第11話 さあ、街に出かけよう!(1)
コルネリアがレオハルトの秘密を知った翌日、二人は揃って朝食をとっていた。
もちろんレオンハルトは元の姿に戻っており、それに対してコルネリアは少しだけ残念そうな表情を浮かべながら食事をしている。
テレーゼがレオンハルトとコルネリアの食事準備をおこなうと、お辞儀をして少し後ろの方で控えた。
「レオンハルト様……きの……」
そんな風に声を出した時に、昨日の秘密を皆の前で言ってはいけないと思い出して、咄嗟に口元を覆う。
慌てるコルネリアの様子を見て優しい微笑みを浮かべると、今度はレオンハルトのほうから彼女が聞きたかったであろう言葉を告げた。
「昨日のことを知っているのは、ヴァイス家ではミハエルとテレーゼだけだよ」
「そうでしたか」
「ああ、コルネリアも知ってしまったからこれで三人。つまり、四人だけの秘密になったね」
会話を耳に挟みながら、ああ、昨日二人で仲良さそうに夜中までイチャイチャしていたのではそのためか、と納得するようにテレーゼがほおというような感じで口をすぼめて頷く。
「あ、そうだ。今日、実は仕事で少し街に出るんだけど、もしよかったら一緒に行かないかい?」
「え、私がでしょうか。お屋敷を出てよろしいのですか?」
「もちろん構わないよ。わたしと一緒じゃなくても護衛をつけて好きに街に出ていいからね」
「ありがとうございます。では今回、ぜひご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、食事を終えたら準備をしておいで」
「はい!」
コルネリアはテレーゼに外出用のドレスを選んでもらい、着替えてレオンハルトの元に向かう。
王都の華やかな街に出かける、しかも初めてのデートということで思いっきりおしゃれをした。
普通のメイドであれば、ドレスを見立ててそして髪を結って……としているとかなり時間がかかるのだが、テレーゼは非常に優秀で髪結いが普通のメイドの半分以下の時間でできるほど得意であった。
しかも何パターンもアレンジができ、ささっと髪をいじってみせながら主人であるコルネリアの好みの髪型にしていく。
こうしたテレーゼの優秀さもあり、レオンハルトを待たせることなく準備ができ、二人はミハエルとテレーゼに見送られながら王都の街へと向かった──
◇◆◇
馬車に乗ることも二回目といった様子であったため、コルネリアはもの珍しそうに流れていく景色を眺める。
まるで子供のようにじっと窓に張り付いて外の景色を見ているので、レオンハルトはなんとも微笑ましくなってほんわかしてしまう。
「すみません、子供っぽかったですよね……」
「いいや、そんな君も僕は好きだよ」
さらっと『好き』なんて言葉を言うものだから、さすがにコルネリアの心臓も少しドキリとする。
コルネリアが離婚したい、とレオンハルトに言い出した日から徐々に彼女の感情が戻り始めており、おおよそ人並みの驚きや嬉しさを素直に感じて表現するようになっていた。
そんな大きな変化がレオンハルトにはとても嬉しく、毎日静かに彼女のことを見守っていた。
馬車の中で話をしていると、あっという間に王都の街の入り口に着き、二人は馬車を降りてある場所へと向かった。
「オーナー、いるだろうか」
「レオンハルト様、ようこそ、いらっしゃいました」
深々とお辞儀をするその男性は絵にかいたような紳士であり、白髪が綺麗でスーツを着こなす60代ほどの男性であった。
コルネリアはレオンハルトの後ろから遠慮がちに顔を出すと、お辞儀をして挨拶をする。
「今日は奥様とご一緒でしたか」
「ああ、実は彼女のドレスを見立ててほしくてね。彼女に合うドレスを見繕ってもらえるだろうか」
「かしこまりました。すぐに妻を呼んでまいります」
そう言うと奥のほうにある扉をコンコンと叩く。
すると、少しした後で中から男性と同じ年か少し若いくらいの女性が顔を出し、すぐさま二人に挨拶をする。
「レオンハルト様、ご無沙汰しております」
「マダム、今日もお美しいですね。お元気そうで何より」
「身体はきつくなってまいりましたが、まだまだドレスを見立てる腕と目利きには自信があります」
オーナーの妻はそう言いながら即座にコルネリアの体形と似合う色合い、雰囲気を測ると、奥の方にあるドレスをいくつか出してくる。
そしてコルネリアのすぐ横にあるラックに、持ってきたドレスを順番に並べると、コルネリアに問いかける。
「奥様、どれかお好きなものや気に入ったものはございますでしょうか?」
「え?」
自分が選んでよいと思っていなかったコルネリアは戸惑ってしまい、思わずレオンハルトの顔色を伺う。
彼は好きなものを選んでおいで、というように伝えるとコルネリアに優しい微笑みを投げかける。
コルネリアはゆっくりとドレスのほうに近づいて、左から順番に目を通していく。
(どれも綺麗で素敵で選べません……)
そう心で思うのも無理はなく、ここの仕立て屋は町一番と評判であり、さらに貴族でも王族や公爵家御用達のお店であった。
値も張るが、それだけ素晴らしい品とサービスを揃えており、ヴァイス家も代々ここの仕立て屋に世話になっていた。
(このドレスが気になりますが、いいのでしょうか)
まだどうしても遠慮がちになるコルネリアの様子に気づいたオーナーの妻は、さっとコルネリアの視線の先にあったドレスを手に取って彼女に合わせてみせる。
鏡を見ると、まるで自分ではない、というような感覚に陥るほどコルネリアにとって素晴らしくいい品だった。
そのドレスは、華やかさはそこまでではないが、ちらりと見える部分に花の刺繍が施されている白を基調としたドレスであった。
(可愛いですね、このドレス)
コルネリアが気に入ったことを彼女の表情から読み取ったレオンハルトは、これをいただいてもいいかなとオーナーに言う。
オーナーはもちろんでございます、といった様子で会釈をする。
ヴァイス公爵家も含めて上位貴族は店に毎月すでに十分な費用を払っており、会計などは都度行わない。
コルネリアはそれが新鮮であり、そして自分が住んでいた世界とは別世界のようなそんな気がした。
そのドレスはデイドレスであったので、普段の家で着られるものも買い足して店を後にした。
「この後、カフェに行こうと思うんだがどうだい?」
「ぜひ」
二人は仕立て屋から少し離れた場所にカフェへと歩いて向かった──
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