第35話

今はあたし、柚季、美海の順番でソファに座っている

真ん中に座っている柚季はあたしと美海の腕を抱きしめて離さないせいで身動きがほとんどとれない。ちょっとだけ痛いよ柚季

抵抗しようにも柚季の力と圧が強すぎて全然離れられない


「れぇ~ぃかぁ~……みみぃ~……ぅえへへへへっ」


柚季はグラスで飲んだお酒に加えてさらにウィスキーボンボンも食べてしまっていた

ウィスキーボンボンの分のお酒も回ってきたみたいで、さっきよりもひどく酔っぱらっていた

どうしよう。この子もう止められないかも

あたしはすぅ……と息を吸って柚季の肩越しに美海に決意を伝えた


「美海、覚悟を決めよう」

「何キリっとした顔で言ってるのさ!? 玲香が諦めちゃったら終わりだって! だからなんとかしてよぉ! 玲香は柚季の恋人だし私の相棒でしょ!?」

「でももうダメだよ。こうなったらね」

「玲香はいつも諦めが悪いのになんでこんなときはすぐ諦めちゃうのさー!」


美海がバタバタと暴れているのを片腕だけで簡単に押さえつけている柚季はもう片方の手でまたチョコを一口食べた

あの箱のパッケージからして今食べたのもウィスキーボンボンだよね……

さっきあたしとのキスで食べたチョコだけは違ったみたい

柚季との、あの激しいキス……

だめだめっ思い出しちゃダメだっていうのにまた思い出しちゃった

柚季はあのキスのことどう思ってるのかな。でも酔ってるしあんまり気にしてないのかも

でも、もしも気にしていたら……また、あんなキスしちゃうのかな


「みぃ~みぃ~」

「なーにゆず……きぃ!?」


あたしは美海の焦った声で現実に戻された

横を見てみると、どこにそんな力を持っていたんだろう、柚季は美海を持ち上げて膝の上に乗せていた

そしてぬいぐるみのように抱きしめる


「あわわわわ……」

「美海は本当にちっちゃくてかわいいねー柚季お姉さんが好きなもの食べさせてあげますからね? 美海はどんなのが好きなのかな?」

「ピザとフライドポテトとゼリー……ぐえええっ!」

「だめですよそんな体に悪いものはぁー! もっと健康に良いご飯を食べなきゃいけませんっ」

「ゆず、ぎ……ぐるじぃ……」

「柚季お姉さんに任せておけば大丈夫っ! 体に良いものたっくさん作ってあげるからねー?」

「く、首が……私のライフポイントが減っていくぅ……」


柚季が美海を後ろから抱きしめている

美海の顔がどんどん白くなっていって……あ、動かなくなった


「ぷはっ……がくっ」

「美海、君の犠牲は忘れないよ……」

「……簡単に相棒を犠牲にしないでほしいなぁ……?」


柚季の膝の上で、パタッと美海が動かなくなった これじゃいよいよサイズの大きい人形みたいになった


「あれー? 美海ったら寝ちゃったの? もっと体力もつけないとダメだよ?」


あんたの力が強すぎたんだよ……

柚季はぐったりしている美海を膝から脇に降ろして、今度は身体ごとあたしの方に向いた


「んふふふふ~……」


柚季さん……目が座ってますよ……?

ひぃ手をつかまれたっ!


「あの、柚季さん……あたしをどうしようと……?」


柚季に見つめられたあたしは全く動けなかった。蛇に睨まれた蛙ってこんな心境だったのかな


「んしょっ……」

「え、柚季? ……うぷっ」


柚季はあたしの膝の上に乗ってきた

そしてあたしと向かい合って、じーっとあたしを見下ろす


「柚季……っ」


やっぱりこの子の胸って大きいよ……

まあ大きさならあたしだって柚季と負けてないし?

なんなら美海だって小さい身長に対して妙に大きいし?

美海はリアクションがオーバーだから普段から揺れまくってるし?

……あたしってばなに張り合ってるんだろ

でも柚季の大きい胸をこんなに近くで、もう目の前だよっ! その、見ると圧倒されるというかえっちというか……

それも自分の彼女のだし、なんていうか。変な気分になっちゃう

あたし今日はそんなにたくさんお酒を飲んだ訳じゃないんだけどな


「んへへへぇ~れぇいかぁ~?」

「は、はぃっ!」

「愛ひてるぅ~私のぉ……ひっく!……大好きな玲香ぁ」

「ゆ、柚季……?」

「玲香はぁ、私のこと好き? それとも愛してる?」

「それどっちも同じだよ……もちろん好きだし愛してる。けど」

「ぶー。そんな言い方は好きじゃない!」


どうして欲しいのさこの子は……!


「もっと優しく、ロマンチックに言って欲しいな? 玲香ならしてくれるよね?」

「え、もっと?」

「うんっ玲香の優しい言葉、ちゃんと聞かせてほしいのっ」


どうしよ。初めてこの子とキスしてからは、恥ずかしさなんてすっかり克服したと思ってたのに今すっごい恥ずかしいしドキドキしちゃってるよ

あたしの膝に座っている柚季はとっても柔らかくて温かくて、酔っていて目はとろんととろけているからいつもと違っていて……


「ゆ、柚季……その」

「ほら頑張って。柚季お姉さんに聞かせて? 大好きな彼女にぃ愛の言葉を聞かせて?」

「うぅ……」


もう逃げられない

柚季の腕があたしの首筋に伸びてきて、髪の付け根から首元までゆっくりと指でなぞってくる

くすぐったくて、それでいてぞくぞくって体が跳ねちゃう

柚季はそんなあたしを目を細めて見つめていた

こんなスキンシップどこで覚えたのさぁ……!


「あたし……柚季が好きっ! 大好きっ愛してるぅ……! 愛してるからぁっ……」


だからこんなの勘弁してよぉ!

イヤじゃないけど、イヤじゃないけど!

……あれ、あたしなんでイヤだと思ってないんだろ

でもイヤって気持ちもあるんだよ? でもやめるのは、もっとイヤなんだよ

あたし、さっきのキスでどうかしちゃったのかな……


「えらいえらい、嬉しいなぁ玲香っ」

「あ……」


あたしの首を撫でていた指がすっと離れていく

そしてその手があたしの頭に乗って、優しく撫でられた

もう。さっきのは終わりなんだ……そっか……

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