第24話 駄天使
そこから現れたのは――
「汝らは何の用でここに踏み入った」
翼、角、服それら全てを真っ黒に染めた漆黒の天使だった。
その天使は端正だが無機質な顔をしており、明らかに人が関わってはいけないような雰囲気を漂わせている。
「ひゃっ……あ、悪魔……?」
「何を言う、我を悪魔などの下等生物と一緒にするな小娘」
「ご、ごめんなさい」
悪魔というよりもこいつは堕天使に近いような気がする。
よくみると頭の上には黒い輪っかが浮かんでおり、物語やゲームでよくみる堕天使の見た目とマッチしているのだ。
「それよりも早く我の問いに答えよ、答えぬというのならば侵入者とみなして排除するぞ」
「わ、わかった、俺たちは何も変なことをするためにここに来たわけじゃないんだ、変なトラップに引っ掛かって偶然ここに来てしまっただけなんだ、だから帰してくれるなら変なことはしないよ」
「ふむ……そうか、それなら早くそう言え、だが帰せと言ったな? それは無理だ」
「な、なぜ?」
ま、まさか、このまま俺らを食糧として食べたり、魔法の実験台にされたり……。
「何も簡単な理由だ、我もここからの脱出方法を知らない」
「え、ええ?!」
「だって我、ここに何百年も封印されているのだからな」
〈コメント欄 同接:22000人〉
“草”
“悲報、堕天使っぽい人、ヒキニート”
“笑えんww”
“なんだ、俺らの仲間か”
“封印されてるってww”
“どした? 上司からパワハラされたんか?、ワイみたいに”
なんかコメント欄に仲間だと騒ぐ声があるが、きっと俺の視聴者にそんな惰民はいないはずだから無視しておく。
それにしても……
「ということは俺たちもここで……」
「そ、そんな……」
俺たちは人間だ、きっと数日間で水や食料が尽きて死んでしまうのでは……!
「心配するでない、貴様らは先ほどの門を使ってここから出ることが出来るだろう、我が邪魔をしなければ、だがな」
「ま、まさか……」
「嘘だ、だが一つ頼みがある」
嘘かい。
なんだこのわかりずらいヒキニートは。
そんなこと言ってるから封印されるんじゃねえの?
「お前らの察するように我は昔、天使であったがとある事件で堕天してしまった堕天使だ、天使時代には時折、町人の格好をして俗世の食べ物を食べに行ったりしていたのだがここではそんなことは叶わぬ」
「だから地上の食べ物を持って来いってことか?」
「ああ、察しが良くて助かる、時々でいいから頼むぞ」
「で、でも堕天使さん! どうやってここにもどってくればいいんですか?」
白綾さんが一番気になっていたことを問う。
「それなのだが、この転移の指輪を使ってくれ」
そう言って渡されたのは青いサファイアのような宝石が埋め込まれた指輪だった。
「この指輪をつけて転移したい場所を念じれば一日に二回、その場所に転移することができる」
「そうなんですか……?」
白綾さんがそう言うが何か違和感に気づいたような顔をする。
「それなら堕天使さんが自らこれを使って外に出ればいいじゃないですか」
「それは無理だ、この部屋には転移阻害の術が掛けられている、唯一脱出できるのはあの門のみ、だがあの門は我を弾き、通してはくれぬのだ」
つまり、完全に軟禁状態ってことか。
「ああそうだ、当然、食べ物を持ってきたら礼はするぞ? 我は昔、賢者と言われて皆に恐れられていたからな、様々な知識や巨大な力を持っておる」
「へ、へえ……」
堕天使から力や知識を授かっても悪いことが起きる気がするのだが……。
まあいいか、交渉としてはかなり破格だし誰も知らないような情報が欲しい時にこいつを頼ろう。
「さあ、汝らは何を欲する? 世界の深淵についてか? それとも力か? さあ答えよ」
うう〜ん……。
「ない」
「ないですね」
俺と白綾さんの声が重なる。
「な、なんて?」
「だからないって、特に俺は知りたいこともないし、よくわからない手段で力を得ようとするほど焦ってないよ」
「私もそんな近道をして力を手に入れたらダメだと思うし……それにちょっと怖いし……」
「な、なんということだ、最近の者どもはこんなにも欲がないのか……!」
堕天使さんは驚いたような顔をし、地面にぺたんと座り込んでしまった。
〈コメント欄 同接:24000人〉
“草”
“悲報、堕天使さん、恥ずかしい思いをする”
“悲報、二人にはその言葉は通じない模様”
“なんか、かわいそう”
“ヒキニートなんてそんなもんよ”
“結局、ヒキニートか”
「もう良い、わかった、だがせめて偶には遊びに来てくれ、こんな何もないところだが知識ならいくらでも話せるからな……」
堕天使さんが泣きそうな顔をしていてちょっとかわいそうになる。
「行けたら行くよ」
〈コメント欄 同接:24000人〉
“(絶対に来ない)”
“その言葉には何度騙されたか……”
“行けたら行くよは絶対来ないんよww”
“強く生きてくれ、堕天使さん”
「だ、堕天使さん、せめて最後に名前だけは訊いてもいいですか?」
「ああ、我の名か、我はメフィス、人間二人すら満足させられない可哀想な堕天使だ」
「め、メフィスさんですね! 私も暇な時にきっと行くので!」
「待ってるぞ、小娘」
そうして悲しげな駄天使を置いて俺たちはゲートをくぐり、地上へと帰ることが出来たのであった。
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