第39話

「んぅ~……ぁ……」


目を開けるともう外はすっかり明るい

昨晩はみんなでパーティーしたけど……

そうだよ。酔った柚季の相手をしていてほとんどパーティーらしいことをしてなかった気がする

イヤじゃなかったけどね。ただ疲れたというか嬉しいというか


「あ……」


あたしの隣には柚季がいた。まだ寝ている

そうか。確かあたしがベッドに運び込んだんだよね……

あれこれってヤバイのでは?

恋人をベッドに連れ込んだってことだよね?

それも相手が寝ている隙を利用したんだよ?

なっ何もしてないからね! ただこの子と一緒にいたいってだけだったんだよ!

今の柚季って隙だらけすぎるよ!

いやこの子っていつも隙だらけな気がするけど……

こんなにかわいくて、大好きな恋人が隣で寝ていたらヘンなこと考えちゃうって!


「おはよ。柚季」


とりあえずあいさつしてみた

当然ながら反応はなかった。そりゃそうだよね小さい声で言ったもん


「ん……んにゅ……」


柚季はあたしの方を向いて寝ている

今は、安心してくれているのかな

心労が多いと寝ているときも苦しそうな顔をしたりするって聞いたことがある

今の柚季はとっても気持ちよさそうに寝ている


「……っ」


どうしよう。柚季の彼女としてはこのままこの子をゆっくりと寝かせてあげるべきなのに

このかわいい寝顔にキスしたい。思いっきり抱きしめて、頭を撫でて、柚季と触れあいたい

でもそんなことをしたら、柚季はもちろん起きてしまう

あたしって柚季の彼女失格なのかもしれない……


「んふぅ……んっ」

「ひゃっ!?」


あたしが悶々としながら柚季の寝顔を見ていたら、柚季の目が開いた


「ぁ……えへへぇ」

「柚季、その……」


目が覚めたら目の前にあたしがいることに気付いた柚季はふにゃりと目を細めて笑った


「おっおはよ……」

「うん。おはよう、玲香」


どうしよう。さっき考えてたことばれてたりしないかな……!

大丈夫だよね。実際したのはちょっと声をかけただけだからっ!

あと寝ている間に彼女をベッドに入れて一緒に寝ただけだから!

……あぁ、アウトだわ


「れーいか? どうしたの?」

「あー……よく眠れた?」

「うん……玲香の手、暖かいね」

「柚季の手も暖かいよ」


胸の前に置いていた手を柚季が握ってきた

そして柚季は握ったあたしの手を、自分の頬に持って行った


「もうどうしたの柚季?」

「……暖かいよ。とっても暖かい」

「……そっか」


とりあえずばれてないっぽいしいいか

それどころか自分から触るのを許してくれたみたい

いや許すって普段から触ったら怒る子じゃないから気にする必要なんてないんだけど

とりあえず、何か言わなきゃ


「……玲香?どうしたの?」


柚季は昨日の所業を覚えてるのかな

直接聞くのも良いけど、せっかくだしちょっと試してみよう


「柚季」

「うん?」

「愛してる」


あたしは柚季に昨日言わされた言葉を改めて言うと、柚季の顔が一気に赤くなった


「えっ!? なっいきなり何をっ!? というかなんで玲香が私のベッドに……?」


今のあたしの一言で目が完璧にさめたみたい。柚季は今の状況をようやく把握した

寝たままきょろきょろと周りを見渡している


「そりゃあここ、あたしの部屋だからだよ? 今気づいたの?」

「うん……あれっ私昨日……うー……全然思い出せないよ……」

「昨日のこと、覚えてないの?」


キスとか王様ゲームとか……あれだけのことをやっておいて覚えてないんだ……

いや覚えていたらそれはそれで起きた瞬間に土下座とかしそうだから覚えていない方が良いかもね

さっきのあたしの”愛してる”の一言の反応も、自分が半ば言わせたような形になったことを覚えていないからだろうね


「うん……全然覚えてないよ……確かまたみんなでパーティーして。みんなでご飯を食べて……あっ片付けしなきゃ!」


柚季が起き上がろうとした

あたしはそんな柚季の肩に手を置いて止める


「柚季っ片付けは大事だけど、一旦置いといて……聞いてくれる?」

「う、うん」


柚季の顔が再びあたしの目の前にやってくる

ちょっぴり困った顔。まあ朝起きてすぐだもんね

でもあたしは今言いたいんだ


「あたし。柚季を幸せにするからね。柚季のことは大好きだし愛してるから。今はまだ仕事も見つかってないし全然頼りないと思うけど。それでもあたしは柚季と一緒にいたいんだ

