第19話 二人
「よ、良かったら私の収集手伝ってくれませんか?」
彼女は俺を見上げるような形でそう言った。
「えっと……収集って君が必要な研究の材料のことか?」
「は、はい……すみません、図々しかったですよね」
「いや、いいよ、ビッグスライムでいいの?」
俺は少女に質問する。
なんだかずっと少女と呼び続けるのは面倒だな……。
「はい、それと、グレートスパイダーの糸とグレーウルフの毛皮もできれば欲しいです」
「了解、それくらいなら手伝うよ」
「ありがとうございます!! あっ、これ、名刺です」
俺は彼女から名刺を受け取る。
そこには
さらに上には株式会社ラゼレータ研究員とも記載されいた。
「株式会社ラゼレータ?!」
〈コメント欄 同接:9000人〉
“マ?”
“嘘やろ?!”
“ラゼレータって入社できれば一生安泰って言われるとこか?”
“魔道具生産会社の最先端のとこじゃん”
“てか、研究員ってことはめっちゃ稼いでるんだろうな”
“こんな小さな子に稼ぎで負ける四十路の俺の存在意義とは?”
“もう、何もかもレベチだろ……”
「す、すみません、こんな幼いのにラゼレータになんか入社してて気を悪くさせましたよね……」
「そんなことないに決まってるだろ、単純に凄いんだよ」
「凄い……?」
「そりゃあラゼレータの魔道具なんて俺もよく使ってるからな、あれは便利な上に価格もそんなに高くならないし」
魔道具生産会社ラゼレータ、そこは一番初めに世に魔道具を普及させた魔道具業界のパイオニアだ。
そして、そこの研究員になって魔道具を世に売り出すことができたら数千万ものの財産を手に入れることができるとか。
「あ、ありがとうございます、ちょっと自信がつきました」
褒められるのが恥ずかしかったのか少し、視線を下げて顔を赤らめながら葉加瀬さんはそう言う。
「俺はただ事実を言っただけだよ、それより、研究に必要な材料を集めるんだろ?」
「は、はい、そうでしたね、じゃあ行きましょう」
結局、今日は葉加瀬さんのために動くことになったが、これもこれで視聴者が面白がってくれたので良きとしよう。
俺たちは小部屋から出て、お目当てのモンスターを探した。
――――――――
【???視点】
「あっ、こ、こんにちはっ! お久しぶりです、
〈コメント欄 同接:10000人〉
“おひさ”
“待ちくたびれちゃったぜ”
“学生だから時間が空くのはしょうがないか……”
“もうちょっと頻度増やして欲しいけど学生だからしょうがない”
“無理ない範囲で大丈夫やで”
“楓ちゃん、無理しないでね”
「ご、ごめんね、ちょっと学校の方が忙しくて……でも今日はその分、張り切ってダンジョン配信やってっくよー! 今日はみんな楽しんでね!」
“楽しむ”
“学校お疲れ様”
“楓ちゃん成分補充だー”
“やっぱり楓ちゃんの配信が一番落ち着く”
「ということで今日は奥多摩ダンジョンに来ています! いっつも渋谷ダンジョンばっかりだとみんな飽きちゃうし、何故か私に会いにいこうとする人もいるので場所を変えてみました!」
〈コメント欄 同接:15000人〉
“奥多摩かー”
“スタンピードあったよな”
“スタンピードと故意のイレギュラーか”
“あの事件はあんま触れん方がええで”
“奥多摩までよく来たね”
“地元だー!”
“なんで?”
“えっ! 家の近くじゃん!”
“警察が口止めしてるから”
コメント欄は「地元だ」という声などが勢いよく流れていく。
だが、その中にはスタンピードについてのコメントもあった。
「そうそう、スタンピード起きたよね、本当はもう少し前にこの配信しようと思ったんだけどスタンピードで奥多摩ダンジョンに入れなくなっちゃって、延期にしてたの、でも、それも解除されたことだし今日は上層から探索していこうと思います!」
“楓ちゃん、下層モンスターでも倒せるでしょw”
“まあ、奥多摩は初めてだもんな”
“奥多摩と渋谷じゃ構造がかなり違うから浅い階層で慣れた方がいい”
“¥5000 かえーうどん
楓ちゃんは真面目だなあ、頑張ってね”
“楓ちゃん、無理しないでね”
“奥多摩って七瀬が配信してるくね?”
“待って、今、この時間、七瀬も配信してんだけど”
“七瀬とのコラボ?!”
“七瀬は中層だし会わねえだろ、コラボとか言ってるやつ大概にしろよ”
そう、白綾は気づいていなかったが奥多摩ダンジョンの中層には最近、一躍有名となった七瀬蓮が配信していたのだ。
だが、ダンジョンは日本に9ヶ所しか無く、同じダンジョンに著名人が同じタイミングで配信することは多々あった上に、探索する階層が違うのでコメント欄もさほど荒れてはいなかった。
「あっ、〈かえーうどん〉さん、『楓ちゃんは真面目だなあ、頑張ってね』
ありがとうございます! がんばります!」
そう言って白綾は奥多摩ダンジョン上層に足を踏み入れたのだった。
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