底辺ダンジョン配信者の俺。彼女に浮気されたことを言ったら美少女たちにコラボを迫られることになった

わいん。

第一章 上層・中層探索編

第1話





「ごめん、私――」


 それは昨日の夜のことだった。


 陽は沈み、街の灯りが闇を照らす夜11時。

 壊れた電球を買い直すために深夜まで空いている少し遠めの電気屋に出かけていた途中。


 繁華街を横切った時、俺の彼女がチャラついた金髪の男と共にラブホから出てきたのを見かけてしまったのだ。

 彼女と目が合うと気まずそうに『ごめん』と口の形で伝えてくる。


 その瞬間から俺の頭の中は、困惑と怒りと喪失感でぐちゃぐちゃになっていた。

 そうして、今に至る。


「なんで、なんでだ? 俺が悪かったのか? 俺が彼女をうまく愛せてなかったのか?」


 俺はダンジョンに入り、日課のダンジョン配信の準備をしながら独り言を呟いた。


 約十年前から世界に突如として現れた未知の遺跡――ダンジョン。

 人々はダンジョンに湧くモンスターを倒し、魔石やドロップアイテムを入手して、売り、巨万の財産や名声を得た。


 そんな大探索時代に生まれたのがダンジョン配信だ。

 ダンジョンの中や戦闘している様子を配信サイトに流し、名声や広告収入を得るという日本発祥の特殊な文化。


 そう、この俺も欲に溺れてダンジョン配信を始めた一人だった。


 だが、結果はダメダメ。

 三年間続けても同接は一桁を一向に超えない上に、配信と戦闘がどっちつかずになってしまい、未だに上層で低位のモンスターを狩る日々。


「人間関係も配信もダメダメで、俺ってなんで生きてるんだろう……いやいや、そんなこと考えちゃダメだ」


 俺は気を逸らすために配信をつけることにした。

 ヘルメットに付けるタイプのカメラを起動。

 そして、スマホで配信を付け、挨拶をする。


「ど、どうも、ダンチューバーの七瀬です、今日もいつもみたいに上層の探索していこうと思います」


 初めの挨拶をし、ホログラムで空中に映ったコメント欄を見る。

 同接は二人、ということは固定視聴者の人かな?


 Lino:“なんかいつもに増してテンション低くて草”

 ペペロン:“なんか暗いですね”


 この二人は昔から俺の配信を見てくれている固定視聴者の人たちだ。

 たった二人といえど、この人たちは俺の大体の配信には参加してくれており、俺が今日という日まで配信を続けられたのは全て、この二人のおかげと言っても過言ではない。


「えっと、まあ、情けない話なんですけど、彼女に浮気されちゃって……それで少し気分が優れなくて……って、こんな私情を配信で引きずっちゃダメですよね、あははは」


 ペペロン:“なにそれ、その女誰?”

 Lino:“ななせんがいるのに浮気とかありへんわ”


「みんなありがと、でも、もう切り替えてくよ、こんな暗いまま配信したらみんなに迷惑だしね」


ペペロン:やさしい

Lino:やさい


「じゃっ、切り替えて探索してくよ!」


 俺はいつも通り、雑談をしながらダンジョンを歩き回る。

 ここら辺は何回も通ったから慣れてきたな。

 俺は辺りを見渡しながらそう思ったのだが、正面の壁にほんの少しだけ違和感を覚えた。


「あれ? なんか、壁が近くなったような……」


 それは毎日、ここを何周もしている俺でしか気づかないであろう違和感。

 絶妙にわからないくらい壁が近くなったような気がしたのだ。


Lino:“なんも変わってなくね?”


 俺は念の為、壁を触って確かめる。


「う〜ん? 確かに気の所為かな? って――うおっ!?」


 ――突然、俺が触っていた壁の一部がスイッチのように押し込まれ、カチッという音と共に視界が真っ白に染まった。

 あまりの眩しさに俺は目を閉じ、しばらくして目を開けた時には――


「うっ……あ、あれ? 出口がない?」


 見渡す限りの壁が広がっていた。


ペペロン:“ほんとだ?!”


「ど、どういうことだ?」


 こんな現象、今まで起きたことがない。


Lino:“隠しギミックやな”


「隠しギミック……ですか? えっと……」


 俺はスマホで調べようとするが、すかさず解説してくれるコメントが流れる。


 ペペロン:“隠しギミックっていうのはダンジョンに存在する特別な罠みたいなもので、別の階層に転移させられたり、モンスターがたくさん現れたり、お宝が現れたりするそうです”


「えっと、つまり、俺は隠しギミックを見事に引き当ててしまって謎の小部屋に閉じ込められてるってこと?」


ペペロン:“そうみたいですね”

Lino:“まあ、モンスターが出てくることなんてそうそう無いから安心していいで”


「そうなんだ……って、Linoさん、それっていわゆるフラグでは?」


 すると、ゴゴゴゴという音が鳴り始める。


「え? や、やめてくださいね? モンスターとか出てきませんよね?」


 いや、これは別に出てこいっていうフリじゃないよ? ほんとにやめてね? 