あたしたちの関係って社会からしたら普通じゃないけど、それでもあたしは柚季が好きなんだよ」


仕事をクビになったあの日、柚季と再会してから

もうあたしの人生に柚季は無くてはならない存在になった

あたしは柚季の彼女として一緒に人生を歩んでいきたい


「もう一回言うね? 大好き、愛してる」

「玲香……」


我ながら恥ずかしい。でも本心なんだよ

だってあたしはもう……毎日柚季のことを考えちゃうようになっちゃったんだよ


「玲香っ……うぅっ……」

「ゆ、柚季!?」


さ、流石に重すぎた? というか先走りすぎた? それかタイミング?

そうだよね! 朝起きてすぐだもんね!

柚季は目に涙を浮かべてあたしを見つめてきた


「ごめん柚季、ちょっとやりすぎたかな……あっ」


柚季があたしの胸に顔をうずめてきた


「私もっ玲香を幸せにするよっ……」

「柚季?」

「っ……ごめんね。私泣いちゃって」

「困ったんじゃ、ないの?」

「そんなことないよぉ……」


柚季が泣いているところを見たのは仕事をクビになった日以来だ

あたしも柚季を泣かせたという罪悪感が一瞬だけ過った

柚季を守って、泣かせないために彼女になったのに

柚季は頭を上げてきた

泣いているけど、それでも顔は笑っていた


「玲香っ私嬉しいの。玲香が愛してくれているのが分かるもん」

「そりゃ、今までもそうだったじゃん」

「今までと今は違うよぉ」


あたしと柚季はおでこをくっつけ合う

キスも良いけど、こうやってくっつくのも良いね

柚季の熱があたしに伝わってくる

柚季にも、あたしの熱が伝わってるよね


「朝起きたら大好きな玲香がそばにいてくれて、優しく包み込んでくれて、優しい言葉もくれて私、今でも十分幸せなのに。これ以上幸せになったらどうなっちゃうのかな……」

「そっか、良かった……引かれたと思ったよ」

「ふふふっそんなことないよ?」


柚季の手があたしの頭に伸びてきて……撫でてきた

あたしは笑顔であたしに腕を伸ばしている柚季を抱きしめた

あたしは柚季を抱きしめて、柚季はあたしを撫でる

柚季の身体はやっぱり柔らかいし温かいなぁ


「私も玲香のこと、その、愛してるよ」

「ありがとう。柚季」

「えへへ。愛してるなんて恥ずかしいよぉ」

「あはは……ね。あたし、頑張るからね」

「私だって玲香の良い彼女になるよ。だから……」

「だから?」

「私、早速昨日の片付けをして、それからご飯作ってくるねっ玲香は待ってて!」

「えっ? 行っちゃうの?」


せっかく柚季の体温を味わってたのにな……


「うんっ! 朝から玲香のエネルギーをもらっちゃったもん。今ならなんでもできそうなんだよっ。だからこのまま昨日の片付けしちゃうねっ? どうせ玲香も美海も全然片付けしてないでしょ?」

「そ、それはそうだけど」

「美海はもう起きてるのかな? ちょっとリビングに行ってくるね!」

「あー……いってらっしゃい」


バタンッとドアが閉まる

柚季はあたしからするりと離れていってしまった

そんなにすぐ片づけなくても良いと思うんだけどなぁ

でも柚季は嬉しそうに家事をするし楽しんでやってるんだろう

それを止めるのはあまりしたくない


「なんで私玲香の服着てるのー!?」


扉の向こうで、柚季の声が響いた

教えてあげたいけどそうすると昨日のあの子の荒れっぷりを説明することになるんだよね

なんとかごまかしておこう。その方が良いよ

あたしは横になったまま手探りでスマホを探したけど見つからず

今が何時かも分からずにそのままゆっくりと目を閉じた

眠い。とにかく眠いんだ今のあたしは

なんでこんなに眠いんだろう……昨日の柚季に付き合ってたからか

今度から柚季にお酒は飲ませないようにしよう……

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