第28話 ナニイッテンノコイツ
あれから俺たちは喫茶店を出て、本来の目的であった俺の装備を買いにダンジョン街と呼ばれる場所に来ていた。
ダンジョン街には武器、防具のみならずダンジョン探索で役立つ魔道具なんかもあり、大手魔道具店をいくつも見かける。
俺はついつい、珍しい風景にキョロキョロしてしまう。
「いてっ」
そのせいで前をちゃんと見ておらず、前を歩いていた人とぶつかってしまい、よろけてしまう。
「前見て歩けや、ゴラァ!!」
「す、すいません……」
俺がぶつかってしまった人は巨体の探索者の格好をした男だった。盾を背負っていることからダンジョンではタンクとして体を張っているのだろう。
「てめえみたいなヒョロガキは大人しく地元に引きこもってろ、ここはお遊びで来るとこじゃねえんだよ!」
彼はそう言い放つと、俺のことをジロジロ見てくる。
やがて目線はリノの方へ動き――
「はーん、てめえ……随分といい女、侍らせてんじゃねえか。どう落とし前つけてもらおうかと思ったがその女をくれるんなら許してやるぜ?」
は?
ナニイッテンノコイツ。
怒りが喉まで込み上げてくるが何とか押さえつけ、冷静になる。
「彼女は大切な人なのであげれません、あと俺も探索者です。ぶつかってしまったことは謝りますがあまり変なことをする気ならそれなりのことをさせてもらいます」
「……ッチ」
彼は地面に唾を吐き、どこかへ去っていった。
やべえ、都会の探索者怖えよ……。
そうだ、リノは大丈夫だろうか。
「リノ、大丈夫か? なんか変なことされてない?」
「大切な人、大切な人……だ、大丈夫」
大切な人、とぶつぶつ言っていたが本当に大丈夫だろうか?
そんなに俺が言ったことはおかしかったか?
……確かに、友人のことを指すにしては大袈裟だし、おかしい気がする。何だか言ったこっちが恥ずかしくなったきた。
結局、俺らは互いに顔を赤らめながら歩くことになってしまった。
「なあなあ、なんであいつら恥ずかしそうにしてるんだ?」
「んなの知らねえよ、非リアのこっちからしたらカップルで新宿歩くなっての」
そんな声が聞こえたような気がした。
……
…………
………………
「ねえ、ななせん。さっきはありがと」
しばらくし、最初に口を開いたのはリノの方だった。
「私、人に守られるなんて初めてだから……嬉しかった」
リノはダンジョン街の方をいいながら独り言のようにそう呟いた。
そして、また黙り込む。
休日の街は騒がしいはずなのに俺たちの周りだけ別空間のように静かだ。
何か、何か言わないと。
「ど、どういたしまして……さっき俺も助けられたからそれでお互い様ってことで! それでいいよな、だからこの話題は一旦終わりにしようぜ? それよりこれから行く店のことについて教えて欲しいな」
結局、俺はこの静けさに耐えきれなくなり、別の話題を切り出した。
だが、少し早口になってしまい、必死さが滲み出てしまったため逆に空気が悪くなった気がする。
「ん……これから行くのは防具店と魔道具店。ななせんの装備は下層に潜るには性能が悪い……値段は張るかもしれないけど今のうちにもっといい装備にした方がいい……剣は魔剣がある、よね?」
「ああ、赤の魔剣のことだよな。引くくらい強くて助かってるよ」
最近は火力を調整できるようになり、あれで保存食を切っていい感じに焼く……という技術を俺は最近、覚えた。
スライム系の物理では倒しづらい敵も倒せるのでほんとに重宝している。
「あれは深層でも通用するから、大事にしてあげて」
「勿論……それで防具の方はどんなのなんだ?」
「それは……実際に見た方がいい」
リノはそういうとダンジョン街に軒を並べる防具店の一つに入った。
店内には金属のフルプレートアーマーから動きやすそうな革鎧まで色々な防具が飾られている。
また、中には髪留めのようなものや腕時計のようなものまであった。
「いらっしゃい、何をお求めかな?」
「この人の、防具を、買いに来た。下層で通用する、軽いものを、お願い」
リノは途切れ途切れにそういった。
どうやら初対面の人が相手だと息継ぎが多くなるらしい。
「ええ、わかりました……それと、あなたがたお二人のことは知ってますよ。舞姫様と七瀬様ですよね?」
「ええ、よくわかりましたね」
驚いた、防具店の店員も認知してくれているなんて……。
俺は自分が有名人になった気分だった。
「そりゃあ、ファンですからね! 七瀬様の配信はこの前見ましたよ、実に爽快で見てて飽きないですよ」
「あ、ありがとうございます」
初めて、初めて外でファンから応援してもらった……ヤバい、嬉しい。
俺は心の中で小躍りしていた。
「あなたは、店員さん?」
すると、リノが意味深にそう問いかける。
おっちゃんはニコリと笑ってから口を開いた。
「自己紹介が遅れてしまいました。私、丹波防具店新宿本店の店長――丹波典明と申します、以後お見知り置きを」
そして綺麗なお辞儀を見せた。
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