第18話 面白くねぇよ
俺はオークの攻撃を紙一重で避け、すれ違いざまに胴体を剣で切りつけた。
すると――
「グガッァ……」
オークは短く悲鳴を上げ、体は一瞬にして真っ赤に染まり骨すら残らず消えていった。
そして、地面には灰だけが落ちていた。
〈コメント欄 同接:6000人〉
“草”
“三秒灰クッキング”
“ゴミ焼却場はここですか?”
“もうなんかオークが可哀想”
「待ってくれ、なんにも残んないってことは……」
本来、モンスターを倒せばドロップアイテムと呼ばれるものが出てくる。
オークであればオークのツノが大体の場合、落ちるのだが、今回はなにも落ちなかった。
“ドロップアイテム無しやな”
“草”
“七虐助かる”
“まあ、いつも重いからって言って持って帰ってないし、いいんじゃね?”
「いやいやいやいや! 確かに俺はいつも拾ってないけど、強そうな敵のドロップアイテムだったら拾うぜ?」
“まあ……御愁傷”
“諦めろ”
“これが七瀬かww”
“乙”
「おい、マジでお前ら、俺に恨みでも持ってんのかよ……」
辛辣な言葉がコメントで流れていく。
うぅ……ドロップアイテムにはレアドロップとかもあるからちょっと楽しみにしてたところあるのに……。
俺はその悲しみをモンスターたちにぶつけていく。
「ふんっ!」
――ボンッ!!
グレートスパイダーの体が灰になる。
「はぁぁっ!」
――ボンッ!!
――ボンッ!!
――ボンッ!!
三体のオークが灰と化す。
……
…………
………………
「面白くねぇよ!! 一瞬でモンスターが燃えて消えたらストレス発散にもなんない!」
俺はとりあえず、大体100体ぐらいのモンスターを倒した。
だが、やはり、この剣は一瞬でモンスターを燃やす尽くすため、倒したという感触がないのだ。
“強すぎるせいかなぁ……”
“もうなんかそろそろ慣れてきた”
“スタンピードでも来ないかな”
“イレギュラー来ねえかな”
「スタンピードを望むのはやめてくれ? ……でもまあ、その気持ちはよくわかるけど」
強すぎる剣を使っていても何も面白くない。
「まだ切れ味の悪い剣の方が長く戦えるし、ストレス発散にもなるんだよなぁ……」
“そうだね……って、え?”
“うん?”
“え?”
「え? なんか変なこと言ったか?」
“サイコパス七瀬誕生”
“まるで模範解答のようなサイコパス”
“コワイッ……”
“お巡りさんこいつです”
そんなに変なことを言っただろうか?
みんなだってまだ、切れ味の悪い剣の方が長く戦えていいに決まってる……よな?
だが、そうやって俺と視聴者が戯れている時だった。
「――きゃぁぁぁぁ!!」
そんな悲鳴が聞こえたのは。
俺は考えるよりも先に悲鳴が聞こえた方向に向かって走っていた。
聞こえた方向からしてここの通路を曲がって左だ。
俺は左に曲がると小さな部屋に辿り着いた。
「いやぁ……」
そこには腰が抜けた様子の桃髪の少女が地面にぺたんと座り込んでいた。
そして、目の前には8本の足を持つ凶悪なモンスター、グレートスパイダーが迫ってきていた。
「シャァァッ……」
グレートスパイダーから出た糸が少女の体に纏わりつく。
このまま放置し続けていても送還システムで送還されるだろうが、幼い少女にとって死を体験するのは少し酷だろう。
俺はグレートスパイダーに近づくと――
「ふんっ!」
手でスパイダーの足を掴み、スパイダーが動揺した隙に腹に向かって蹴りを繰り出した。
「え?……」
「シュギャッ……」
そして、スパイダーは衝撃で引っくり返ったので、腹に向かって今度は踵落としをした。
「ギャッ……」
すると、スパイダーは絶命し、光る粉となって消えていった。
“流石やな”
“素手でいけちゃうのかよ……”
“やっぱり運は悪くても七瀬だわ”
“目で追えねえ……”
“※七瀬は例外です、普通は素手でソロ殺しのグレートスパイダーを殺すことなんてできません”
いつの間にかにコメント欄の流れは早くなっていた。
「大丈夫か?」
俺は地面に座り込む少女に話しかける。
それにしても、こんなに小さな少女がダンジョンに、それも中層に潜るなんてどうしたのだろうか。
「は、はいっ……助けてくれてありがとうございます、あとちょっとで死んでしまうところでした」
「そうかい、まあ、無事でよかった」
俺は座り込んでいる少女に向かって手を差し伸べる。
少女は俺の手を掴み、立ち上がった。
「本当にありがとうございま……ってええ?! だ、ダンチューバーの七瀬さんですか?!」
〈コメント欄 同接:8000人〉
“おお”
“知ってんのか”
“流石の知名度だな”
“まあ、全国放送されたし”
「おおっ! 俺のこと知ってくれてるんだ、ありがとう!」
「知ってるも何も私、大ファンです! 七瀬さんのロックゴーレムを倒した時の配信から毎回見てますっ!」
「ホントにっ?! なんか嬉しいなあ」
俺を知ってくれてる人とリアルで会うことができるなんて嬉しい限りだ。
なんというか、自分がまるで人気者になったかのような、そんな感じになれる。
「ところで、君はなんでダンジョン内に? それも中層の?」
「えっと……少し研究材料が足りなかったのでそれの収集に……いつもは仲間の人と一緒なんですけど、緊急で必要だったので一人で」
そう言って彼女はカバンの中に入っている中層のモンスター、ビッグスライムのドロップアイテムを見せた。
「すごい! その年で研究者なんだ……」
「ありがとうございます、ち、ちなみに私のこと何歳だと思ってます?」
「えっと……16とか?」
俺はちょっと盛って答えてみる。
実際は15歳くらいに見えるのだが……。
「今年で20ですよ、やっぱり幼く見えるんですね……」
「そ、そうなのっ? す、すまん!」
“今年で20ってことはななせんと同じか”
“すげー、同い年”
“研究者か……(遠い目”
コメント欄にあるように、俺も今年で20なのでこの子とは同い年ということになる。
もしかしたら大学も同じだったりして……いや、そんなことないか。
「あ、あのっ!」
「どうしたの?」
「よ、良かったら私の収集手伝ってくれませんか?」
彼女は俺を見上げるような形でそう言った。
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