はジャックポットがタックルされた時に、落とした物であった。コートの中に大量の武器をしまい込んでいたのである。
「爆発に巻き込まれて、死んだだろ。一件落着、帰るか。」
シルバーブレッドはゆっくり立ち上がり、歩き出した。が、突然シルバーブレッドは肩を撃たれた。かすり傷ではあったが、痛みに肩を抑える。驚いて振り向くと、硝煙の上がる拳銃を持つJPがいた。
「驚いたか?」
「…………………………………………」
「流石にヤバかったが、オレを吹っ飛ばしてくれたおかげで最初に弾かれた拳銃を拾えたよ。」
「だからって、爆発からは逃れられないだろ?」
「撃って弾いた。オレは、ただの人間武器庫じゃないんだよ。」
「聞こえてたか。」
「褒め言葉として、受け取るぜオッサン。」
「褒めたつもりは無い。なんなら悪口だ。」
互いに話をしつつ、探り合いをしている状況だった。
シルバーブレッドはリロードするタイミングをうかがいつつ相手の出方を待っていた。ジャックポットはどの武器をくり出すべきか、考えあぐねていた。
「そろそろさぁ〜、世代交代してもらえないかな。生ける伝説がいつまでの光り輝いていると、目障りなんだよ。オレ以外にもルーキーは大勢いるし、これからも参入してくるんだし。」
「なら殺さなくても、引退するのを待てばいいだろ?」
「オッサンいつ引退するんだよ?」
「うーん…………
「不確定すぎっしょ!」
「確かにな。明日かもしれないし、10年後かもな。そうなれば、お前は死んでるだろうし。」
「それはコッチのセリフ。」
「それに言うだろ、『老兵は死なず。ただ消え去るのみ。』って。死んでも魂は生き続ける、取って代わろうなんて無理な話さ。」
「死のうが消えようが、同じさ。叩き潰せばいいんだよ!」
メラメラと闘志を燃やすジャックポットに、サラッと冷めた眼差しをシルバーブレッドは投げる。
「血気盛んだな。ところで、次の一手は決まったか?」
「決まっても言うかよ!そっちこそ、物忘れが酷くなったオッサン頭で、なんか策が浮かぶのか?」
「こういうのは、経験だからな。新人には分かるまい。」
「そうかー。それなら、これはどうよっ!」
ジャックポットは、持っていた拳銃を投げつけてきた。シルバーブレッドが、避けるか受けるかの二択と踏んでの行動だった。しかし、どちらでもなかった。何故なら、
「!?」
「ボケてなくても、視野が狭いぜオッサン!」
ショットガンを構えて、シルバーブレッドはしっかりとらえて引き金を引く。
弾は出なかった。よく見ると、ショットガンに瓦礫が詰まっていたのである。その瓦礫は、シルバーブレッドが身を潜めていた植え込みの瓦礫である。タックルした時に、忍ばせていたのである。
「これが経験の差だっ!!!」
シルバーブレッドは、右の拳をジャックポットに叩き込んだ。拳は当たった。だがそれは、顔でも体でもなく、ジャックポットの携えていたショットガンの銃身だった。
「これが、脳の柔軟性の差だよ!」
受け止めた部分を支点にして、銃身をシルバーブレッドに殴りつけた。怒涛のショットガンラッシュである。流石のシルバーブレッドもこれには対応しきれず、2・3発ほど喰らってしまった。重い一撃を受け、仰け反る勢いで、シルバーブレッドは後ろに飛び下がった。
「…………」
「負けを認めて!潔く死ねよ!!!」
詰まっていた瓦礫をショットガンから外して、ジャックポットは構える。シルバーブレッドは、ニヤリと笑って声をかける。
「そんなことを言ってる時点で、お前の負けだよ……」
「さっきも似たような状況だったが、今度は照準ズラせられないし、弾は拡散するから避けられないぞ。」
「………………………………」
「何を黙ってる?命乞いの準備か???」
「後ろに銃を構えた警官が居てもそう言えるか?」
「なに!?」
それを聞いた瞬間、ジャックポットは振り向きざまに引き金を引いた。飛び散った弾は、誰も居ない虚空に吸い込まれていった。
「ハッタリかっ!」
ジャックポットは向き直るも、既に相手の姿は無い。ただ、どこからともなくシルバーブレッドの声だけが響く。
「若い。若いなー。経験を積めば、人の気配なんざ、簡単に分かるぞ。」
「クソッ!クソッッ!!クソッッッ!!!」
