第23話 汝らは何の用でここに踏み入った?



〈コメント欄 同接:20000人〉

“もしかしてここにある全てが幻覚だったり?”



「幻覚……それだ!」


 その瞬間、俺の目の前に広がっていたマグマの湖は靄となって消え、いつもと変わらない無機質な壁が現れ、感じていた暑さも嘘のように感じなくなっていた。


「どういうこと……?」


 白綾さんが絞り出すような声を上げる。


〈コメント欄 同接:20000人〉

“つまり、すべては幻覚だった?、でも二人が感じてた暑さは?”

“わからん”

“うーん”

“解せぬ”


 どうやらコメント欄の人たちも幻覚が解けたようだ。

 本当にどういうことなのかわからない。


 レゾス:“そういえば人をそうやって幻覚で惑わすモンスターが深層には居たはずだ、そいつは人の温度感覚なども狂わせると聞いたことがある”


「レゾスさんそれ、マジですか……!」


 つまり、俺らは深層にいるってことに……。

 俺は辺りを見渡す。

 すると、曲がり角から小さな毒々しい色をしたスライムが顔を出してきているのに気がついた。


 レゾス:“僕もそいつとは出会ったことがないし、その話も本当かどうかよくわからないがその様子だと本当だったみたいだね、ひとまず彼女を休ませることを推奨するよ”


「了解です、白綾さん、立てますか?」


「うん……でも先輩、肩を貸して欲しいです」


「もちろんだ」


 俺は周囲への警戒をしながらスライムから離れるように元の道へ戻るのであった。



 ――――――


 スレッド:【悲報】楓ちゃん、トラップにかかり七瀬と行動を共にすることになる


 1 スレ主

 奥多摩ダンジョンに初めてきた楓ちゃん、謎のトラップにかかり同じトラップにかかった七瀬氏と出くわす、どうやら二人はこのまま行動を共にする様子。


 2

 楓ちゃん大丈夫かな……とにかく無事であって欲しい


 3

 ふぁっ?!


 4

 なにこれ、ドッキリ?


 5

 >4 ダンジョンでドッキリなんてヒカ○ンでもしねぇよww


 6

 は? これどうせ七瀬の策略だろ


 7

 今から七瀬の配信荒らしてくるわ


 8

 普通に楓ちゃんが心配


 9

 スタンピード後のダンジョンに迂闊に入ろうとする七瀬と白綾の自業自得だろ、今まで前例はなかったけど協会のHPに何が起こるかわからないって警告も出てるんだし


 10

 >9 誰がダンジョン協会のHPなんか見るんだよ


 11 スレ主

 >9 その警告、3年前のやつだろ? 今更気にする奴がどこに居る?


 12 

 >11 マジかww、じゃあどっちも悪くないな


 13

 >12 七瀬のせいに一票


 14

 なんかおもろそうだから来てみたけど信者しかいなくて草


 15

 >14 ほんそれ、お前ら信者、死んじゃっていいよww


 16

 >15 お前が死ね


 17 スレ主

 ごめん、15、それは擁護しきれんわ、


 18

 >15 うん、寒い


 19

 とりあえずダジャレ野郎は放っておこう


 20

 話戻すけどお前ら、七瀬が仕組んだとか根拠ないこと言ってるけど馬鹿なんか?


 21

 >17 酷い、空気を和らげようとしただけなのに


 22

 >21 冷えたわ


 23

 >20 どうせ楓ちゃんとコラボしたくてなんか特殊な魔道具でも使ったんだろ


 24

 そうそう、この前の事件でダンジョンを操作する魔道具があるって言われてたしな


 25

 え、待って今きたんだけど楓ちゃんのファンってこんな盲信的なやつしかいないの?


 26 スレ主

 >25 そんなことないで信者みたいなのは23と24くらいしかいないし


 27 スレ主

 というか普通に今の状況やばくね? マグマとか溶岩湖とかあるけど。


 28

 >27 は?


 29

 お前らの相手してらんないわ、ちょっと配信見てくる



 ――――――



「よし、楓ちゃん完全回復です! ここまで運んでもらったりありがとうございますね、先輩」


「いいよ、お互い様だし……じゃあ先に進んでみる?」


 俺は奥の通路を指差した。

 あの先はどうなっているのだろうか、強大なモンスターがいるのかはたまたトラップがあるのか。

 とにかく、ここから脱出するためには進まないといけない。


「当然です、さっ、早く立ってくださいよ」


「急に元気になったな……」


 俺は白綾さんの回復速度に驚きながら立ち上がり、ぐんぐんと進んでいく白綾さんの後を追う。


〈コメント欄 同接:20000人〉

“気をつけろよ”

“七瀬裏山”

“ファイト”

“がんばえ”

“もしかしたら幻覚系のトラップがまたあるかもな”

“結構前にダンジョン協会に救援要請出しておいたのにまだ来ないってことは……”

“死んでも生き返れるか分かんないから慎重にな”



 視聴者たちは様々なコメントで俺たちを励ましてくれる。

 おそらく、視聴者も勘付いていると思うがここは普通のダンジョン内じゃない。

 ギミック部屋か……ダンジョンの未開拓層か。


 どちらにしても、とてもめんどくさい。


「待ってください! 先輩、これってワープゲートじゃないですか?!」


「え?……ホントだ」


 白綾さんが指したところには独特な魔法陣の上に建てられた漆黒の門があった。


「やりましたよこれで帰れます!」


 白綾さんは駆け足でワープゲートに近寄る。


 なんだか嫌な予感がするぞ。

 こういう時、ギミック部屋は簡単には帰してくれないはずだ。

 加速の素質を手に入れた時のように真っ先にわかりやすい出口は潰される。


「きゃっ!?」


「やっぱりか!」


 白綾さんがワープゲートに近づいた時、ワープゲートは黒い靄に包まれてその光を失った。


 そして、俺と白綾さんを隔てるように魔法陣が生まれ、赤く光った。


 そこから現れたのは――


「汝らは何の用でここに踏み入った?」


 翼、角、服それら全てを真っ黒に染めた漆黒の天使だった。

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