第22話 幻



「あ、あれ? 行き止まりじゃん!」


 結局、俺たちは行き止まりに突き当たった。


「行き止まりか……どうしますか? 白綾さん」


「う〜ん、もしかしたら隠しギミックがどこかに隠されていてそれを上手いことすれば壁が開くのかも! とりあえず壁とか天井とかを注意深く見てみましょうよ!」


「確かにそうですね」


 確かにもしかしたら隠しギミックのようなものが仕込まれているのかもしれない。

 俺は言われた通り、壁を注意深く見てみる。

 すると、ほんの少しだけ他と色の違う壁を見つけた。


「白綾さん! ここの壁が少し変な気がするんですけど……」


「おっ! 早速見つけましたか? 先輩! 今行きますね」


 小走りで白綾さんが寄ってくる。

 そして俺たちは少し色の違う壁をじっと観察した。


「う〜ん、触ってみないとわからな――うおっ!」


 俺が試しにその壁を触った瞬間、俺の手はなんの抵抗もなく壁の先へ通り抜けていき、そのまま俺は壁の向こうに倒れ込んでしまった。


〈コメント欄 同接:15000人〉

“大丈夫かー?”

“どした”

“すり抜ける壁?”

“ふっ、この壁は幻影さっ(キリッ)”

“幻覚系のギミックか”


「えっと……この壁は幻覚なんだってさ、先輩! ナイス気づきですよ!」


「あははは……でも盛大に転んじゃったなあ」


 俺は土埃のついた服を軽くはたく。


「じゃあ、進んでみましょうか」


「いえっさー!」


 俺たちは新しく見つけた道を進むのであった。



 ――――――


 スレッド:楓ちゃんについて語るスレ


 356 スレ主

 楓ちゃん、最近の成長凄いわ


 357

 >356 それな


 358

 強くてオタクにも優しいなんて……


 359

 >358 あまりにも豚すぎて草


 360

 >358 ちょっと……いや、かなりキモい


 361

 でもなんかオタクにも優しいギャル感あって良くないか?


 362

 >361 それはそう


 363

 楓ちゃんの素質って〈勇者〉だっけ


 364

 >363 せやな、知らん人のために説明すると素質:〈勇者〉は専用の魔法が使えるようになって剣の扱いや基礎的身体能力が爆上がりする素質である


 365

 >364 もう有名すぎてみんな知ってるやろ


 366

 >365 勇者の使える魔法が有能すぎて一時期話題になったよな


 367

 もうこれは七瀬を越えるのも時間の問題なのでわ?


 368

 七瀬ってやつ、なんか俺やっちゃいました感が少しあって嫌い


 369

 実は裏で視聴者とか他の配信者バカにしてそう


 370

 >368 >369 それな、マジで やっぱ楓ちゃんしか勝たんわ


 371

 というか七瀬って加速の素質持ってんだろ? ただの害児じゃん


 372

 なんかこの前テレビに出て無双してたけどやっぱ好きになれんわ


 373

 とか俺らは思ってるのに七瀬、楓ちゃんをコラボとかに誘ってそう


 374

 >373 コラボやめてほしいわ、絶対


 375

 >374 別に俺はいいけどな、というか寧ろ両方好きだからコラボして欲しい


 376

 >375 よく言った


 377

 >375 >376 は? それってあなたの感想ですよね?


 378

 >377 いやww 最初に感想言い始めたのお前らだろww


 379

 特大ブーメランで草ww


 380

 >367 七瀬ってスタンピードを一人で抑えられるくらい強いんだろ? 楓ちゃんが敵うわけねえだろ

 それに裏で馬鹿にしてそうとかそれこそ感想だろww


 381

 >380 マジレスキッズ、降臨!


 382

 >379 黙っとけ、てかこのスレは楓ちゃんに関するスレだろ?


 383

 もう混沌としてやがる


 384

 楓ちゃんの配信始まったからそっち行くわ


 385

 あれ? 七瀬も配信し始めたやん、それに同じダンジョンで


 386

 >385 は? 


 387

 なんかおすすめに七瀬のチャンネル出てきた、ほんとに同じダンジョンじゃん


 388

 楓ちゃんの配信に映り込もうとしてんのか?


 389

 マジで嫌い、七瀬


 390

 >388 いや、七瀬はいつも奥多摩ダンジョンで配信してんだろ、合わせたのは白綾やろ


 391

 >390 でも、配信始めたのは楓ちゃんの方が早いし、楓ちゃんの方が早くから告知してた


 392

 >391 >390 複数の配信者が同じダンジョンで配信するなんて良くあるだろ、それに階層が違うんだから許してやれよ


 393

 (・д・)チッ


 394

 とりま、配信見るから黙っとけ


 395

 >394 お前がな



 ――――――



「ねえ……センパイ……」


 白綾さんが上目遣いで俺のことを見つめてくる。

 その顔は少し火照っているように見えた。


「白綾さん……」


 俺も白綾さんのことを見つめ返す。


 今、どんな状況なのかというと――


「センパイ! どうにかしてくださいよぉ! このままじゃあ暑さで死んじゃいますって」


「そんなこと言われたって……」


 俺は辺りを見渡す。

 そこにはボコッ、ボコッと気泡が出ているマグマの湖が広がっていた。


「なんでダンジョンの中に溶岩湖があるんですかぁ! おかしいですよね! てかここ本当に上層ですか?」


「知らないですって! というか俺も死にそうですから!」


〈コメント欄 同接:20000人〉

“わあ、大変そうだなー(棒”

“大丈夫かー”

“こんなの見たことねえや”

“七瀬嫌いだけど人が死ぬところ見たくないから死んでも生きろ”

“え? ガチで大丈夫そ?”

レゾス:“大丈夫か? 七瀬君はもしかしてハワイのキラウエア火山にでもいるのかい?”

“レゾスやんww”



「わ、わあ、レゾスさんこんにちは、キラウエア火山? ここはダンジョンですが何か?」


 ヤバい、暑すぎて頭が回ってない。

 えっと、ここはレゾスさんに色々聞かなきゃいけないのに……。


 レゾス:“ダンジョン?! ここが? アンビリーバボー、日本のダンジョンはすごいね”


「いやいやいや、アンビリーバボーじゃなくて助けてくださいよ! 死にそうなんですけど?!」


「え? センパイ、レゾスさんがコメントしてるんですか?!」


「え、うん」


「ま、マジですか!? 流石れすね」


 もう白綾さんは呂律が回らなくなっている。

 ダメだ、これ……。


“楓ちゃん、呂律回ってないってww”

“普通にこれってヤバくね?”

“ギミック部屋だとしたらここで死んだらホントにゲームオーバーな説あるけど……”

“だ、誰か救助隊呼んでくれ”

“救助隊なんて来れねえよ、ここがどこかすらわかんないのに”


「うっ……」


「白綾さん?!」


 白綾さんが耐えきれなくなって倒れ込む。

 俺はどうにかしないといけないと頭をフル回転して考える。


 そしてその時、一つのコメントが俺の目に入った。



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