手当たり次第に、ジャックポットは乱射する。
「お前さんも学習しないねぇ。弾切れしたところを、また狙われるだけぞ。」
「………………………………」
ジャックポットは、撃つのをやめた。シルバーブレッドは、静かに物陰から見守り、隠れる際に拾った自分の銃でゆっくりと確実に殺せる部位を狙う。
「……クックックッ…………」
「なんだ?」
「ハーッハッハッハッハッ!」
「死が怖くて、壊れたか???」
突然に高笑うジャックポットに、戸惑ったシルバーブレッドは質問する。
「学習しないのは、アンタもだろ。」
「俺はもう、嫌という程いろんなことを、経験しつくしたんでね。」
「いーや、学んでない!この【ジャックポット】という人間を分かってない!!意味が分かるか???」
「さっき散々、見せつけられたよ……」
「じゃあ、じっくりと名前の由来を、思い出すんだな!あの世で!!!」
ジャックポットはショットガンを放り投げると、両腕をコートに突っ込んだ。そして、両手いっぱいの手榴弾を取り出してきた。ピンはもちろん、全て抜けていた。それを一気に、自身の周囲に撒き散らした。
「あの!馬鹿っっっ!!!」
すぐにシルバーブレッドは、隠れていた物陰から更に奥へと避難した。何回、何十回という爆発音が辺りに響き渡って数分後、シルバーブレッドは戦っていた通りに戻ってきた。その有様は繁華街の大通りではなく、市街地戦の激戦区といった様子だった。惨状を見渡して、独り言を呟いた。
「ジャックポット…………確かに死体の山がゴロゴロ出来る訳だ。」
ザッザッと瓦礫を踏み鳴らして、ジャックポットの死体を探す。
「こんなことして生きている訳……」
最後にジャックポットを見た場所に、たどり着く。
「あるか。」
ジャックポットが手榴弾をバラ撒いたであろう場所には、外されたマンホール、ポッカリと地面に開いた穴があった。おそらく、ジャックポットが通って逃げたのであろう。
シルバーブレッドは携帯電話を取り出し、カラスに連絡を取った。
「もしもし。」
「『もしもし。』じゃないよー!旦那、大丈夫なん???」
「大丈夫だ。問題ない。」
「辺りの監視カメラが途中で壊れちゃったから、戦況が全く分かんなかったゾイ!」
「奴は生きてる。マンホールを通って逃げた。これが続いてる先は、どこだ?」
「うーん、チョイ待ち!…………分かった!そのマンホールは最近できたもので〜、とある建物専用の下水処理管だね。」
「その建物って言うのは?」
「アレよ。」
「あれか。」
シルバーブレッドは、ゆっくりとマンホールが続いているであろう先に目をむけた。そして、遠くにそびえる真新しい高層ビルと、視線がぶつかった。
「そう、セントラルタワー!でも、そっちに行くとは限らないんじゃね?」
「いや、タワーに向かうはずだ。相当量の武器を消費したうえに、銃も何丁か落としているからな。」
「なるほど、あそこには大量のお店があるからいろいろ装備が揃えられるもんね〜」
「もう切るぞ。」
「追うの?放っておいても、良い気がするけどなぁ〜」
「いや、あいつをこのまま放置するのは、不味い。今後の仕事の障壁になりかねない。」
「うーん、出る杭は打たれる訳か。」
「杭というより、ミサイルだな。何かあれば、また連絡する。」
「ほいほい!ピザを頼んで待ってるよ〜」
シルバーブレッドは携帯電話をしまうと、マンホールへと飛び込んだ。
「ハァ……ハァ…………ハァ………………」
追っ手を気にしつつ、JPはひたすら走った。恐らく続いているであろう、ここへ来る電車内や道中でしつこく聞かされた建物へ。
「たぶん、武器があるだろうから。急がねぇと。」
手持ちの武器を探すと、落としてしまったのか、手榴弾が3つしかなかった。
「心もとないなぁ……」
そして、ジャックポットは走った。走った、走りに走った。ただ、その道中では気を張りつつも、先程までの戦いを思い出していた。シルバーブレッドの動き、言動などを思い出し、今後の取るべき行動を思考していた。
ジャックポットは、成長しながら建物へと走り続けた。
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