第2話 素質





ペペロン:“なにこれ?”

“やばやばやば、これってあれやん!”

“あれっ? ここって上層だよな?”


 ビー玉くらいの小さな水晶玉が入っていた。

 コメントの流れる速度が一気に加速していく。

 同接はいつの間にかに152人になっていた。


Lino:“素質オーブやな”


「そ、素質オーブ?!」


 この世界には素質というものがあり、火の素質を持つ者は火の魔法が使え、糸の素質を持つ者は糸を操ることができる。

 このようにこの世界の全ての人間には素質が一つ以上あるのだ。

 その素質を後天的に得ることができるアイテムが素質オーブ。


“素質オーブってマ?”

“嘘やろ ここ上層だぞ”


 素質オーブは深層や下層の宝箱で偶に手に入り、その価値はおおよそ10万から10億まで。

 中に込められている素質によって価格はピンキリだが、運が良ければ大儲けできる秘宝――それが素質オーブ。


「と、とりあえずなんの素質が入ってるのか確認してみようよ」


“声震えてて草”

“戦闘狂のくせしてかわいいところあるんやな”

Lino:“ななせんは可愛い”


 なんか不安なコメントしかないが、気にせずオーブと一緒に入っている説明書を見た。


 ――――――


〈加速の素質オーブ〉


 所有者の移動速度が上昇する。


 ――――――


「加速の素質オーブだってさ、これってどれくらいいの?」


“草”

Lino:“あっ……(察し”

“一番ハズレじゃん”

“史上最悪の素質”


 一気に落胆するコメントで溢れる。

 そんなに酷いものなのか?


“まあ、上層で出る素質オーブなんてそんなもんか”

“おもんな”


 何人かの視聴者がそんなことを言い、配信から離れていく。


「そ、そんなに変な素質なの?」


“おん”

“加速できるけど制御はできない欠陥素質”

“仲間を轢き殺せる素質”

Lino:“試しに使ってみたら(笑)? どうせ協会でも買い取ってくれないし”


「わかりました、使ってみますね」


 えっと、使うためにはオーブを砕けばいいのか。

 俺は剣を振り、オーブを砕いた。


“ww”

Lino:“冗談だったんだけど?!"

“あーあ”

“最近もニュースで話題になってたのに……”


「試しに走ってみますね!」


 カメラを地面に置き、調子に乗った俺は素質の効果を試してみようと地面を踏み込んだ。

 すると――


 ――ドカン!!


 俺の姿は消え、小部屋の一部から土煙が立った。


「いててて……」


 いつの間にかに俺は壁と衝突していたのだ。


“あーあ”

Lino:“だ、大丈夫ww?”

“人間弾丸ww”

ペペロン:“Linoさん?! なにさせてるんですか!”


「えっと、つまり、この素質って……」


“実質、無いような無能素質”

Lino:“まっすぐにしか進めないゴミ素質”

“草ww、メシウマだわ”


 ええ……。

 俺って取り返しのつかないことをしてしまったのでは?


“そもそもあんたの元々持ってる素質はなんだよ”

“↑それな さっきから気になってた”

“七瀬くんの素質によってはなんとかなるかも”


 すると、今度は俺の素質についての話題に切り替わった。


「俺の素質ですか? 俺の素質は……目です」


“目?”

“聞いたことない”

“弱そうww”


「あはは、まあ、確かに弱そうですよね、でも意外に便利でして、視野が広がったり、動体視力が上がったり、モンスターの行動が予測できたりするんですよ」


 俺がそういうと、何故かコメント欄は嘘つき、というコメントで溢れた。


“嘘つけ”

“動体視力とかはまだしも、モンスターの行動予測はチートすぎて嘘だろ”

“調べてきたけど今までそんな素質持ってるやついなかった”


「え、えっと……ほんとなんですけど、ほ、ほら、探索者証にもほら」


 俺は探索者証を指で住所などを隠しながらカメラに写す。


“マ?”

“偽装だろ”

Lino:“↑探索者証の偽装は不可能だぞ、エアプ乙”

“確かにロックゴーレム倒してた動きがあまりにも滑らかだったような”

ペペロン:“昔からずっと見てきましたけど、これは本当ですよ”


 それでも嘘だというコメントは無くならないが、探索者証やLinoさんたちのコメントの効果あってか、8割くらいの人が俺を信じてくれるようになった。


“じゃあ、素質を二つ同時に使ってみれば?”

“上の奴、エアプすぎ、そんなの下層の奴らでも難しいぞ?”

“それな”


「わかりました、二つ同時に使えばいいんですね」


 俺は目と足に意識を集中させる。

 そして、さっきと同じように地面を踏み込んだ。


 ――ドカン!!


 またしても壁の一部から土煙が立つ。


“知ってた”

“馬鹿じゃん”

Lino:“だ、大丈夫?!”

“馬鹿すぎて演技なんじゃないかって思ってきたわ”


 だれしもが呆れたその瞬間、また別の場所から土煙が立った。


“うん?”

“え?”


 ――ドカン、ドカン、ドカン


 カメラに映っていない場所にも土煙が立ち、爆音が視聴者の鼓膜を震わせた。


“耳がああああ”

“どういうこと?”

“今北産業”

Lino:“意味わかんない”


「で、できた!!! けど止まんないよぉぉぉ!!」


“なにこれ、反射してんの?”

“目の素質で壁にぶつかる瞬間に壁を蹴ってるんじゃない?”

“↑そんなことあるわけ……”

“フレームレートが足りねぇww”



 ――ドカン!!!!


 最後に一際大きい音が鳴り、壁に衝突すると、暴走した俺は止まった。


「ぐぅ……このスキル危険すぎるでしょ」


 俺は床に転がり落ちる。

 いつの間にかに同接は1000を超えており、過去にないほどコメント欄が騒がしくなっていた。


“こんなやつ、上層探索者じゃねえよ”

“上層探索者ってスライム相手に怖がってる奴らだろ? タイトル詐欺じゃねぇか”

“興味本位で配信に入ったら一瞬で鼓膜が破壊された件”

“重低音ヘッドホンつけて聞いてたら鼓膜死んだ”



 そして、後日、七瀬に関するスレが立ったのであった。

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