第37話

「それで柚季、本当に王様ゲームするの?」

「うんっ! 3人でぇ王様ゲームするのっ! えへへへへへっ」

「そっかじゃあやろっか……美海?」

「分かってるよ相棒。ちゃんと付き合うってばさ……」


美海も諦めたのか宙を仰いだ。なんだかんだ付き合ってくれるあたりあたしたちは相棒だねっ一緒に粉々になろっか!

……さて、えーっと王様ゲームってことはクジが必要だよね?

王様ゲームってのはクジを引いて、それからみんなで”王様だーれだ”って言う

それで王様になった人がそれ以外の人に命令を出して、出された側はその命令を実行しなければならないあの遊び

……正直酔った柚季とやるのは相当コワイけど、まあ柚季に王様をやらせないように美海と連携を取れば柚季が王様のクジを引かせないようにすることはできるはずだよ


「ねぇ柚季、あたしクジを用意するからちょっと待ってて……」

「もう玲香ぁそんなのいらないよぉ」

「え? でも王様ゲームならクジがないと」


柚季が顔をぐいっとあたしの目の前に向けてきた

あっ……ああもうっあたしってばこんなときまでぇ!


「玲香の言う通りだよ柚季ぃクジがないとゲームできないぜぃ?」

「何言ってるのぉ~? 王様は私っ! ひっく!……2人は王様の言うことを聞いてねぇ?」

「いやだから柚季さんや、それじゃ王様ゲームでもなんでもないと思うぜ?」

「はぁーい! 始めまぁーす! まずはぁ、玲香!」

「は、はいっ!」


あたしは柚季にびしっと目の前で指を指された

柚季の目が完璧に座りきっていてちょっぴり、いやかなり恐ろしいです。はい


「んふふふふ~」

「あの、柚季さん……?」


じりじりと柚季がまたあたしに顔を近づけてくる

強烈なお酒の匂いがあたしを襲ってくる

柚季ぃ……いつもハグしてたときは甘くて良い匂いなのに今はこんなにお酒の匂いに変わってしまったよ……


「玲香はぁ……いつも私に遠慮しすぎですっ!」

「はいっ! ……え?」

「だからぁ玲香はもっと私を愛してほしいの! ひどいよ私はずっと玲香がもっと愛してくれるのを待ってるんだよ? だから玲香はもっと私を愛して! 頼って!」

「柚季……」


柚季はクビになったショックで心に傷を負ったんだ

あたしはそんな柚季をあまり刺激したくなかったから、彼女とはいえ柚季に負担をかけないようにほどほどに接してきたつもりなんだけど

それでも柚季は足りなかったんだ

でも頼るはともかく愛するってどういうことなんだろう……

キスじゃだめなのかな


「柚季さん……私は何をすれば良いのでしょうか……?」

「んー……玲香の服っ!」

「えっ? あたしの、服?」

「そうなの! 玲香の服が欲しいのぉ!」


ついにというか、酔いがさらに回ってきたのか、柚季は駄々をこねはじめた

むーっと頬を膨らませてあたしを見つめてくる


「分かったよ、じゃああたしの部屋から持ってくるから」

「イヤ! 今着てるのがいい!」

「えぇ!? ……こ、これがいいの?」

「玲香、観念した方がイイって」

「わ、分かったよぉ……」


あたしは上着を脱いでそのまま柚季に渡した

柚季は嬉しそうに喉を鳴らしてそれを受け取ると自分の上着を脱ぎ捨てて、あたしの上着を着た


「えへへっ玲香の服ーっ」

「玲香、寒くない?」

「まあお酒飲んだからそんなには寒くないよ」

「へいへい。まあ風邪引いちゃ悪いから私のやつ着なよ」


美海はソファに引っかかっていたどてらをぽいっと私に渡してきた

美海用だけどこれはどてらだしあたしが着ても大丈夫だよね

あぁあったかい……ありがとう美海。頼りになるよ相棒


「次はぁ、美海っ!」

「ひぃっ!」


あたしが美海のどてらの暖かさを味わっていると、柚季が美海をビシっと指さした

美海は心底びっくりしたのかがくがくと震えている


「美海はもっと栄養のあるご飯を食べるべきですっ!」


柚季はさっき指さした方と反対の手でビシっと指さす

両手で指を指された美海はあわわとうろたえている


「へ……へいへい柚季さんや? 私はこう見えても栄養は取ってるんだぜ? ほらあのゼリーとかスポーツドリンクとかバーとかさ?」

「だめですっ! それじゃだめです!」

「何がだめなのさー……」


ぶーっと抗議を声を出す美海を放置して、柚季はローテーブルの上にあったチョコを1個つまんだ

それを美海に見せる

あたしはとっさにチョコの箱を見るとさっきあたしと柚季がキスで使ったチョコだ

あれはウィスキーボンボンじゃなかったからお酒は入ってないよね。少しだけ安心したかな


「だからぁ。私がチョコを食べさせてあげるねっ!」

「食べさせるってどういうことさ。それにチョコも栄養あるわけじゃないと思うぜ……?」

「文句言っちゃいけません!」

「えっちょっと! そのままっ!?」


柚季はチョコを加えてそのまま美海にキスをし始めた

チョコはすぐに2人の口の中に消えてしまった


「んんー! んんっ! んむぅうううううー!」


美海が必死な目であたしを見つめてきた

多分舌を入れられてるんだろうな……

美海は腕を上下にブンブンと振っている

頑張れ相棒、あたしにはどうすることもできないんだ


「ていうか、すごい……」


あたしもあんな風にキスしてたのかな……

いや美海はペットだけどあたしは恋人なんだよね

ということは今の美海以上に激しいキスをしてた可能性もあるんだよね?


「柚季ぃ……」


あたしは自分の胸をおさえた

自分の顔が赤くなるのが分かる

キスしてる柚季もそうだけど、美海も美海でなんであんな顔をするのかなぁ!


「すごく色っぽいよ……美海」


美海は頬を赤くして柚季の激しいキスに応えている

柚季の手は美海を逃がさないために肩を掴んでいたけど、今はお互いに抱き合っている

美海は柚季の背中に腕を回して、柚季は美海の頭を撫でながら抱きしめている


「うん。お酒のせいだよ。きっとそうだよ」


お酒を飲んで、柚季とキスしてからあたしはずっとこんな感じだ

胸がせつなくなってしょうがないんだ


「柚季が欲しい……はっ! いやいやっ」


ぽつりと出た自分の言葉を慌てて取り消す

確かに柚季はあたしの大切な彼女だけど、こんな風に想ったことって初めてだし。なんかその! 変じゃないかな!?

もういいや。スマホ見よう。そうすればこのヘンな気持ちも紛らわせるでしょ

あたしはスマホを取り出していつも見ている求人サイトを開いた

当然だけど深夜でお酒が入った状態だとまともに掲載されている情報が頭に入らなかった

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