 そんな俺の願いも虚しく、小部屋の一部が盛り上がり始める。

 そして、そこから出てきたのは――


「なんだ、これ――」


 巨大な人型の岩――ロックゴーレムだった。


Lino:“あっ……(察し”

ペペロン:“Lino氏……”


『グゴギゴゴ、対象者を確認、直ちに排除』


 ロックゴーレムは目を赤く光らせると、そう言った。


「これって……やばいやつ?」


ペペロン:“逃げて”

Lino:“逃げろ、そいつは下層モンスター”


「か、下層?!」


 層はモンスターや探索者の強さを表し、一つ層が上がるだけで強さは10倍になると言われている。

 俺は上層探索者、つまり、あいつとの実力差はおおよそ100倍。


 すると、逃げる隙を与えないようにロックゴーレムは腕を振り下ろして押し潰そうとしてきた。


「あっぶなっ!?」


 ダイビングジャンプでなんとかゴーレムからの攻撃を避ける。

 そして、そのまま切り返して、剣でゴーレムの手を斬りつけた。

 だが――


 いとも容易く俺の剣は払われ、もう一度、腕を振りおろさんとロックゴーレムは腕を上げた。


Lino:“普通に攻撃してもロックゴーレムには効かないんだよなぁ……”


「マジで?!」


 俺の渾身の一撃はなんだったんだろうか。


ペペロン:“今、調べたけど、ロックゴーレムは背後の核を壊せば倒せるらしいです!”


「背後の核?……これか!」


 死角で見えなかったが、確かに一瞬、ロックゴーレムの背後には赤い球状の水晶のようなものが見えた。

 これを剣で貫けば倒せるのか?!


 だが、ロックゴーレムは警戒しているようで、なかなか俺を近づかせてくれないし、意外と動きが機敏だ。


 これが下層のモンスター……!


Lino:“討伐方法としては囮を使うのがメジャーだけど、囮なんていないからどうにかして死角を突かないといけない”

Lino:“そのためにはまず、奴に大技を使わせて、その硬直を狙うんだ”


「大技……これか?!」


 ロックゴーレムの動きが一瞬止まり、奴の目に全身から力のようなものが集まっていく。


Lino:“来る、避けて”

ペペロン:“避けて! ななせん!”


 大技の溜めが終わった時、ロックゴーレムは前方に広範囲のビームを放とうとする。

 それなら、ここで俺が取る選択は一つ――


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 俺は捨て身で前に突っ込む。

 そして、溜めが終わった瞬間、視界は赤い光に覆われた。


ペペロン:“ななせん?! 生きてる?!”

Lino:“大丈夫??”


 きっと、画面越しで見てた人は俺にビームが直撃し、死んだのだと思っただろう。

 だが、あの瞬間、俺は自殺しにいったわけではない、しっかりと狙いがあったのだ。


「さあ、反撃といこうじゃないか」


 ロックゴーレムの足元でそう呟く。

 そう、すぐさま、ロックゴーレムの足元に滑り込むことで紙一重のところでビームを回避したのだ。


 俺は鞘から剣を抜き、ロックゴーレムの背後に素早く立ち、そして――


 ――パリン


 その赤く光るロックゴーレムの核を貫いた。



『グゴギゴゴギギギ』


 そんな呻き声と共に、動力を失ったロックゴーレムは膝から崩れ落ちていった。


「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」


 ペペロン:“流石! ななせん、まさか下層のモンスターを倒すなんて……”

 Lino:“ななせん、流石、その発想はなかった”


 すると、その二人以外にもコメントを打ってくる人がいた。


“なんか、上層探索者ってタイトルにあったのになんでロックゴーレムと戦ってるん?”

“頭ぶっ飛んでて草”

“こんな奴がなんで上層探索者してんだよ”


 同接を見てみると、なんと36人も居たのだ。

 過去最多の同接者数に俺は驚いた。


「他の方々も見てくださってありがとうございます! なんとか倒せました」


“おん”

“動きが下層探索者なんだが”

“発想は戦闘狂”


 なんか、下層探索者とか、云々言われてるけど、俺はそんなに強くないぞ?

 だってLinoさんから、それじゃあ、中層はまだやめた方がいいと言われ続けているのだから。

 探索者経験のあるLinoさんが言っていたのだからこれで調子に乗ってはいけないな、精進し続けないと。


Lino:“同接増えてる、良かったね”

ペペロン:“あー、ほんとですね”


 心なしか二人の言葉に元気がないように思ったのだが、どうしたのだろうか?

 まあ、気のせいか。


「って、そうだ、宝箱!」


 辺りを見渡すと、小部屋の中心に一つの宝箱が鎮座していた。


“おっ、お楽しみの時間やな”

Lino:“宝箱か、やっぱり隠しギミック部屋にはあるよね”

“って、ここ隠しギミック部屋なのかよww”

“マ?! あの一年に一回くらいしか現れないやつ?”

“↑なにそれ、おいしいの?”


「隠しギミック部屋ってそんなに凄いの? まあいいや、とにかく宝箱開けてみます!」


 俺は宝箱に近づき、箱に手をかける。

 唾を飲み込む。

 大きく息を吸う。


「オープン!!」


 そして、箱を開くとそこには――

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