第4話 偶然?
『ごめん』
ダンジョンから帰ってきて、LINEを見ると、彼女からそんなメッセージが届いていた。
俺は『なんで浮気なんてしたんだ?』と返信をする。
すると、すぐに返信が帰ってきた。
『だってあんたみたいなヘタレ童貞男より、経験豊富でリードしてくれる人を選ぶのは女として当然じゃない?』
俺は絶句した。
俺の彼女はこんなやつだったのか?
もっと優しくて気配りが出来て……俺の前での姿は偽りだったのか?
それとも俺が彼女のことを理解しきれていなかったのか?
自問自答を繰り返すが、彼女を気持ち悪いと感じるのは変わらなかった。
『そんなことより、七瀬君さ、素質オーブ出したんだって? それ私にくれたら浮気したことも謝るし、これまでと同じように付き合って上げるよ?』
――バン!!
思いっきり手を机に叩きつけ、彼女の連絡先をブロックして削除する。
「どこから間違えたんだろうな」
高校の頃から付き合っていた彼女だったが、俺はどこかで彼女との接し方を間違えてしまったのかも知れない。
結果、彼女の心は俺から離れ、彼女の性格も歪んだから。
「はあ、明日、大学行くのダルいなぁ……」
結局、俺は日曜日の夜の憂鬱と人間関係に失敗した辛さでふて寝するのであった。
――――――
朝、起きて日課のチャンネル登録者チェックをすると、なんと、今まで二人だった登録者が154人にも増えていた。
「マジかよ、一夜にして登録者150人増えるとか……案外、いいこともあるんだな」
もしかしたら昨日、素質オーブを手に入れたのが意外と視聴者にはウケたのかもしれない。
さらに、昨日の配信のアーカイブは2000回再生もされており、歓喜の思いで小躍りしたくなる。
「あっ、コメントも来てる」
昨日の配信のアーカイブをクリックすると、13件もコメントが来ていた。
『下層探索者が上層で雑魚狩りして楽しい?』
まず、一番初めに目についたのはそのコメントだ。
「下層探索者? 誰のことだろう……送る場所間違えたのかな?」
画面をスクロールして他のコメントも見てみる。
『タイトルとサムネが絶望的にダサい』
『サムネww』
『タイトルとサムネがゴミすぎて逆に才能ある』
『このタイトルとサムネ、SNSに上げたらそこそこバズったわww、ありがとう』
「そ、そんなに酷い? Linoさんから教わったんだけどな……」
コメントの半分以上はタイトルとサムネの酷さを指摘するものだった。
てか酷すぎてバズるとかどういうことだよ。
『とっと中層か下層行ってこい』
『お前みたいな上層探索者が居て堪るか』
『流石に上層探索者はネタだよな?』
そして、残りのコメントは俺の強さ?に関したものだ。
「これって褒められてるってことでいいんだよな?」
多分、そこそこ褒められてるよな?
今まで俺は実力もダメダメな奴だと思っていたが、案外、上層探索者の中では強いのかもしれない。
まあ、伊達に3年もダンジョン配信やってるからな。
「今度、Linoさんに中層まで潜っていいか訊いてみるか」
やっぱりこういうのは経験者に訊くのが一番なのだ。
早速、俺はLinoさんのSNSアカウントにDMをし、スマホを閉じた。
さてと、気分も晴れたし、大学行くか。
――――――
大学に着くと俺は隅の方の席に座り、授業が始まるまでテキトーにスマホで暇を潰す。
「あ、あの、隣いいですか?」
席が埋まり始めた頃、恐らく同い年であるだろう女子学生に話しかけられる。
「いいですよ、どうぞ」
女子学生は軽く頭を下げて、授業の準備をし始めた。
俺は女子学生を気にせず、普通にスマホで昨日の配信のサムネとタイトルの何が悪かったのか考えていた。
Linoさんから教わったことは全部、守ってるんだけどな……何が悪かったんだろ?
「あ、あの!」
俺が考え事をしていると、珍しく隣の人が声をかけてきた。
「ど、どうしたの? そんなに大きな声で」
「ごめん、何度言っても聞こえていないようだったから」
「そうなの? それなら逆にごめん」
「そんなこと別にいい……それより」
女子学生は俺の顔をじっと見つめてくる。
その女子学生の顔はちゃんと見れば整っており、世間では美少女と言われるような類の人だった。
「もしかしてダンチューバーの“ななせん”じゃない?」
「へ? そ、そうですけど何故その名を?」
確かに昨日の配信ではそこそこ知名度は伸びたが、それでもまだまだ俺は底辺配信者だぞ?
それなのに大学の美少女な同輩が俺のことを知ってるんてことあるのか?
「私、
「り、リノさん?! ま、マジですか?」
「マジ」
そう言うと、彼女はスマホを見せてくる。
そこにはさっき俺がLinoさんに送ったDMが写っていた。
「ホントだ……」
いつもあんなにおっさんぽいことを言っていたLinoさんだが、俺と同じ大学に居たなんて……。
でも、ネットとリアルでも言葉足らずな感じは変わらないみたいだ。
「まあ、私、ネットとリアルだとそこそこ違うし……」
「それは確かにそうですけど……でも、逆にリノさんが変人とかではないことがわかったので良かったですよ?」
「そ、そう? それなら良かった」
リノさんは安心したようなほっと息をついた。
「あ、そうだ、ななせん、チャンネル登録者100人越えおめでとう」
「あ、ありがとうございます! 見てくれたんですね」
「もちろん」
リノさんはパーカーについているフードを揺らしながらドヤ顔をする。
なるほどな、リアルのリノさんって結構、愛嬌があるんだな……。
「――ねえ、莉乃! 久しぶりに大学来たと思ったらなんでそんな陰気くさいやつと話してるの?」
そう言って俺たちの奇跡的な出会いに水を刺したのは俺の元彼女だった。
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