第5話 舞姫
「――ねえ、莉乃! 久しぶりに大学来たと思ったらなんでそんな陰気くさいやつと話してるの?」
そう言って俺たちの奇跡的な出会いに水を刺したのは俺の元彼女――美玲だった。
元カノと目が合うとお互い、気まずそうに目を逸らした。
流石にあいつでも多少は浮気した罪悪感を感じているようだ。
「ねぇ、ななせん、この人が昨日言ってた彼女さんのこと?」
リノさんはまるでゴミを見るような目で美玲を見ながらそう言った。
「え、え? まあ、そうだけど……」
「――そう……ねえ、美玲、ありがと」
そして、リノさんはさも嬉しそうに笑顔を見せた。
「え、え? どういうことよ、ねえ」
「なんでもない、ほら、もう授業始まるよ?」
「う、うん……」
リノさんがそう言うと、美玲は困った顔をしながら自分の席へと戻っていった。
「――ほんとに、ななせんを手放してくれてありがと」
最後に彼女は誰にも聞こえないような声量でボソッとそう言ったのであった。
――――――
「なあ、蓮! お前、なんであの舞姫と話してたんだよ!」
「え?」
今は講義の間の休み時間。
俺こと七瀬蓮はトイレに向かおうと途中で高校からの友人の三宅に捕まり、突然、そんなことを訊かれた。
「だ、だれ? その舞姫ってのは」
「おまっ! 知らないのか?! お前の隣の席にいた銀髪の子だよ! 美少女であり、探索者界隈では注目されている人だぞ? 本当に知らないのか?」
三宅は目を大きく見開いて肩を掴んでくる。
「そりゃあ、だって俺、基本、ネットサーフィンしたり、テレビ見たりしないからな」
「ああ、そうだった、お前はそういう奴だったんだ」
三宅は手で目を押さえ、呆れたような表情をした。
別にいいだろ、昔から俺はダンジョン探索と配信にしか興味ないんだから。
「しょうがないな……舞姫こと一条莉乃は3年前から配信をしているダンチューバーだ、舞姫は〈舞の素質〉と素質の中でも最強格である〈剣の素質〉の二つを持っていてその実力はデビュー当初からメキメキと伸びていき、今では大学生にして下層探索者のトップ層に名前を挙げられるほど強いんだ」
「ま、待てって、リノさんが下層探索者のトップ層?!」
「ああ、俺はそう言ったぞ、だから凄いんだ」
確かに前からリノさんがダンジョン配信をしていることは知っていたが、それがまさか下層探索者のトップ層の人だったなんて……。
というかそんな人が底辺配信者である俺の配信を見て、アドバイスをしてくれるなんて……。
俺はどうして俺なんかに、と思うと同時に少し誇らしくなった。
「そ・し・て! 俺が一番訊きたいのはそんなリノさんとお前がなんで親しそうに話しているか! 何か接点があったのなら俺にも紹介してくれよお〜」
「嫌だ、却下」
そうと言っても俺とリノさんは配信者と視聴者なだけなので別に大した関係でもないしな。
それに、こいつのねちっこい言い方が癪に触った。
「まあ、紹介してくれる気になったら教えてくれよ! 単位落としてでも行くから」
いや、単位は取れよ、ちゃんと。
ちなみに余談だが、その後、リノさんに本当に下層探索者なのか訊いたらさも当然そうに「そうだけど?」と返ってきた。
そして、俺がなんで言ってくれなかったんだよ、といえば「訊かれなかったから」だとか。
いや、普通、相手が下層探索者なのかどうか訊かねえよ。
そんなツッコミをしたくなった。
――――
「あ、どうも、ダンチューバーの七瀬です、今日もいつもみたいにダンジョン上層の探索をしていこうかと思います」
俺はSNSで告知していた時間に枠を立て、早速、配信を開始した。
今日はいつもより断然、同接数が多く、いつもは二人のところがなんとその100倍以上の220人も居たのだ。
“こんちゃ”
“初見です”
“スレから来ました”
“ロックゴーレム倒してもまだ上層ってマ?”
同接数のおかげで次々とコメントが流れてくる。
確かに下層のモンスターであるロックゴーレム倒してもまだ、上層に篭り続けるのは何かが違うような気がする。
「わっかりました、じゃあ、今日は前半は体を慣らすために上層に潜って、途中から中層に行きます!」
“まだマシか”
“上層とか雑魚狩りじゃん”
“日和んなって”
“どうせ死んでもシステムで蘇るだろww”
「いえ、自分、調子に乗るとすぐに失敗するので堅実に行こうかと思います、それに自動送還システムを使うとお金もかかりますし、ペナルティもつくので」
探索者が死なないためにダンジョン協会が作った自動送還システムは実力のない人によるゾンビアタックを防ぐために、使用した場合は重いペナルティがつくようになっているのだ。
「あっ! 早速、スライムが来ましたね、軽く倒していきましょう」
通路の分岐点に座っているスライムは俺を見つけると突進してくる。
俺はスライムがぶつかるギリギリまで避けずに、紙一重のところで敢えて避けた。
すると――
「ピギャ!!」
スライムは地面に衝突して体液を周りに撒き散らし、消滅していった。
“何が起きた?”
“うん?”
“なんかした?”
「確か、このようにギリギリでスライムを躱すと奴らは減速ができずにこうやって地面と衝突して破裂するんですよね」
“知らんよ、そんなの”
“普通に剣で倒すんじゃないの?”
“おかしくね?”
「あ、あれ? Linoさんにはこれで教わったはずなんだけどな……」
Lino:“それは冗談”
「マジっすか……」
お、おい? リノさん? 嘘の情報ばかり教えないでくれよ?
その後もモンスターを倒していったが、ことごとく、視聴者には特殊なモンスターの倒し方に驚かれた。
俺ってそんなにおかしな奴なのか?
「あっ! 見たことのない上層のモンスターが居ますね、こいつは普通にサクッと倒しちゃいましょう」
そのモンスターは体にまだらな模様を持った巨大な蜘蛛のモンスターだった。
今まで見たことがないから出現率が低いのかもしれない。
“お、おい!”
“そいつ、グレートスパイダー、中層の中でも上位のモンスターだぞ!”
“ソロじゃ無理だろこいつ”
蜘蛛モンスターが俺との距離を詰めてくる。
ちょうどいいや、それぐらいの方が戦いやすかったんだ。
「キシャァ!!」
蜘蛛のお尻から人の腕ぐらいある糸が伸びてくる。
“それに捕まったら確実に死ぬ!”
“これだからソロは”
「えっ? 別にこれぐらいの敵なら瞬殺できるでしょ?」
俺は流れるコメントに疑問を持ち、スライムを倒す時と同じ原理で糸を紙一重で避ける。
だが、それでももう一本の糸が死角から迫ってきていた。
もちろん、目の素質を持つ俺には死角なんて無い。
ひらりとその糸も避けると俺を襲おうとしていた二つの糸が正面衝突した。
「ほらね? 瞬殺じゃん」
――バサッ
糸が絡まった蜘蛛は無防備になり、剣はいともたやすく、急所を斬り裂き、絶命させた。
――――
星、フォロー、応援などいただけたら作者のモチベの足しになるのでお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます