第21話 先輩もトラップにかかって転移させられたんですか?




「う、うう〜ん? ここは……」


〈コメント欄 同接:12000人〉

“楓ちゃん?!”

“楓ちゃんだー!”

“どゆこと?”

“は?”

“なんで?”

“どういうことだ?”

“二人とも転移させられたのか?”

“イレギュラーで構造変化したダンジョンだから何が起きてもおかしくない”


 白綾さんは直に目を擦りながら起き上がる。

 そして、驚きの言葉を発した。


「あれっ? 七瀬じゃないですか」


「へ?……えっと、どこかでお会いしましたっけ」


 俺は全力で記憶を掘り返す。

 白綾楓……申し訳ないけど俺の脳内にその名前はない。


「覚えてないのー? ほら、先輩って中学の時、テニス部だったじゃないですか、私も同じ学校で同じ部活だったから覚えてるんですよ、まあ私が会ったとき、先輩は中三で私は中一でしたけど」


「マジか……」


 俺はその時、中一とはほぼ関わっていなかったはずなのにその記憶力は凄い。

 流石、日本の麒麟児と言われているだけあるな。


「まあ、私、色々あって姓が変わったのでわからなかったですよね」


「そっか……」


 そこら辺はディープな話になってしまうのであまり触れない方がいいだろう。

 俺は視聴者の反応が気になってコメント欄を見てみる。


〈コメント欄 同接:14000人〉

“マ? 楓ちゃんとななせん、同じ中学だったの?”

“それを覚えてる楓ちゃんすご”

“新事実発覚”

“やばい、情報量多すぎる”

“楓ちゃん、姓変わってたのか……

“今、楓ちゃん視点とななせん視点で二窓してる”

“というか、いつも七瀬、ヘルメットにカメラつけてるから顔わかんなかったけど意外とイケメン”

“どっちかっていうと温厚そう”

“それな”


「それで、なんでここに白綾さんが?”


「それは私も訊きたいんだけど……その様子じゃあ先輩もトラップにかかって転移させられたんですか?」


「うん、そうみたいだ」


「じゃあ、この前のイレギュラーで構造変化が起きたからトラップも強化されたのかなぁ……う〜ん、わからないや」


「誰か、視聴者さんで原因がわかる人は……っ!?」


 俺は誰か原因がわかる人が居ないかコメント欄を見た時、明らかな異変に気づいた。


〈コメント欄 同接:15000人〉

グエルダ:“七瀬タヒねよ”

グエルダ:“そんなコスいことしてまで楓ちゃんと関わりたいのか?”

“は?”

グエルダ:“楓ちゃん困ってんじゃねえか”

“なにこいつ”

グエルダ:“お前のこと今からぶち56しにいくわ”

“は?”

“普通に脅迫で草”

“こいつのこと特定したるか”

“こいつ、白綾のガチ恋か?”

“白綾、荒らしをこっちに送り付けてくんなよ”

“てか七瀬もいい加減、コメントに制限つけてくれよ、このままじゃ荒らしまみれになるぞ”



 そうか……俺は底辺配信者であった頃はずっと、コメントの制限をつけていなかった、だって底辺なんだから。


 でも今は同接が1万を超えるそこそこ上位の配信者となったのだ、一つでもきっかけがあればこうして荒らしも湧くのか。

 俺はすぐに設定を弄り、登録者のみがコメントできるモードに変更し、“グエルダ”という荒らしもBANした。


「すみません、今、制限をつけました」


 俺は小声で俺の視聴者だけに聞こえるように話しかける。


〈コメント欄 同接:14000人〉

“よかった”

“対応早いの助かる”

“BANしてくれたのか”

“これでちょっと同接減ったなぁ”


 確かに、同接が少し減ったな。

 ガチ恋勢か……女性配信者には大体いるものだが、意外とめんどくさいな。

 まあ、ガチ恋されてる白綾さんはもっと負担が大きいのだろうが。


「あ、あれ? 先輩、どうしました?」


 白綾さんがコソコソとマイクに向かって話す俺に違和感を感じたのか話しかけてくる。


「いえ、なんでもないですよ! 何かいい案がないか視聴者さんに訊いてただけです」


「そう? それで何かわかったことあります?」


「それがあまりにも前代未聞なことで……」


「そっか……じゃあ、取りあえず周りの情報収集しますか!」


「そうですね」


 あっぶねえ、ギリギリ誤魔化せた……。

 自分の視聴者が他の人のコメント欄を荒らしに行っているとか知ったら精神的にキツいだろう。


 俺は切り替えて周辺を見渡した。


「普通のダンジョン内と大して変わらないな」


 少し、道幅がいつもより広い気はするがそれ以外はいつもの奥多摩ダンジョンだ。


「そうですね、じゃあ進んでみましょう!」


 白綾さんが率先して前を進んでいく。

 凄いなあ……最近の子はポジティブというか前向きというか……。

 俺一人だったら気が滅入っちゃってるかもしれない。


 進んでいってもモンスターが現れることはなく、分かれ道があるわけでもなくただ、一本の道が伸びているだけだった。

 そして結局――


「あ、あれ? 行き止まりじゃん!」


 行き止まりに突き当たった。




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