第17話 後衛職





「掲示板の閲覧ですね」


 俺はダンジョン協会の職員に言い、仲間を募集する掲示板の閲覧ができるタブレットを借りる。


 ちなみに、掲示板の閲覧は素質などの個人情報を守るために探索者しかすることができなく、ネットでの一般公開は禁止されている。

 だから面倒だがこうして専用のタブレットを貸してくれる場所まで足を運ばなければならないのだ。


 俺はタブレットを受け取ると、適当な椅子に座り、『後衛職』と検索をかけてみる。


 すると、なんと5124件も検索にかかった。


「流石、ダンジョン協会の掲示板だな……」


 画面をスクロールしてざっと見ていく。


 素質は、風や水、大地など魔法系のものから、身体回復、身体強化、チアダンス、速度強化や体力増幅などの支援系まで幅広い。

 多くはメジャーなものだが、チアダンスや舞踏などのユニークなものまで含まれている。


「う〜ん、俺はどんな人と組んだら一番力を発揮できるんだろうか」


 俺の武器は、『目の素質による動体視力、反射神経×加速』だ。

 正直、速度強化なんかは必要ない。


 じゃあ、魔法系の素質と組むかと言われても、俺の加速があれば魔法を放つ前にモンスターを狩ることができるし、俺は縦横無尽に駆け回るわけだから、魔法が俺に当たってフレンドリーファイアーが発生する可能性もある。


 となると……


「身体強化系か、回復系だな」


 だが、前者も後者もどちらとも非常に人気が高い能力だ。


 身体強化は前衛にとっては必須と言っても過言ではない。

 そして、回復の素質も、ダンジョン内では死なないとはいえど死んでしまえばペナルティが課せられる上に、怪我を負えばかなりの痛みを感じるため両方とも人気の素質であるらしい。


 身体強化で検索をかけてみるが、こちらは表示が104件しかない。

 回復も同じように検索にかけるが、表示がさらに少なく78件。


 その中で色々と調べてみるが、俺とかなり年が離れている人だったり、犯罪歴がある人、過去に問題行動を起こしたことがある人すらもいた。


 この二つの素質は相当人気があるのだろう。


「ダメだな、もうちょっと広く検索してみるか」


 今度は『支援系』というワードを検索欄に入れてみる。


「ぶっ!! なんだこれ……」


 軽くスクロールしていくと、あまりにもインパクトのある字面で飲もうとしていたお茶を吹きかけた。


 素質:生命と破滅の息吹

 対象を回復することができる。だが、その場合、対象者の物理的な傷は癒えるが対象者の精神を消耗させる。


「……よし、何も見なかった」


 スクロールしていくと、ユニークなものには当たりがないことが判明した。

 チアダンスとか効果が周りにいる人の精神状態を少し回復できるだぜ?

 誰が要るんだよ。


 結局、その日は良さそうな人が見つからなかった。



 ――――――


「あっ、どうも、七瀬です! 今日はこの前の呪剣を試しに使ってみようかと思います!」


 俺は掲示板を確認し、そのまま奥多摩ダンジョンに潜って、配信をしようとしていた。

 今は夜の6時、人が集まるには悪くない時間帯ではないだろうか。


“キター!!”

“しゃあぁ!”

“やっと普通のななせんの配信だ”

“幸せや”


「すみません、しばらく色々とあって忙しくて配信出来ずじまいだったんですけど……これからは週に4回くらいで配信していきますよ」


“大学生だもんな”

“リアルだいじ”

“警察の事情聴取とかもあったんやろな”

“色んな方面で大変そ”


「あはは、まあ、大学はあれから行ってないんですけどね」


“卒業しろよー”

“俺みたいに単位足りなくならないようにな”

“程々にサボろう”

“ななせんなら大学辞めても生きていけるだろ”


「卒業はちゃんとしようと思います、ずっとこの業界で生きていけるとは限らないですからね」


 そう言いながら俺は、ワープゲートを潜り、中層まで転移する。




“あれ? 中層って行って良かっただっけ”

“ななせん、良いのか?”

“前も潜ってたから良いんじゃね?”


「あ、あはは、この前、中層の探索を許可してもらったんですよ、ほら」


 俺は重要な部分だけ隠して探索者証を見せる。

 実はあの後、一ノ瀬さんには中層の探索許可証を作ってもらったのだ。


“なんだ”

“ロックゴーレム倒したなら中層の探索許可なんてすぐ降りるか”

“スタンピード抑えてるもんな”


「あっ、あそこにオークがいますね、ちょうど良いので呪剣を試してみますか」


 俺は呪剣を鞘から取り出し、オークに向かって構える。

 オークは俺の存在に気づいたのかブヒブヒと声を上げながら突っ込んできた。


「ふんっ!」


 目の素質を使い、オークの攻撃を紙一重で避け、すれ違いざまに胴体を剣で切りつけた。




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