右側通行VS左側通行

 「ここがあの小僧が言っていた店か、なかなか良いでゴザルな。」

金髪碧眼の侍は、ゆっくりと酒場の扉を開いた。昼間にもかかわらず、そこそこ盛況であった。しかし、珍妙な格好の客に、店内は静まり返ってしまった。客たちが見つめる中、侍はカウンターへと向かった。

「旦那、日本酒を1つ頼むでゴザル。」

「旦那じゃない、店長。」

「なかなかに繁盛しているでゴザルな。」

「おかげさまでな。はい、酒。」

「かたじけない。」

差し出された酒をチビリチビリと飲んでいると、酔っ払いが話しかけてきた。

「オメェーさん、変わった格好してんねぇ。」

「うむ、侍でゴザル。」

「へぇ、侍って初めて見たわ。その棒で何かするのか?」

侍はこの言葉を待っていた。

「棒では無い、刀だ。とてつもなく強く、硬く、鋭い刃物でゴザル。」

「ヒョエ―、そいつはスンゲエ!見せてくれないか?」

「ダメだ、危険すぎるでゴザル。代わりに拙者が、居合をご覧にしんぜよう。」

「良くわかんねぇけど、見してくれるんだな。奥でみんなと飲んでるんだ、こっち来てくれよ。奢るからなっ!なっ!!!」

「うむ、では参ろう。」

侍は酔っ払いと共にカウンターから離れ、右の奥に進んで行った。


「ここがあのボーイが言っていた店か、なかなか良い感じじゃん。」

黒髪黒眼のカウボーイは、ゆっくりと酒場の扉を開いた。昼間にもかかわらず、そこそこ盛況であった。

特に奥の方が。

しかし珍妙な格好の客に、奥の方以外の店内は静まり返ってしまった。客たちが見つめる中、侍はカウンターへと向かった。

「マスター、バーボンを1つ頼む。」

「マスターじゃない、店長。」

「なかなかに繁盛しているな。」

「おかげさまでね。はい、酒。」

「サンキュー。」

差し出された酒をチビリチビリと飲んでいると、酔っ払いが話しかけてきた。

「お前さん、変わった格好してるね。」

「おう、アメリカのカウボーイさ。。」

「へぇ、カウボーイって初めて見たぞ。その銃は偽物なのか?」

カウボーイはこの言葉を待っていた。

「偽物じゃない、本物のリボルバーだ。とてつもなく強く、丈夫、速い得物だぜ。」

「カー、そいつは凄い!貸してくれない?」

「ダメダメ、危ないもん。代わりにオレが、早撃ちを見せてやるよ。」

「良くわかんねぇけど、見してくれるのか。奥でみんなと飲んでるんだよ、こっち来てくれ。奢るからっ!なっ!!!」

「よし、行くぜ!。」

カウボーイは酔っ払いと共にカウンターから離れ、左の奥に進んで行った。


 1日後

二人はそれぞれのグループで、場を盛り上げた。酒代は全て負担してくれるということで飲みに飲みまくった。眼が覚めると昼近くだったので、二人ともまだ寝ている連中を残して店から出ようとした。


そこで出会ってしまった。


「なんだ、お前。」

「お主こそ、変わった出で立ちだな。」

「というか、アンタなんで侍みたいな格好してるんだよ! どうせするなら銃を巧みに使いこなすガンマン、カウボーイだろ‼」

「そういう貴様こそ、なぜカウボーイなのだ!侍、武士の格好をしないのだ!!!」

「なんだとこの似非侍ーーー!!!」

「うるさい、西洋かぶれーーー!!!」

互いに得物に手をかける。ゆっくりと自分の間合いを定めていく。

「お主、なぜ日本が左側通行か知っているか?」

「あぁ?知るかよ。そんなことよりアメリカが右側通行の理由を知っているか?」

二人はそれぞれの酒の席で言いまくっていた、お得意のうんちくを叫んだ。


「「すれ違う時、得物がぶつからない為だよ!」」


同時に取り出したが、刃よりも先に弾丸が飛び出した。しかし既に侍は、カウボーイの懐に潜り込んでいた。すかさず斬撃を繰り出すも、撃った衝撃を利用した宙返りで避けられる。カウボーイはカウンターに、侍は近くの倒したテーブルに隠れた。騒ぎが聞こえ、起きだしてきた他の連中や店長が見守りつつ、二人はにらみ合う。

先に仕掛けたのは侍だった。間合いに入り込まなければ攻撃できないので、カウンターの方へとジグザグにテーブルを倒しながら突き進む。テーブルからテーブルへ移る所を、カウボーイは狙い撃つ。しかし素早くて当たらない。撃つ尽くし、弾を装填するために自身の身体をカウンターに隠したところを、侍は駆け寄り、刀を突き刺した。確かな手ごたえ刃にあった。

ゆっくり引き抜こうとした時、侍の身に影がかかった。カウンターの上に立ち上がったカウボーイが、侍の頭を狙っていた。すかさず身をひるがえして、避ける。放たれた弾丸は床に埋まる。かわす勢いで侍は反転し刀を抜き、振り向きざまに上から刃を振り下ろす。カウボーイも次弾装填すればやられる、撃つことは流石に無理だと判断し、一か八か銃で受け止めた。

得物を交えながら、二人は向き合う。侍は頬から、カウボーイは腹から血を流しつつ。

「なかなかやるでゴザルな。」

「そっちこそ。」

「鍔迫り合いとは言いがたいが、決めさせてもらうゴザル!」

「決められるものなら、決めてみろよ。」

状況としては、侍の方が有利だった。交わる得物を離し、そのまま斬撃をくり出せばいい。カウボーイは次の弾を装填してから、狙って撃たなければならないからだ。

侍が離れようとした瞬間、カチンという音がした。よく見ると刀が、銃の撃鉄とフレームに挟まれているのである。これでは銃は撃てないものの斬りつけることも出来ない。

「なんだとっ!」

「形勢逆転。これでも喰らいな!」

カウボーイは左手にカウンターから持ち出した瓶を握り、侍の頭を殴りつけようとした。


バリンッ!!!


瓶は大きな音を立てて、割れた。

店長の防犯用のショットガンから放たれた、弾によって。

「うちの店でケンカするな、やるなら外でやれ!」

侍とカーボーイは顔を見合わせ、相談する。

「このままじゃ埒が明かないし、マスターに撃たれちまう。仕切り直そうぜ。」

「うむ、良いでゴザル。ただし、不意打ちは無しだぞ。」

「そんな不名誉な負け犬みたいなこと、するかよ!」

互いを見ながら、カウボーイは撃鉄を下して刀を放す。侍は刀を鞘に納めた。そのままホルスターに戻すと危ないので、カーボーイは撃鉄を上げた。


二人はゆっくりと酒場を出ると、路地で向き合った。

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