第6話 ソロ






「ほらね? 瞬殺じゃん」


 ――バサッ

 

 糸が絡まった蜘蛛は無防備になり、剣はいともたやすく、急所を斬り裂き、絶命させた。


“え?”

“は?”

“ひ?”

“何を見せられているのだろうか”


「別にいつも通りに〈目の素質〉で動きを読んだり、死角からの攻撃を躱しただけだろ?」


“???”

“いやいやいや”

“それがおかしいんだろ”

Lino:“一応、あれ、中層のモンスター”


「え、ええ? マジですかリノさん、あれって中層のモンスターだったんですか?!」


“せやで”

“さっきからそう言ってるじゃん”

“ソロ殺しの二つ名を持つグレートスパイダーなんだけどな……”


 いや、だってさ、視聴者は嘘吐くかもしれないじゃん?

 それに対してリノさんは本当に思っていることしか言わないからな。

 というか、あれが中層のモンスターなのか、意外と弱い……いや、所詮、一体のモンスターを倒した程度で慢心しちゃダメだ。

 もしかしたらマグレだったのかもしれない。


「じゃあ、体もあったまって来たので中層に入っていきますね」


 中層に入ろうとした頃には同接は800人を超えていた。

 流石にこの前には劣るが、やはり多いな。


“やっとだ”

“こいつ見てると常識が狂ってくる”

“それな”


 中層も上層と大して変わらず、あるのは石の壁と石畳だけ。

 だが、ちょっと上層よりは道幅は狭くなっている気がする。


「中層って言っても大して変わんないですね」


“そう言って死んでいった奴が何人いたのだろうか”

“いや、こいつは例外だろ”

“そうだった”


「皆さん、褒めすぎじゃないですか? まあ、とにかく進んでいきますね」


 所詮、蜘蛛一匹倒しただけだろうに。


 進んでいくと、上層では見かけないモンスターが何体も出てきた。

 大きな熊のモンスターに強そうな狼のモンスター、さらには巨大なカエルのモンスターさえも。

 だが、結局、そいつらは――


 ――バシュッ!!


「なんか、歯応えがないですね」


 どいつもこいつも急所を剣で切り裂かれて倒れていくのだ。

 あまりにも味気ない結果に俺は期待を裏切られる。


“お前が強いからだ”

“自覚しろー! 鈍感野郎”

“逆にこの時代でこんなにも世間知らずっていうのも珍しいだろww”

Lino:“そこがななせんのいいところ”


「そ、そんなに褒めないでくださいって……でもこんなにも簡単に倒せるとちょっと自分が強くなったみたいに思っちゃいますね」


“実際強い”

“〈目の素質〉が強すぎる”

“事実なんだよなぁ”


 確かに俺は強くなったような、そんな気もしなくもないな。

 ダンジョン配信を始めた1年目ぐらいは上層モンスターを倒すのに30秒かかったが、今では中層モンスターでさえ10秒で倒すことができている。

 これはかなりの進歩なのではないだろうか?


「じゃあ、もっと進んじゃいましょう!!」


 そう言って意気揚々と俺が一歩踏み出した瞬間、床が沈み、カチッという音がダンジョン内に響いた。


“あっ”

“そういえば……”


「えっと? これって……」


“そういえば中層からはトラップが出るんだっけ”

“あ”

“www”

“敢えて言わなくて良かったわ”

“七瀬がトチ狂ってて忘れてた”


「は、はぁぁぁ?! 言ってくれよ! てか敢えて言わなかったやつとか悪意しかねえじゃん!」


 非情にもトラップはもう起動され、天井から数え切れないほどの矢が降り注いでくる。


「くっ……加速しろ!!」


 俺は間一髪のところで加速を発動させ、地面を踏み込んだ。

 そして音速に及ぶ速さで壁に突進していく――


「ここを、こうして!」


 俺は加速した状態で横に跳ぶ。

 そして、今度は壁を蹴って右の壁に跳ぶ。


 こうすれば上手いこと力は逃げていき、徐々に俺の体は減速していった。


“相変わらず凄いフィジカルしてるよな”

“瞬発力もエグいけど、身体能力もレベチだな”

“くっそ、もうちょっと虐めてみたかったのに……”

“草”


 一見、俺の身体能力を褒めるコメントだけかと思いきや、一つだけ変態的なコメントが含まれているのだが?

 や、やめてくれよ?


「はあ、トラップの存在を忘れてたよ、あとちょっとで送還システムのお世話になるところだった……気をつけないと」


“トラップはちゃんとした知識とか素質持ってる人がいないとキツイな”

“中層に来たんだし、ななせんとは言えど誰かと組んだら?”

“別に七瀬なんだしいいだろ”

“いや、せめて後衛が一人はいた方がいいな、そしたらカメラを後衛の人に付けれるからカメラが安定する”

“ななせんが加速すると結構酔う”


「確かにそれもそうだな、後衛の人が一人はいた方がいいのか……でも」


 視聴者に画面酔いさせてしまっているのであれば後衛の一人ぐらい作った方がいいか?

 でも、俺は今まであんまり友達付き合いとかちゃんとしてこなかったからなあ……。

 話すとしても家族か視聴者さんか、関係の薄い友人ぐらい。


“それか、クランにでも入ったら?”


「クランは……嫌だな、俺は自由に配信するスタンスだし」


Lino:“じゃあ、ダンジョン協会が開いてる掲示板で募集かけてみれば? グレートスパイダーをソロで討伐できますって自己紹介欄に書いとけば人は集まるでしょ”


「掲示板……ですか。確かにそれがいい気がしますね、大学内で募集するのも嫌なんで」


 正直、大学で配信者バレするのは嫌だ。

 そうなれば明日は早速、その掲示板で募集をかけるとしよう。


“ななせん、大学生なの?!”

“マジかよ!”

“その強さで? 何歳だよ”


「え、ええ? 歳は今年で20になりますね」


“二十歳かよ”

“若いのう……”

“こりゃあ未来のダンジョン業界は明るいのう”

“これで安心してワシも死ねる”


「いやいや、そんなおじいちゃんみたいなこと言わないでくださいよ、皆さんもまだまだ、若いですって」


“悲しいことにアラサーなんだよな”

“四十路のクソニートよりマシだろ”

“草”


「ま、まあ、皆さんの人生もまだあるのがいずれ良い転機が訪れますよ、ほら、先を急ぎましょう」


 コメント欄がネガティブな人たちで溢れかえってきたのでどうにかして話題を変えよう。

 だが、こんな時に限ってモンスターが現れてこない。

 欲望センサーっていうやつだろうか?


「中々、モンスターが現れないですね……あっ! あっちから足音が聞こえます!」


 ――ドドドド


 まるで軍隊が歩いてくるような音と共に現れたのは――


“足音?”

“なんだこの軍隊の行軍みたいな音”

“足音というより地鳴りだろ”


“なんだあれええ?!”

“草”

“オワタ”


 大量のモンスターの軍勢だった。



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