望月幽と望月向日葵
自分の中に芯を持って生きろ、と父から教わった。
時には勢いが解決することもある、と母から教わった。
いっぱいの愛を込めて育ててくれた父と母のことが好きだ。
無限の可能性と神秘が溢れる海が好きだ。
孤独な夜を照らす星が好きだ。
私を必ず迎えに来てくれる満月が好きだ。
私を死ぬまで愛してくれた、
彼女は、明るく太陽のように、笑って生きることを信条にしている。
夫が三年前に病気で亡くなった時も、夫からの「お願い」を聞いて、最期まで笑顔で見送ることを通し切った。
その後はたくさん泣いたけれど、そのくらいは許してくれないと困る。
今は海洋生物専門の研究者として色々なところを飛び回っている。
海は、不思議と可能性で溢れている。
もしかしたら、今は不治の病でも、私の研究で覆るかもしれない。
そんな未来を信じて、私は今日も潮風を浴びる。
もちろん、各地の水族館巡りも欠かさない。
昔から水族館が好きだった。
小さい頃は家族と。
中学生になってからは友達と。
高校生、十八歳になってからは、大切な人とたくさん水族館に行った。
今は、一人だ。
いつの間にか星にも詳しくなってしまった。
星に興味を持ったのは、彼がたまたま図書館で星の本を読んでいたからだ。
星って魚みたいだよね、なんてことを言って、勢いで流星群まで見に行った。
あの日のことは一生忘れない。
沢山の流れ星を彼と見た。
満月が出ていて、彼は見にくくなるから満月は邪魔だ、なんて言っていたけれど。
私は満月も大好きだったから、とても嬉しかった。
彼から秘密を打ち明けられた時、私は怒ったし、嬉しかったし、悲しかった。
でも、彼と生きたいと心から思ったんだ。
彼を幸せにしたい。
私の幸せもきっとそこにある。
たとえ三年でも構わない。
三年あったら君を幸せにすることなんて簡単なんだから。
そう意気込んでいたことを昨日のことのように思い出せる。
彼はいっぱい頑張った。
三年と言われた自分の命を四年に延ばすくらい。
私は、彼を輝かせることが出来ただろうか。
ううん、そんなことは考えなくてもわかっている。
誰よりも私が見ていたんだ。
あんなに可愛く笑うだなんて、出逢った時には思いもしなかったんだから。
私は彼の苗字を貰った。
彼は最初反対したけど、押し切った。
本当に幸せだった。
式はしなかったけど、写真は撮れた。
私が今何よりも大切にしている物の一つだ。
君は私よりも先に空へ登ったけれど、毎月のように私に会いに来てくれる。
自分のペースでゆっくり登って、ゆっくり沈む。
君らしいよね。
だから私は寂しくない。
寂しいけど、寂しくない。
人はいつか死ぬって彼はよく言っていた。
死んだ時、幸せだって答えられるならそれでいいんだって。
私もそう思う。
なら、私もそう答えられるように生きたい。
いずれ彼に再会した時、ちゃんと答えられるように。
ねぇ、幽くん。
私、ちゃんと幸せそうに見えるかな。
ううん、幸せだよ。私は本当に恵まれていると思う。
でも、やっぱり君がいないんだ。
胸にぽっかりと穴が空いたみたいだよ。
私の幸せは君の側にいること、それ以上の幸せはまだ知らない。知らなくてもいいとさえ思う。
こんなこと思ってたら怒られちゃうかもしれないけど、仕方ないよ。
でも、この気持ちは忘れたくない。
ずっとこんな気持ちでいたい。
君のことを忘れたくなんかないよ。
お婆ちゃんになっても君のことを想いたい。
困ったなぁ。
◇
向日葵は今日も空を見上げる。
見上げるのは、いつも決まって満月の夜だ。
彼女の一番の幸せは、今は届かない処にある。
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